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赤い鷹


■公開:1965年

■制作:松竹

■制作:今泉周男

■監督:井上梅次

■原作:真山青果

■脚本:松浦健郎、井上梅次

■撮影:小杉正雄

■音楽:小川寛興

■美術:宇野耕司

■照明:中村明

■録音:佐藤広文

■編集:杉原よ志

■主演:橋幸夫

■寸評:

ネタバレあります。


「赤い鷹」なんていう胡散臭い名前から寒い国のスパイ組織ではないか?と想像しましたがまるで違いました。

井上梅次監督はミュージカル風の映画を多く監督しましたが、台詞を音楽的に歌うのではなく全てを音楽で解決しようとする強引さのほうが目に付いてしまい、結局のところ日本にミュージカル映画が根付かなかった理由の象徴になってしまったのは否めない実績です。

大学のラグビー部出身の橋幸夫はOB・菅原謙二のツテを頼って就職した新聞社で熱血ジャーナリストとして体当たりルポをすることになりました。イカすファッションに身を包みやって来たのはゴーゴー喫茶、そこで出会った新子・倍賞千恵子に誘われてホテルに入ったまでは良かったのですが、流行の睡眠薬プレイで爆睡してしまいました。

翌日、ライバル紙の肴にされたことを知った橋幸夫が抗議に赴くと、倍賞千恵子の正体は新進気鋭の新聞記者なのでした。

なんとか倍賞千恵子を出し抜こうと考えた橋幸夫は、古参ヤクザと経済ヤクザが対立している下町のルポを計画しますが、取材先の組事務所でまたもや倍賞千恵子とハチアワセします。

露骨にワケありを観客に知らせてくれる古老・河野秋武に続いて、地元で製材業を営むヤクザの若大将・待田京介が登場。表向きは組を解散していますが、土地の買占めで一山当てようとしている山路義人のわかりやすい悪企み、東京都の管轄だけどガードが緩そうな大島で開催された非合法な賭博に潜り込んだマドロスな橋幸夫とその情婦な倍賞千恵子。

ただでさえ芝居がヘタクソな橋幸夫を、さしもの芸達者な倍賞千恵子もフォローできず正体がバレたところでヤキを入れられそうになりましたが、そこへ待田京介が無駄にカッコいいシャープな技斗で助けに入り、橋幸夫との因縁をちらつかせました。

なんと待田京介と橋幸夫は実の兄弟、ヤクザ組織に男兄弟がいては後々の災いのタネになるからという理由で一般家庭の養子になった橋幸夫は大学まで行かせてもらって、恋にスポーツに天真爛漫な青春を謳歌してました。一方、親の稼業を継がされた待田京介は命のやりとりの日々、このままでは恋仲の山東昭子とも夫婦になれそうにないと、陰々滅々な青春の日々を送っていたのでありました。

なんというイカサマ臭いエピソードでしょう、山路義人の陰謀で待田京介の子分だった諸角啓二郎が裏切り、河野秋武が悪いヤクザに闇討ちされて、化けの皮がはがれた経済ヤクザといよいよ一触即発の危機。

乱闘の最中に現れた橋幸夫の口から飛び出したのは歌!

この唐突さに観ているこっちは茫然自失、ついでに大爆笑であります。

すごいぞ、橋幸夫!歌の威力で双方の戦闘意欲を奪い、なんと待田京介までが歌いだしました。

どこかで、観た、不良の戦いを歌いながら制止してあげくにみんなで踊り出す!そう、これはマイケル・ジャクソンの「ビートイット(Beat it)」(1983年)のプロモーションビデオにパクられたという伝説の作品なのです、ウソです、今、ウソを言いました。

というわけで、兄弟の乱闘による和解もあったりなんかして、違う道を歩むことにはなったけれど、互いにまっとうな人生を送りましょうというまことに御目出度いエンディングです。

ちなみに、せっかく出てきた菅原謙二ですが、ラグビーの場面に見るべきものは何もありませんが(実際のところスクラムで潰されるだけ)たまたま料理屋でヤクザの団体と乱闘になったときの柔道技はさすがに決まってました、ただし、本筋には何の影響もありませんが。

基本、アイドル映画ということで東宝の若大将シリーズを髣髴とさせてしまいますが、ケンカを歌で制御する唐突さは井上梅次ならではの手法だったということにしておきましょう。

そう、監督にとっては歌を添え物にするのではなく、歌を主役にしたかった、その熱意だけは買いましょう。

金子信雄が、のんだくれですが気骨のある雑誌社の社長として活躍します。山路義人の情婦でキャバレーのナンバーワン・北条きく子は橋幸夫を誘惑する役割を引き受けているうちに、その純朴さに己の悪行を恥じて改心する結果的に味を残す善玉でした。

たぶんバーのカウンターに座っていた客の一人が井上梅次監督だと思われますのでチェックしてみてください、この人、カメオ出演好きだなあ。

2012年03月18日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2012-03-18