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豚と金魚


■公開:1962年

■制作:東宝

■制作:金子正且

■監督:川崎徹広

■原作:梅崎春生

■脚本:松木ひろし

■撮影:小泉福造

■音楽:中村八大

■美術:河東安英

■照明:隠田紀一

■録音:藤縄正一

■編集:

■主演:藤木孝

■寸評:主演の藤木孝(藤木敬士)は本作品公開直前に引退宣言(後に取り消し)した。

ネタバレあります。


藤木孝という人は一見するとつかみ所がないですが、その演技も実につかみ所がありません。いや、まったく。

本宅品は東宝ですから川と言えば多摩川か、撮影所裏の仙川です。

多摩川のほとりにあるオンボロ貸家のオーナーは中国人の実業家です。店子を取り仕切っているラーメン屋のオヤジ・トニー谷は、オーナーの命令により店子達に立ち退きを迫っています。立ち退きに対抗している店子は、貧乏で子だくさんの丘寵児若水ヤエ子。遅筆で温厚な作家先生・上原謙沢村貞子。そして、一人暮らしの一室を貧乏な自称・画学生の藤木孝に間借りさせているお婆さん・飯田蝶子

藤木孝は芸術家ではありますが、とりあえず、もてあます才能(自称)をどうやったら換金できるか?ということに強い関心があるようです。画家としてあまりにも芽が出ないので、上原謙に時々、絵を無理やり買ってもらっているようです。

上原謙はカウンターバーのマダム・草笛光子に惚れています。草笛光子の妹・若林映子は藤木孝のことを、手のかかる弟くらいに取り扱うのですが、実は好きです。飯田蝶子が愛玩しているペットの出目金はイトミミズを主食としているらしく、そのために有料でイトミミズ採取をしていた藤木孝を見つけた若林映子。

堤防工事の現場まで自転車で乗りつけた若林映子が藤木孝に声をかけようとした瞬間、風がスカートの裾を思いっきりめくり上げてしまい、白パンどころかおへそのあたりまで丸見えになります。

品行方正で鳴る東宝にしてはかなりな大胆シーンだと言っておきましょう。ついでに言えば、そのお宝シーンにまったく反応しない藤木孝なのでした。

頑固な飯田蝶子は年金暮らしと思われるため、倹約と節約の日々。高齢者がつましい生活を強いられるのは時代を問いません。おかげでラーメン屋で配達担当の小僧は、飯田蝶子の言いがかりのようなクレームのおかげでラーメン代を定価で集金できることが稀のようです。

そんなこんなで配達時間の遅延に怒髪天を突いた飯田蝶子はトニー谷の店に怒鳴り込みます。売り言葉に買い言葉のあげく、コショウ山盛りの激辛ラーメンを食うはめになった飯田蝶子は体調を崩してしまうのでした。

しわくちゃな丸顔から湯気を出して怒りまくる飯田蝶子の血圧が心配です。

飯田蝶子は出目金を可愛がっていましたが、ある日、隣接する養豚場から侵入してきた黒猫に一匹かっぱらわれてしまいました。ペットロスで嘆くお婆さんのために、藤木孝は黒猫の飼い主と思われる養豚場の渡辺篤から賠償金がわりに子豚一匹をせしめてあげたのでした。

心優しい藤木孝、期待以上に口八丁手八丁のようです。

いよいよ立ち退き問題が深刻化してきました。

オーナーはゴージャスな料理とお酒で店子をたぶらかしてインチキな立ち退き承諾書に捺印させようとしましたが、草笛光子の密告で事なきを得ました。しかし、経済状態が一向に改善しない若水ヤエ子の一家は立ち退き料の誘惑には勝てずに引っ越しました。てか、ほとんど夜逃げしました。

その頃、画家として大成するためにはまず資金が必要だと悟った藤木孝は、何時の間にやらゴーゴー喫茶で歌と踊りの仕事をゲットしてきました。しかも子豚と一緒に踊るのです。恋人の若林映子に、アコースティックギター生演奏で披露する「レージィ・ギター」はなかなかグッとくるイイ歌でした。

出版社の社員・北あけみは、上原謙の家を訪問したときから藤木孝に目をつけていました。ゴーゴー喫茶でツイストを踊って「踊れツイスト」を熱唱する藤木孝の楽屋で、若林映子と北あけみが火花を散らしますが、純情可憐でもないけど軍配は若林映子に上がるのでした。

ちょっとちょっと!藤木孝ったらそんなダンスと歌なんていつ練習してたの?てなわけで、全然練習してないのにツイストの帝王になってしまった藤木孝なのであります、まさにミラクル。

飯田蝶子の家が漏電火災を起こしました。親孝行な息子・佐田豊に引き取られることになった飯田蝶子も一安心。上原謙と沢村貞子も引越しを決意、藤木孝と若林映子はますます仲良くなったのでした。

しかし子豚は逃げ遅れて頓死、いや焼死。ディズニー映画なら藤木孝が命がけで助けて大団円でしょうが、死んだ豚は供養のためだということで、トンすき(豚肉のスキヤキ)にされて食されてしまったのでした。メデタシ、メデタシ。

当時、人気絶頂だったという藤木孝が、本作品公開直前に日本を離れて新劇の世界に飛び込み、演技を改めて勉強しなおしたという事実を裏づけするには充分すぎるステキな「演技以前の演技」だったことを確認できる映画でありました。

言い換えれば「涙を、獅子のたてがみに」で完成される過激な腰のうねりと怪演のステップ、藤木孝に歴史あり。

2012年01月01日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-12-31