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母の旅路


■公開:1958年

■制作:大映

■制作:永田秀雄

■監督:清水宏

■原作:川口松太郎

■脚本:笠原良三

■撮影:秋野友宏

■音楽:斎藤一郎

■美術:山口煕

■照明:安田繁

■録音:三枝康徐

■編集:

■主演:三益愛子

■寸評:

ネタバレあります。


「母物」とは?

母性愛、つまり我が子が一番という思想を持つ主人公が活躍するドラマであります。そのために、他人を犠牲にするのではなく、概ね母親の自己犠牲を伴うことになっており、結果として涙を誘うことになっています。

映画は理想を視覚化したものですから、共感できなくても御伽噺みたいなものだと思えば楽しめます。

「母の曲」は無学な母親の英百合子がセレブ旦那の岡譲二とその娘の原節子の将来のために美貌のセレブである入江たか子にその将来を託して身を引く話でしたが、本作品はそのリメイクのような内容となっています。とは言え、母物は単純なお話が多いのできわめて類型的ではありますが。

佐野周二は大企業の経営者の後継者に決まっていましたが、戦争中に外地で世話になったサーカス団の団長の娘・三益愛子と結婚して、内地へ戻り、サーカス団の経営者になりました。団長と言ってもこれといって何か芸があるわけではないので、マネージャーとして機能しているわけです。出自がビジネスマンの家庭ですから、なんとなくそういう才能はあったんじゃないでしょうか。

現場の取り仕切りは、小さい頃から空中ブランコ乗りとして活躍していた妻の三益愛子が担っています。中学生になる一人娘の仁木多鶴子は母親譲りの運動神経と門前の小僧で空中ブランコにも乗れますし、抵抗のなさそうです。反面、学業優秀だったお父さんの頭脳も継承しているので学校の成績もよく、有名私立への進学も可能とのことです。

実家からの呼び出しもあり、娘は旅暮らしではなく定住させて良い学校へ通わせてやりたい、佐野周二は団長を辞めて、父親の会社を継ぐことになりました。三益愛子は生まれてはじめて落ち着いた生活をすること、うっすら意識はしていましたがあまりにも異文化に入っていくことに抵抗を感じつつ、娘の将来の選択肢を増やすために、サーカス団を伊沢一郎に預けて、佐野周二と一緒に暮らすことにしたのであります。

仁木多鶴子はセレブ女学校へ入学しました。クラスメートのお母さんと三益愛子と比較すると、その、あまりにも庶民的な感覚やフランクな言動に一抹の不安を抱く仁木多鶴子。その不安は早々に的中します。PTAで問題発言、いや、問題というよりセレブ的に馬鹿にされちゃうという意味の問題発言、他のお母さんたちからひんしゅくを買ってしまう三益愛子でありました。

藤間紫は戦前、佐野周二となさぬ仲だったようですが、今では他人の妻です。その娘・金田一敦子を見ればわかるように、包容力があり温厚で上品な、ホンモノのセレブである藤間紫は三益愛子というよりは仁木多鶴子を母娘でフォローしてくれました。

しかし、現実は非常に厳しい。仁木多鶴子が開催したお誕生日会には金田一敦子しか来てくれませんでした。三益愛子は自分の「育ち」が娘に悪影響を与えているような気がしますが、それでも持ち前の気の強さでなんとか挽回を試みます。

佐野周二の社長就任パーティーで、場を盛り上げようとして、本芸の皿回しを披露してしまったことで決定的なダメージを父と娘に与えた三益愛子は家出してサーカスへ戻りました。

サーカスは三益愛子を暖かく迎えてくれました。伊沢一郎、それに若手の空中ブランコ乗りの柴田吾郎(田宮二郎)も活躍しています。三益愛子は迎えに来た仁木多鶴子に伊沢一郎と再婚するという嘘話をして、別れようとします。

しかし仁木多鶴子はあきらめません。大好きなお母さんに会いたい一心で、お友達と一緒に巡業先で観客にまぎれてサーカスを観に来ます。と、そこで三益愛子が娘の姿に動揺、落下して負傷してしまうのでした。いきなり代役を務める仁木多鶴子、あっという間に母娘の和解が成立。

しばらくサーカス団でリフレッシュしてから佐野周二のところへ戻る約束をして、母と娘は笑顔で別れたのでありました。

いやいやいやいや、三益愛子が優遇されすぎなんじゃないですか?

「母の曲」のリメイクは何度目だ?というくらいの母物鉄板ストーリーらしいですけど、本作品では無教養だけど性格が良い、庶民的なだけでセンスは悪くない、というふうにことごとく三益愛子がステキな人になっています。鈍感な英百合子のオリジナルにはイライラさせられっぱなしでしたが、本作品くらい鼻っ柱が強いほうが見ていてストレスにならないのでよいのかも知れませんが、正直、まったく泣けませんでした。

まだ本名で出ていた柴田吾郎が、空中ブランコの衣装、つまりピッチピチの全身タイツで登場。実際に空中ブランコに乗るところはありませんが、その姿があまりにもモッコリだったのでビックリでした。「スーパージャイアンツ」の宇津井健、「月光仮面」の大瀬康一と並ぶ、三大モッコリと認定いたします。

2012年05月02日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2012-05-02