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夜の配当


■公開:1963年

■制作:大映

■企画:中島源太郎

■監督:田中重雄

■原作:梶山季之

■脚本:田口耕三

■撮影:高橋通夫

■音楽:木下忠司

■美術:千田隆

■照明:田熊源太郎

■録音:奥村幸雄

■編集:中静達治

■主演:田宮二郎

■寸評:

ネタバレあります。


田宮二郎の映画は難しい。というよりも田宮二郎が演じる役に市井の人々が共感することはとても難しいのです。

この大スタアは原則として同性のウケが圧倒的に悪い、立身出世のためには愛情を犠牲にすることなんて全然平気な色悪、つまり田宮二郎の賛同者は田宮二郎しかいないという役どころを多く演じた稀有なスターであります。

化繊メーカーの大手企業でスポイルされた平社員の田宮二郎は、元同僚である藤由起子に頼んで未発売の新製品の商品名に関する情報を入手、商標登録を先願して、その使用料を同社の重役である常務・山茶花究からせしめようとします。

田宮二郎は法律の専門家である弁護士・高松英郎と組んで「トラブルコンサルタント」なるビジネスを開業、ようするに合法的なマッチポンプというビジネスモデルです。電話一本(しかも共用)で怪しげなビルの一室にオフィスを構えます。ちなみに電話を共有しているお隣さんは「韓国友好の会」といいます。電話番は三角八郎、馬鹿そうですがウソはつなかさそうです。

山茶花究と田宮二郎の元直属上司である早川雄三が商品名の使用料として差し出した金ですが、一歩間違えると、いや、間違えなくても恐喝にあたるかも知れないので田宮二郎は二人から、使用権の提供に関して同社の感謝状を取り、あくまでもビジネスの一環であるという証跡を残したのでした。

さすが経済省小説の梶山季之の原作です、抜かりはありません。

そもそも田宮二郎がそこまで会社に恨みを抱く理由は、山茶花究が会社の金を横領して、愛人・角梨枝子に料亭を経営させ、自社の接待に活用し、キックバックまでもらっている公然の事実があるのに、権力を振りかざして歯向かうものをバッタバッタと閑職へ追いやっているのに憤慨したからなのでした。

ところで田宮二郎は、その巻き上げた使用料を、病身の弟を抱えて苦労している藤由起子にプレゼントしたのでした。彼女が田宮二郎に協力したのは、生活苦だけでなく彼への愛情の証であることを、理解しているのかしていないのかまだ微妙な田宮二郎でありました。

このままですと正義の元サラリーマン、田宮二郎の勧善懲悪ストーリーになるところですが、そうはやすやすと問屋は卸さないものです。

感情的になりさらなる復讐を企む田宮二郎が怖くなった藤由起子も会社を退職しました。そこで田宮二郎は新たな内通者として、会社専属のデザイナー・浜田ゆう子を誘います。浜田ゆう子は才能のあるデザイナーでしたが、ことあるごとに盛りの過ぎたチーフデザイナーにデザインを横取りされてムカついていたのを知っていた田宮二郎が彼女の協力を得るのはたやすいことでした。

田宮二郎が世話になっていた宣伝部長が商標権の漏洩の責任を取らされて、酒に溺れて自殺しました。それって実は、田宮二郎の責任だと思うのですが、前しか見えない田宮二郎にはますます山茶花究が憎い敵に思えてくるのでした。

会社の工場用地の情報を得た田宮二郎はまたもや先手を打って山茶花究を出し抜いたのですが、窮地に追い込まれた会社側はダーティーな揉め事解決を請け負っていたヤクザたちを差し向けました。しかし、バス停で横入りしようとしたドカチン・橋本力を腰投げにするくらい強靭な田宮二郎には効果なし。返す刀で、ヤクザは警察に目をつけられました。

角梨枝子に誘惑させる作戦も、女性経験がリッチな田宮二郎に反対にオトされてしまいました。

万事休すかと思いきや、田宮二郎のアキレス腱は藤由起子だったのです。彼女の前では純情になってしまう田宮二郎、しかも彼女の愛情が裏目に出てしまい、田宮二郎はとうとう詐欺罪で逮捕されてしまいます。

藤由起子の涙で救われた田宮二郎でしたが、かつて彼を利用していたライバル企業が手のひらを返して、山茶花究の会社と合併してしまいました。日本企業の黒い倫理観に愛想をつかした田宮二郎は、山茶花究の会社の新製品に特許侵害の事実があることを調べ上げると、村社会の付き合いが通じない外資系企業の手先となってついに山茶花究を退陣に追い込んだのでした。

なんだかんだ苦労したけど、企業体としては山茶花究、一匹ですんだのですから、何にも変わってないんですけどね。

大企業を食い物にするのはサラリーマンにとっては一種のロマンですから、主人公にはぜひ成功して欲しいものだと思います。しかしカッコよすぎる田宮二郎が主演なので、なんとなく失敗しないかな?なんて期待を持ってしまうのも事実です。結局のところは、大金と名誉と藤由起子をゲットしちゃうのですから、憧れ通り越して嫉妬されても止むなしです。

商標権、特許権、用地買収、はては会議メモの処理はシュレッダーで、みたいなコンプライアンス重視の話まで出てくるので現在、会社にお勤めの皆様には大変に身近な映画です。各企業の総務部の皆様におかれましては、社員教育用に活用されてはいかがでしょうか?かなりゴージャスな教材ビデオになっておりますよ。

2012年01月01日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-12-31