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戦後猟奇犯罪史


■公開:1976年

■制作:東映

■企画:杉本直幸

■監督:牧口雄二

■原作:

■脚本:金子武郎、中島信昭

■撮影:勝木勝夫

■音楽:渡辺岳夫

■美術:園田一佳

■照明:海地栄

■録音:坂本浩一

■編集:玉木濬夫

■主演:室田日出男、五十嵐義弘、川谷拓三

■寸評:「テレビ三面記事 ウィークエンダー」って生放送だったんですよ。

ネタバレあります。


この映画を観るときには人権という言葉は忘れてください。

小平義雄、金嬉老、榎木津巌、大久保清、克美しげる、この映画の登場する殺人犯の実名です。新旧とりまぜてほとんどはクリップボードで紹介されるだけですが、特に克美しげるは公開1カ月前に無理やり押し込んでしまうという豪快さ、東映ってダイナミックな会社ですなあ。

「ウィークエンダー」という番組のレポーターだった泉ピン子が各々の事件を犯人の写真や現場写真のクリップボードを使って、公開番組でレポートする形式のオムニバス映画です。

第一話。

榎木津巌は「復讐するは我にあり」の緒形拳が演じた役と同じ人です。

西本明(榎木津巌)・室田日出男は自称インテリだと身分を偽って田舎者を信用させ、日本列島を詐欺と殺人をしながら縦断した人です。いくらなんでも素面であっちこっち行けばバレると思うのですが、彼には天性ともいうべき熟女をたらしこむ天才的なセンスと後天的な肉体改造という秘密兵器がありました。

肉体改造のほうは、アソコに真珠4個入れて、超高級な大人の玩具みたいにしてたわけですね。

人を何人でも殺す度胸がありながら、博打にはまるで才能がありません。ま、そういう実利を伴う才能があればこんな凶悪犯罪者にはならなかったかもしれませんが。

エロい美容師・泉ユリに金を貸すためにウソの儲け話で善良な業者・疋田泰造を人気の無い田んぼの真ん中に呼び出してカナヅチでボコって惨殺した室田日出男は、証拠隠滅のために、トラックの運転手・片桐竜二も惨殺。さらに彼は偽装自殺をして行方をくらませました。

室田日出男は各地で詐欺を繰り返して、ある旅館に大学教授だと偽って長逗留しました。母・藤ひろ子と娘・橘麻紀を母子どんぶりにした室田日出男でしたが、男性経験豊富なお母さんに、刑務所の経験があるからワンワンスタイルが好きなんだろうと指摘されてしまいます。前科が見破られそうになった室田日出男は母子ともども殺害してしまいました。

さらに逃亡を続けた室田日出男は、殺人も婦女暴行も詐欺も懲りずに犯罪を重ねていきますが日本全国にばら撒かれた手配写真が彼を追いつめます。インテリに弱い大人は騙せましたが、子供の目はごまかせず、とうとうスカートの下からパンツがはみ出ていそうな幼女の通報で、彼は逮捕されてしまいました。

と、ここで、ピン子レポーターにホットニュースが!

第二話。

ある有名歌手(克美しげる)・五十嵐義弘が再起を誓って再デビューを計画していました。しかし彼は妻子もちなのに愛人をjji囲っており、その愛人から妊娠をカタに結婚を迫られると、手を切ろうとして失敗。あげくに彼女を殺しておいて、その死体を愛車のトランクに積んだまま、公演先の北海道へ出発するという大胆な行動に出ます。

羽田空港の駐車場に置きっ放しにされた歌手の自動車から発見された死体、そして公演先で歌手はアッサリ逮捕されてしまいました。

第三話。

芸術家を名乗って純情そうな小娘をドライブに誘い、絵のモデルになってくれと頼んで人気の無い場所で暴行して殺して埋める。そんな大それた犯罪をおかす殺人犯に川谷拓三、たいした事ができないキャラクターが持ち味の川谷拓三というミスマッチ感に期待が高まります。

久保清(大久保清)・川谷拓三はガールハントを趣味としていますが、成功率は50パーセントです。彼は女にモテるためには教養が必要であると悟り、同じくモテないお友達・奈辺悟が呆れるほど熱心に芸術書を勉強したり外国文学を読みふける努力家です。

そういう情熱をもっと生産的な方向へ持っていけないものか?と常識のある人なら思うでしょうが、彼の実家がリッチで、親に溺愛されていたのがこういう捻じ曲がった情熱の原因の一つであったと言えるかもしれません。

ヒマな大人というのはロクなことを考えません。

川谷拓三は甘い言葉や優しい笑顔で、素人娘さんたちを自動車へ誘い込み、襲いかかる彼に抗う娘さんたちを犯して殺してしまいます。

一人も二人も三人も四人も・・・しかし彼は犯罪のセンスが乏しかったので、同じ場所、同じ自動車で犯行を重ねていたため、そもそも人気の無い場所へ同じナンバーの自動車が何度も来たら怪しまれるのは当然です。川谷拓三は被害者の兄・中村錦司の執念の追跡もあって逮捕されました。

遺体を埋めた場所さえ分からなければ、物証がないから有罪にならないことを川谷拓三に吹き込んだのは、二枚目なのにいつもアブない林彰太郎でした。林彰太郎によれば、警察の追及をのらりくらりとかわす川谷拓三は、反権力のシンボルだそうです。

こういうところでヘンテコリンな人権だか思想闘争だかを引っ張り出す輩は何時の時代でもいたのですね、ま、そんなに昔の話じゃないですけど。確かに、冤罪だったら取り返しがつきません、が、少なくとも本作品のこの主人公は犯人です。

パラノイア的に自己正当化しはじめた川谷拓三はタフな警部・岩尾正隆の尋問に思想ネタを導入、一緒に取調べを担当した警部補・藤沢徹夫も、ノイローゼになるほどの、自信満々はぐらかし加減なのでした。

さあ、ここで東映のヤクザ映画を見慣れている人たちは「取調室に川谷拓三という獲物を持ち込んでおきながらなぜボコらないのか?」という疑問を抱かれることと推察いたします。そこで期待を裏切らないのが東映の素晴らしいところです。ついに、警部補がブチギレして暴力沙汰になったときには思わずホッとしました。

誰か話を聞いてくれる人がいるから、調子に乗って理屈をこね回すのであるから、どうせヘタレの川谷拓三、いっそ一人ぼっちで放置したら、死んだ被害者たちの怨霊におびえてゲロするんじゃね?という警察の作戦はまんまと成功します。

自分が弱者を貫けば、目の前にいる警察だろうがヤクザだろうが平然と対抗できるけれども、強い相手がいなくなると感情の矛先が全部自分へ向いてくる、ああ、やっぱりヘタレだったか、川谷拓三。

遺体捜索の現場検証にかけつけた遺族たちから投石を浴びた川谷拓三は、そこではじめて、理屈ではない血の通った、自分と同じ目線の人たちに対して取り返しのつかないことをしたと後悔しました。しかし、時すでに遅し、でした。

笑顔が愛くるしい川谷拓三の持ち味が存分に生かされているキャスティングが素晴らしいです。無邪気に人を殺し、自己肥大化していくのですが、最後はその大きくなりすぎた自分に押し潰される様子が哀れで、まるで夢想殺人のようなものだったのでは?とすら思わせました。

2012年01月01日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-12-31