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ビターコーヒーライフ


■公開:2012年

■制作:「ビターコーヒーライフ」製作委員会

■企画:入川保則

■監督:横山浩之

■原作:

■脚本:ながせきいさむ

■撮影:佐藤和人

■音楽:岡本美沙/天海翔

■美術:大島政幸

■照明:佐々木章

■録音:山川邦顕

■編集:

■主演:入川保則

■寸評:

ネタバレあります。


本作品は主演の入川保則の遺作であります。舞台となるのは福島県の白河市、東日本大震災後の福島県で撮影されました。

入川保則がいる喫茶店は近隣で評判のおいしいコーヒーを入れる店です。一人娘の山本ひかるは、なぜか父親である入川保則のこと呼び捨てです。スペシャルなブレンドをしてくれるコーヒー豆店の窪塚俊介は山本ひかるのことが大好きですが、なぜ父親を呼び捨てにするのか謎でした。

山本ひかるの説明によると、自分は入川保則の養女で、実のお母さんはすでに亡くなっていました。入川保則にはかつて奥さんがいましたが、離婚後、母親のもとに引き取られた実の娘の國元なつきとは現在、音信不通だそうです。

ある日、山本ひかるがストーカーに付きまとわれていることが判明、警察に相談しにいくと刑事・江藤潤が応対してくれました。つきまといだけでは身柄を拘束することは不可能、何か事が起こらなければ警察は実効のある手だてが打てないのだそうです。

そして、この一件により入川保則が元本庁の刑事だとわかります。かつては名刑事としてならしたそうで、とうとう山本ひかるに手を出したストーカーの刃物ごときにびくともしない入川保則なのでした。

おお、かっこいいぞ!入川保則。この映画は、末期がんを公表した俳優の入川保則が遺作として自ら企画し、主演をしている映画です。おそらくは入川保則のメッセージですから、実際に起こった事件、ストーカーによる殺人事件が未然に防止できなかった警察のふがいなさを嘆いてのエピソードだと思われます。

入川保則は映画の中でも癌におかされます。

末期がんである彼は、仕事一筋で家庭を顧みなかった過去を反省し、離れ離れになっていた実の娘と和解します。このきっかけを作ってくれたのは山本ひかりと窪塚俊介でした。そして、もう一つ、入川保則は果たしたいことがありました。

それは、山本ひかるの実の父親、かつて喧嘩で人を殺してしまった赤塚真人を探し出して、山本ひかると和解させることでした。 渾身の、本当にギリギリでなんと、技斗までやっちゃう入川保則、ふつうだって70歳すぎたらそんなことしませんよ。

山本ひかると窪塚俊介の結婚式当日、車いすの乗った入川保則が登場します。もうこのあたりからスクリーンがまともに観れなくなりますが、入川保則が最後まで笑顔なのが、これまたたまりません。

秋吉久美子が入川保則の心象風景として登場するのですが、イメージ、にしては存在感がありすぎです。チョイ役で松方弘樹前川清、そして赤塚真人を探しに東京へやってきた入川保則が訪ね歩く先に、石田信之が顔を出します。これがまた、いい芝居で入川保則を見送るので、お見逃しなきよう。

映画の中で遺影になった、山本ひかるの結婚式の記念写真を撮影するのは金剛地武志、一緒に写真に納まった山本ひかると國元なつき、女優さんですからちゃんと笑顔ですが、その笑顔に決意を感じてしまいました。

入川保則は本作品の一般公開を待たずに亡くなりました。映画と実人生が同時進行していた状況で、共演者はやりにくい面もあったでしょうし、思い入れが強すぎる分、映画として破綻しているところもなきにしもあらずなのですが、監督の意思が最終判断となる映画という道具を使って、最後の最後に思いのたけを語った入川保則の人柄を偲ぶことにしましょう。

ひょうひょうとした、でも、最期までかっこいいおっさんだった入川保則に感謝です。

2012年05月26日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2012-05-26