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脂のしたたり


■公開:1966年

■制作:大映

■企画:原田光夫、財前定生

■監督:田中徳三

■原作:黒岩重吾

■脚本:高久進

■撮影:中川芳久

■音楽:池野成

■美術:高橋康一

■照明:渡辺長治

■録音:須田武雄

■編集:関口章治

■主演:田宮二郎

■寸評:

ネタバレあります。


戦後のどさくさに両親を殺された女の復讐譚。主役の田宮二郎が完全に蚊帳の外というのが珍しいと言えないこともありません。

証券会社の調査部員ってようするに会社の屋台骨が揺るがないように暗躍するCIAみたいなものらしいです。で、その調査部員である田宮二郎は、本名も住所も伏せたままでたいしたことない会社の株券を大人買いする冨士眞奈美の身辺調査に乗り出します。

当然ですが、田宮二郎なので職能的な目的の他に色恋沙汰も当然含まれます。ええ、二枚目のやることなんてそんなもんですよ。

間違ってもお相手は「平成の冨士眞奈美」ではありませんよ。

さて、その冨士眞奈美とホテルのロビーで面会していたのが能面のように無表情な成田三樹夫でした。さらに調べていくと、彼女の面倒をみているのは三国人の金子信雄、たいしたことない会社の株の買占めには田宮二郎の勤務先とはライバル関係にある証券会社の社長・須賀不二男も暗躍中であると、後輩の山下洵一郎から報告もあり、そんな胡散臭いオッサンたちと、可憐な冨士眞奈美の?がりが、どうにもこうにも不可解であると考えた田宮二郎はさらに、彼女に接近するのでありました。

成田三樹夫の正体は、田宮二郎の元カノである久保菜穂子が雇われているバーの支配人であるらしいのです。そして久保菜穂子は田宮二郎に愛想をつかして、ていうか、強引傲慢なキャラについていけなくなり今では、安全確実なお父さんタイプの鈴木瑞穂の女になっていました。

鈴木瑞穂もまた証券業界では情報屋として、田宮二郎もリスペクトする実力者でした。その鈴木瑞穂は、たいしたことない会社の乗っ取り作戦の情報をすでに掴んでおり、恋の怨讐を捨てた田宮二郎は彼と手を組みますが、その矢先、鈴木瑞穂と、乗っ取り作戦に一枚噛んでいたらしい、たいしたことない会社の取締役、さらには久保菜穂子までが殺されてしまうのでした。

実際、田宮二郎が独り相撲で悶々としている間に、次々と関係者が殺されるわ、冨士眞奈美の過去が暴かれるわ、はっきり言って、ダメじゃん!田宮くん!という感が無きにしも非ずです。わりとカンタンにボコられちゃうのもアレだし。

現代の企業乗っ取りの事件の根っこが、大陸で現地人から金品を強奪していた一味の暗躍に結びつくところがかなり強引なのと、金子信雄が冨士眞奈美の面倒をみていた理由が、危険防止のためなのか、贖罪の気持ちなのか微妙なのもドラマをややこしくしています。

さらには彼ら一味が、武器の密輸で甘い汁を啜ろうとしていた極悪人だというのも、彼らの狡猾さよりも、行動のほころびが目立ちまくるので、こんな間抜けな連中がそんな凄いことできるんだろうか?と見えてしまいます。すべてを視覚化しなければならない映画の弱点ですね。

いよいよ田宮二郎の命を直接取りに来た成田三樹夫が返り討ちにされ、彼らの過去の一切合切を告白しますが、そのドラマは冨士眞奈美が完全に主役であり、側で聞いてる田宮二郎がかなり間抜けで、とうとう悲劇を食い止められずに終わってしまうのも、如何なものか?と残念でなりません。

田宮二郎と冨士眞奈美の恋愛の盛り上がりもいまひとつ、ドラマは壮大なのですが結局、どのエピソードもかなり薄くなってしまったような気がします。

すべてが決着した後で、田宮二郎がさらに兜町にいたいという動機もわかりませんし。

とにかく、どこいらへんに脂がしたたってるんだろうか?と思いますが、黒岩重吾本人が闇ブローカー出身ですから、投資家や死の商人という輩の意地汚さを表したものであると思われますが、そのあたりのクドさを表現するのに田宮二郎では下品さが不足というところなのでピンとこないのですね、きっと。

2012年01月15日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2012-01-15