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リングの王者 栄光の世界


■公開:1957年

■制作:新東宝

■制作:佐川滉

■監督:石井輝男

■原作:

■脚本:内田弘三

■撮影:鈴木博

■音楽:斎藤一郎

■美術:小汲明

■照明:傍土延雄

■録音:中井喜八郎

■編集:

■主演:宇津井健

■寸評:

ネタバレあります。


梶原一騎原作の「あしたのジョー」ならさしづめ、力石徹と稲葉粂太郎の中間(複雑だ・・・)な役どころを演じた細川俊夫は、元々アスリート。東京オリンピックで競歩のコーチもしてたくらいの本職(プロ)。ちなみに本名は芸名よりもカッコいい細川常憲、どっかの殿様みたいで本人のイメージにピッタリです。

さて、前置きはここまで、本題です。石井輝男監督、第一作目はスポ根です。

スポーツ記者の伊沢一郎の推薦もあって、ボクシングの才能を高く評価されていた宇津井健は魚屋さんの息子です。母子家庭で妹弟の面倒もみないといけない宇津井健の人生に博打は許されません。それに、最悪の場合はパンチドランカーになってカーロス・リベラみたいになったら廃人になるボクシング選手なんてお母さん的にも、もってのほかでした。

それでもあきらめきれない伊沢一郎(と宇津井健)は元プロボクサーで今はバーテンをしている中山昭二に宇津井健を紹介します。宇津井健は足が悪い妹のために手術費用が欲しいので、高いファイトマネーを狙ってプロボクサーになることにしました。しかしチャンピオンになって収入が得られるのは何万人に一人くらいの倍率、そんな甘いもんじゃないと中山昭二に説教されてしまいました。

さて、ここで梶原一騎の「あしたのジョー」を思い出した方々も多いことでしょう。

貧乏脱出大作戦の手段としてボクシング、ただし、宇津井健は品行方正なので少年院に送られたりはしません。

中山昭二を師と仰ぎ、宇津井健は晴れてボクシングジムの練習生となりました。俊敏な動きで汗を流す他の練習生達の中で、スリムとは言えない宇津井健でしたがなかなか良いカラダです。

宇津井健の役は、当初、若杉英二がやるはずでしたが、巨漢でムチムチの若杉英二では設定がヘビー級でもいかがなものか?ということになって宇津井健に代わったという話も伝わっております。

そう、つまり、この映画の主役はカラダで決まったということを覚えておきましょう。

技術的には発展途上にある宇津井健に対して、このジムのトップは、現在のところ日本チャンピオンの細川俊夫なのでした。

え?ええっ?あのインテリジェンス溢れる226の叛乱将校とかやってた細川俊夫がボクシング?

ところがあにはからんや、タンクトップになった細川俊夫の上質な筋肉にはかなり驚きます。この人は本当のアスリート、モノの本によるとボクシングの経験者でもあるそうです。

初顔合わせのスパーリングでは細川俊夫にこてんぱんに打ちのめされる宇津井健。ボテ腹に拳を叩き込まれて悶絶KOなのでした。

しかし、やられてばかりじゃヒーロー映画は成立しません。カワイイ恋人の池内淳子に励まされると無邪気に張り切る脳天気さ、いや、おおらかさと素直さ。しかし、ボクシングは男の世界、女は禁物。というわけで池内淳子との交際を禁止されてしまいましたが、そのストレスが良い方向へ向いたのでしょう、猛練習を積んでプロデビュー、宇津井健は連戦連勝で頭角を現わしてきました。

途中、お色気爆弾の若杉嘉津子にふらつく宇津井健。

しかしそこは映画ですから、宇津井健は女の誘惑を振り切って、細川俊夫と再戦します。

あきらかに、細川俊夫のほうが強いじゃん?上手いじゃん?宇津井健、ダメダメじゃん!

流麗なスウェーで宇津井健のパンチをかわす細川俊夫を、どう見ても猫パンチのラッシュでボコボコにした宇津井健は、ついに日本チャンピオンになるのでした。

「ボクシングはいかにパンチを当てるかということよりも、パンチを避ける技術のほうが大切だ」とジョー小泉さんが言っていたので、たぶんそうです。素人目にもサマになっているのは細川俊夫でした。

ボクシング業界のダークサイドを体現する暴力団な興行事務所のマネージャーが御木本伸介、無口というか台詞が無い手下の天知茂、無駄にシャープな表現はやたらと目立ちました。

宇津井健は馬術業界では有名、早稲田の馬術部の出身ですし、超大作「秦・始皇帝」でも見事なテクニックを披露しますが、格闘技のセンスは無かったことが本作品で証明されてしまったのは皮肉な結果というところでしょう。

2012年01月15日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2012-04-08