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斬人斬馬剣(短縮版)


■公開:1929年

■制作:松竹キネマ(京都撮影所)

■制作:

■監督:

■原作:伊藤大輔

■脚本:伊藤大輔

■撮影:唐沢弘光

■音楽:

■美術:

■照明:

■録音:

■編集:

■主演:高田稔

■寸評:平成24年現在、復元された20分程度のプリントを見ることが出来ます。

ネタバレあります。


この映画には馬がたくさん出てきます。

馬にとっては何の責任も無いのですが、黒い馬=悪役、白い馬=正義の味方となっておりますので、入り乱れても一目で区別がつく親切設計です。

蛇足ですが、白い馬は性格が悪い(注:あくまでも乗馬として、ですが)のにしか乗ったことがありません。草食動物の馬は群れていることで自分が敵から狙われる確立を下げようとするらしいのです。そこで毛色というのは重要な情報となります。つまり「目立っちゃう馬」は仲間からすると疫病神ですので、珍しい毛色である葦毛(白い馬のこと、多数派は鹿毛=茶色)がいると、馬は本能的に苛めたりするらしいですよ。

代官所から多額の米を要求されて困っている農村がありました。その、代官・関操は城主が病気で跡継ぎ候補の筆頭である若君がまだ子供なのを良い事にやりたい放題しているのです。

つまりこの藩は全部が全部悪玉ではないということを覚えておきましょう。

白い衣装の(ここポイントね)の浪人・月形龍之介は村はずれの荒れ寺に、親友の浪人・天野刃一と一緒に天衣無縫に生きていましたが、農民達の苦労を知り「仏のお慈悲は見えないところにある」と意味深に笑って、藩の奸臣を闇討ち、とはいえ重傷を負わせてビビらせるを繰り返していました。

意を同じくする天野刃一も協力しますが、凄腕の剣豪である月形龍之介は圧倒的に強いのです。

恐怖におびえた代官と奸臣たちは食い詰め浪人を金で集めて闇討ち犯人を捜して討伐しようとします。しかし、やっぱり強いぞ月形龍之介、しかし彼は本当に悪い奴しか斬りません。襲撃してきた浪人に「なぜ斬るのか?」と質問します。

すると浪人は「飯を食うためだ」と答えます。ここで月形龍之介はひじょうに理論的に本質を指摘するのです。「その飯は何から作る?」「その米は誰が作る?」いくら金があっても農民がいなければご飯は食べられませんよ、だからそのために米を作る農民を苦しめるのはオカシイの思いませんか?と自覚させるのです。

物事の本質を理解させるシンプルで実感を伴う説教の仕方は自己中心的で短慮な社員の取り扱いに難渋しておられる会社の人事担当者にも学んでいただきたいものであります。

天野刃一もこの方法を踏襲して浪人を諭そうとするのですが、中には頭の悪い浪人もいるしそうはカンタンにこの説教を訊かない浪人もいます。あと、肝心の天野刃一がイマイチだったりするので今夜は途中で反撃されてしまいました。

そこへ駆けつける月形龍之介「俺を斬ったらいくらもらえるんだ?」おっと、今度は具体的な報酬金額から責めるようです。テクニシャンだぜ!月形龍之介!

月形龍之介の説得は「確かに成功報酬は約束されているけれど、返り討ちにあって失敗したときの補償が確約されていないのは、君が大損する可能性があるのだよ?それって割が合わないと思いませんか?」

食い物で言うこときかないなら、今度は生命で説得、なんてわかりやすい説教でありましょうか!?

藩の中央にもちゃんとしてる人はいるわけで、それは親の悪行にキレた、いや、憤怒して立ち上がった代官の息子・石井貫治なのであります。

焦った代官と奸臣一味は村の娘達を奉公に差し出せということになります。それはいい話じゃないの?いいえ、違います、行儀見習いなんかじゃなくて夜のお供をさせられるのです。娘達に綺麗な着物を着させて宴席で踊らせ、品定めをする代官一味。

こういうドスケベなところもないと倒されるときのカタルシスが減りますから、徹底的にエロ目線ギラギラだったりするのです。

月形龍之介と協力して白い馬軍団を形成、非道な宴席へ踏み込んだステキな若侍である代官の息子は村の女達を助けましたが、中にはショックで頭が壊れてしまった娘もいました。

いよいよ世継ぎを暗殺して藩政を牛耳ろうということになったので、代官と病気になった城主の愛称・伊藤みはるは若君のオヤツに毒を盛ります。何も知らない腰元連中が運んできた美味しそうなお饅頭に手を伸ばす若君、そらもうただのガキんちょですから甘いモノには目がありません。

しかし、そこへまたもや駆けつけたのは月形龍之介は。殿を救い出すと、暴徒化した農民たちと藩の役人たちが対立して一触即発になっている現場へ駆けつけました。若君の鶴の一声で騒ぎは収束しましたが、代官たちは悪あがきします。

暴動の首謀者を河原で磔刑にしようということです。げー、ひどーい!たくさんの十字架がすでに墓地のように不気味です。カッコいい石井貫治は処刑の中止を命令する書類を持って今まさに処刑が行なわれそうになっているところへ駆けつけたのでありました。

悪い一味は月形龍之介と石井貫治の活躍で一掃されました。若君は月形龍之介を採用したいと思うのですが、成功報酬には興味が無い月形龍之介は親友の天野刃一に「救世主に祭り上げられるのはゴメンだよ♪」とカッコよい台詞を吐いて去っていくのでありました。

自己犠牲を厭わず人のために働き、賞賛や報酬などの見返りを求めない、これぞカッコいいヒーローというものです。

戦前は農耕馬や軍馬がたくさんいたのでありましょう、騎馬戦のシーンに集められたサラブレッドと思しき馬の数と品質には目を見張ります。あの頭数と乗り手を集めるのも現在では大変でしょう。だって当時は一発勝負のフィルム撮影、ロングとアップ(一部は自動車の台車と思われるところに固定された作り物)をダイナミックに繋いだ馬の疾走シーンは馬映画好きにもオススメです。

時代劇が世代を超えて受け継がれるのは、普遍的なストーリーが多いからで、現代モノでは鼻白むような説教でも、ちょんまげつければ生活感が無くなってスンナリと受け入れられるからです。

戦前に活躍していたみずみずしい俳優、躍動感溢れる野心的な監督、しかし残念ながら現存するサイレント映画が制作されてしばらくすると日本は戦争をはじめてしまい、彼らの貴重な時間が消費されてしまっただけでなく、本作品のように、無数の映画作品が焼失または散逸してしまったのはなんともやり切れないところです。

平和な時代にこの作品を観られるありがたみをしみじみと噛みしめましょう。

21世紀になって、断片的にしてもフィルムが発見されたことと、修復に携わった方々の努力に対して深く感謝する次第です。

2012年05月06日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2012-05-06