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ルバング島の奇跡 陸軍中野学校


■公開:1974年

■制作:東映

■制作:太田浩児、寺西国光

■監督:佐藤純彌

■原作:

■脚本:高久進、神波史男

■撮影:仲沢半次郎

■音楽:小杉太一郎

■美術:北川弘

■照明:桑名史郎

■録音:広上益弘

■編集:田中修

■主演:若林豪、千葉真一

■寸評:

ネタバレあります。


ルバング島で発見された小野田寛郎氏が情報将校だったことから想起されたと思われる帝国陸軍の人間兵器養成物語。

その時代の流行りを素早く取り入れるのが東映の身上です。当時のニュース映像が冒頭に流れ、なぜこの男が戦後29年間もジャングルに潜伏していたのか?というのが映画の内容です。

世間知らずの見習士官たち・若林豪千葉真一夏八木勲南城竜也らは参謀本部から秘密部隊に配属されます。彼らは髪の毛も刈らず、平服で待ち合わせ場所へ待機するように命じられ、そこからピックアップしてもらうのです。なんとも不可思議なことですが、このピックアップトラックを指揮しているのが菅原文太です。きっと、たぶん、とても危険な命がけの任務に就くのでしょう。

若林豪は憲兵・山本昌平日尾孝司によって憲兵隊で取り調べを受けます。どうやら憲兵隊にも、この不思議な部隊のことは知らされていないようで、若林豪を迎えに来たのは陸軍参謀本部でした。お偉方の面接を受けた若林豪は国家に対する忠誠心を試され、その場で一番偉そうな丹波哲郎から合格をもらいます。

何が何だかよくわかりませんが、彼らは軍国主義を叩き込まれている見習士官です。上官の命令は絶対で、天皇のためなら死ねる人たちなのです。疑っても、反抗したりするメンタリティはまるでありません。見習士官たちは秘密部隊に送り込まれます。日々、武道や殺人訓練、火薬の取り扱い、肉体を極限まで酷使する行軍にあけくれる彼らの教官が菅原文太。彼らはスパイであり、ゲリラ戦士としても活躍せねばならないので、理路整然とした真面目な若林豪は、野生の本能に忠実な、というか野生のゴリラに近い千葉真一と時々衝突します。

菅原文太は途中でサイパン島へ配属されて消息不明になり、後半、候補生たちを厳しく指導するのは室田日出男です。なんだか急に安っぽくなりましたが、まあいいや。

いよいよ卒業試験の課題が発表されます。夏八木勲は宇都宮の師団長・玉川伊佐男の暗殺を命じられます。暗殺は成功しましたが夏八木勲は他の兵隊に気づかれて追われます。彼らは身分も軍籍も明かされませんので、脱走した三国人にされてしまいます。夏八木勲は負傷しながら実家の納屋に潜伏しますが、使用人の田舎娘はこともあろうに主家のおぼっちゃま(夏八木勲のことですけどね)を自警団に密告しました。

地方人たちは戦争協力を至上命題としているので、非国民になることや非国民を徹底的に憎むようになっているのでした。相手が地元のおぼっちゃまなのか?それとも脱走した三国人なのか?自警団や村人たちは明確に知ろうともせず、ただ「国家の敵は殺せー!」とばかりに夏八木勲を川へ追いつめて、農機具等で斬殺します。

ところが日本は敗戦、しかし秘密部隊は滅亡する陸軍の最後の悪あがきのごとく活動継続。北方領土の問題でセンシティブになっているソ連大使館に盗聴器を仕掛ける任務を負った千葉真一は警察に捕まってしまいます。任務が失敗したので、裁判になる前に千葉真一は銃殺されます、もちろん表向きは病死ですが。

仲間の屍が累々とするのを見ていた若林豪はすっかり人間兵器と化してしまい、陸軍の決起を内部から誘発しようとしますがヘタレな軍人たち・土山登志幸らはお茶を濁します。特殊部隊の教官になっていた若林豪は自分の部下たちに、占領軍の後方攪乱を指揮しますがほとんどすべての部下たちは脱落します。

山にこもってゲリラ活動を継続しようとした若林豪は、脱走しようとした部下を射殺するのでした。

とうとう日本にマッカーサー元帥がコーンパイプなんかくわえやがって、緊張感ゼロのナメたマネをしくさってやって来ました。

それを見た若林豪は残った部下の高月忠たち数名とともに進駐軍の司令官・オスマン・ユセフを襲撃する若林豪が見たものは、かつて自分の教官だった室田日出男が通訳として司令官の横に鎮座ましましている姿なのでした。なんてこったい!帝国陸軍軍人のなれの果てがこれかよ?!

若林豪は一人で特攻攻撃、進駐軍にハチの巣にされるのでした。心身ともに戦争につぶされた若林豪、彼らを言葉巧みに好戦的な兵器に育成しておきながら、負けたとたんに変節するのなんて全然平気、これで室田日出男が実は作戦続行で司令官暗殺の機会を、うかがっているわけもなく。

そうです、ルバング島から帰還した小野田さんを迎えた上官のみなさん、別に敗戦したからって全員自決したわけでもなんでもありません。小野田さんの同僚は発見の少し前に地元の警官隊との銃撃戦で死んでるんですけどね。

そういうやりきれない戦後処理をセンセーショナルに描く本作品、単なるキワモノ映画として片づけてしまうのは惜しいと思います。ネタは深刻、脚本も血なまぐさい、でも監督が佐藤純彌なので、肩に力が入りすぎることなく淡々と進んでいくのがまた、一段と国家という名の不気味さを強調していたと言っておきましょう。

よほど製作期間が短かったのでしょうが、時代設定は1940年代、しかし彼らの来ている平服、スーツですけど、どう見ても1970年代のナウい衣装だったのは如何なものでしょう?ま、どうでもいいですけどね。若林豪の兄は軍人の梅宮辰夫ですが、髪の毛が丸刈りじゃないのも?ま、それも映画の製作スピードのせいだということで見ないふりしましょうね。

2012年07月01日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2012-07-01