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くちづけ


■公開:1957年

■制作:大映

■企画:原田光夫

■制作:永田秀雅

■監督:増村保造

■原作:川口松太郎

■脚本:舟橋和郎

■撮影:小原譲治

■音楽:塚原哲夫

■美術:下河原友雄

■照明:米山勇

■録音:須田武雄

■編集:

■主演:川口母子&嫁

■寸評:

ネタバレあります。


増村保造のラブコメ映画は、キャスティングのおかげでなんとなくグロテスクな仕上がりになってしまいました。

政治狂いで甲斐性無しの亭主・小沢栄太郎に愛想をつかして離婚、有閑マダム相手に宝石ブローカーを始めた妻・三益愛子、その息子でアルバイトでヒーコラしてるわりには苦労が身につかない川口浩、そして、その川口浩と運命的な出会いをする貧乏娘・野添ひとみ

ついでに原作は川口松太郎、ギャグですか?このキャスティング。

小菅の刑務所に投獄されている小沢栄太郎は弁護士・見明凡太朗 のアドバイスにより10万円の保釈金で出所できるらしいのですが、川口浩にはとうていそんなお金は工面できそうにありません。同じく、役所の金を使い込んでしまった父親の面会に来た野添ひとみは、差し入れのお金を恵んでくれた川口浩のあとを狂ったように追いかけてきます。

彼女はいわれのない同情をしてもらうのはイヤなのですがそれにしても必死で走ります、怖いくらいです、実際のところ「この恋、逃がしてなるものか!」という実生活の状況と地続きのような気もしますが。

野添ひとみの母親・村瀬幸子は肺結核を患って療養所にいます。父親は治療費ほしさに横領事件を起こしたのであって、事情も事情だけに使い込んだお金を弁償すれば、とりあえず出獄できるそうです。その、横領した金額が10万円。

川口浩は野添ひとみの執念に根負けして一緒に行った競輪場で大穴を射止めて、そのお金で一日デートを楽しみます。ビーチで遊んだその夜、野添ひとみに馴れ馴れしく声をかけてきたのはガタイのいい、おぼっちゃん風の不良・若松健でありました。

ホンモノのボンボンである川口浩が赤貧で、金の力で野添ひとみをモノにしようとしているお坊ちゃまと対決するという皮肉な流れですが、実は、若松健の父親は有名な画家で、野添ひとみはその絵のモデルをしているのでした。

野添ひとみは貧乏なわりにはアイラインばりばりで、いつまばたきするんだろう?というくらい大きな瞳をひん剥いているわけで、彼女の一途な行動はともすれば健気というよりは、馬鹿なんじゃないの?という異常性を秘めて描かれます。

若松健がいよいよお金で野添ひとみの身体を買おうかという夜、川口浩は疎遠だった母親のところへ泣きついて「俺を買ってくれ」とかなんとか威勢はいいけど意味不明な理由で金を借りて駆けつけ、恋人の貞操の大ピンチを救ったのでありました。

三益愛子といえばお涙頂戴の母物の女王と呼ばれておりますが、先輩の英百合子のような鈍感さではなく、計算づくという感じがして、あまり感動できなかったのですが、本作品のように現実世界と同時進行されると、観てるこっちは馬鹿みたいなもんで、あらためてこの母と息子はタダモンじゃねえなと思う次第です。

昔の現代劇を観る楽しさは当時の風俗が切り抜かれているところで、ローラースケートやダンパ、三輪トラック、ノーヘルメットでバイク二人乗りという現行の道交法ではアウトですが、リッチじゃないけど(いや、リッチだけど)自由を謳歌する若者の恋愛事情を知ることが出来る資料性は高いのでした。

2012年02月20日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2012-02-20