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ゴジラ対ヘドラ


■公開:1971年

■制作:東宝

■制作:田中友幸

■監督:坂野義光

■原作:

■脚本:馬淵薫、坂野義光

■撮影:真野田陽一

■音楽:真鍋理一郎

■美術:井上泰幸

■照明:原文良

■録音:藤好昌生

■編集:黒岩義民

■主演:川瀬裕之

■寸評:ゴジラが空飛んでもいいんじゃないかと思いますが?

ネタバレあります。


日本映画史上、もっとも臭くて汚い映画の一つではないでしょうか?腐った魚や重油でテカテカした汚物の集団がいきなりワイドスクリーンを埋め尽くします。こんなシズル感、ある意味、伝説です。

相手は生きた無機質っていう自己矛盾な物件ですから、しかも合体して巨大化するわ、光線出すわ、空飛ぶわでしょう、どうやって倒すんでしょうね、ゴジラ。ヘドロに宇宙生物が付着したからどーたらこーたら理屈はどうでもいいから、あんな気持ち悪いのぜひゴジラにやっつけてもらいましょう。

田子の浦と言えば、万葉集の頃は歌に詠まれたほどの景勝地だったでしょうが、1970年当時はヘドロ公害で一躍全国に名を馳せてしまったのです。

海洋汚染により魚の奇形化が進行する田子の浦で研究を続けている山内明。その息子・川瀬裕之(少年)は、ある日、大きなオタマジャクシの化け物を海岸で発見します。地元の漁師・吉田義夫が捕獲したジャンボサイズのオタマジャクシは乾くとボロボロになってしまいましたが、水分を与えると復活、仲間が出会うと合体して巨大化するのです。

頻発する海難事故はコイツの巨大すぎる仲間のせいなのでは?山内明、素晴らしい!直感的イマジネーションです。

スキューバダイビングで海底を調査した山内明は、愛息が見守る前で消息不明になりますが、実は例のオタマジャクシがさらに成長して、ボロ雑巾の塊みたいになって水中を高速移動するのに襲撃されていたのでした。あまつさえ、そのボロ雑巾は海面から飛び出し、少年の右手に火傷のような炎症を負わせて空へ飛び去ったのでした。

へえ?田子の裏にもマンタがいるのか?いいえ、違います、ボロ雑巾です、いや、少年の命名によりその化け物はヘドラと呼ばれます。

海底から生還した山内明の顔半分も何かの化学薬品にかぶれたような炎症を起こしていました。

TBSアナウンサーの渡辺謙太郎の取材を受けた少年は、ヘドラの様子を冷静に解説してあげました。

海中から陸へ上がってきたばかりのヘドラ(中山剣吾)は、トドみたいにハイハイしてましたが、かなりデカくなっております。

臨海工業地帯で有毒な煤煙をモクモク噴出す煙突を見つけたヘドラは、煙をごくごく美味しそうに吸い上げました。お、コイツ、アンパン中毒(ビニール袋に入ったシンナーを吸う様子が腹ペコ中学生がアンパンをムシャ食いする姿に似てるから、らしいですよ)なのか?いや、確かにドラッグ中毒患者みたいにタテ型の赤い目がトリップしてるぞ。

ヘドラが困るのは、有害物質を取り込んで大きくなるだけならよいのですが、身体に取り込んだバッチイ物を濃縮してゲル化して、ビチグソ爆弾のようにあたりかまわず撒き散らすところです。そのまま吸い込んで、おまけに清浄化してくれたら、どんなに醜くても人々に愛されたはずですが、そう「風の谷のナウシカ」に出てくる腐海のはるかな先達として。

夜中に街をのそのそ徘徊したヘドラの、そのビチグソのようなヘドロ爆弾の、最初の犠牲者になったのは麻雀サラリーマンなのでした。

光化学スモッグが社会問題化したように、少年の母親・木村俊恵(イモジャー姿がちょっとカワイイ)が先生をしている学校の生徒もヘドラの毒ガスによりバタバタ倒れてしまいます。

海を汚染した人間のせいで生まれたヘドラ、こんなことしたら海の底でユックリ眠っているゴジラが怒り出すに違いない。そんなゴジラの怒りをテレパシーで感じる少年。お?ひょっとして君は宇宙人なのか?大きくなったら光速エスパーとかになるのか?

ま、どうでもいいや、まだかなあ、ゴジラ。

二足歩行からさらに進化して空飛ぶヘドラが通った地上では、ペンペン草も生えないどころか、金属はボロボロに錆びてしまい、植物は枯れるし、人間は溶けて骨になってしまうのです。つまり自分たちのウンコやオシッコに逆襲される人間たち、粛々と公害を撒き散らすヘドラの前についに、ゴジラ登場です。

この映画には何かが足りない、そうです怪獣映画には熱血馬鹿主人公が必須なはずなのに、不在。せっかく出てきた柴本俊夫(柴俊夫)は彼女・麻里圭子の自動車に乗せてもらうだけで何にもしません、シラケ世代ってヤツラでしょうか?ヘドラが富士山を汚染しようとしてるのに「どうせヤラれるならその前にゴーゴー大会しようぜぃ!」意味不明だぞ!オマエら。

おい、誰か佐原健二か久保明を呼んで来なさい!平田昭彦(様)はダメですよ、ヘドラ改造してもっと悪いことさせそうだから。

しかしヘドラとゴジラ来てるのに、自衛隊も警官隊も消防隊も秘密兵器も全然出でこないじゃん?なんで?予算足りないの?はい、そうです。

ゴーゴー踊るしか能の無いクソガキも柴本俊夫ごと全滅させたヘドラとゴジラが富士山の裾野で戦います。

一応、電極板で挟みこんだ高電圧で乾燥させてヘドラを退治する準備だけはできてる自衛隊ですが、活躍してるのが車両4台だけってのはどうよ?それに現場の指揮官が鈴木治夫勝部義夫だけっていうのは如何なものか?絶対に勝てないと見た!

ゴジラはヘドラのビチグソヘドロで片目と片手に重傷を負います。自衛隊のほうはヒューズは飛ぶし、高圧線はへし折れるしで作戦次々と想定外で失敗。頼りにならない人間にキレたゴジラがわざわざヘドラを誘導してくれて、自分の放射能でヘドラをカピカピにしてくれたおかげで、やっと退治することができたのでした。

空飛ぶヘドラを追うのに、放射能を噴射して後ろ向きの飛行するゴジラは、かなりカワイイのでステキです。どうやって前見るんだろう?とか、水平飛行は翼が無いと無理なんじゃね?尾翼が無いからクルクル回るんじゃね?とかの理屈は屁理屈であると断定して無視しましょう。

みんな!心の目で見るのですよ!ああ、ゴジラが空飛んでる、ステキ!な感じで。

ヘドラが出てきたのも、退治するのにてこずったのも全部、お前らのせいだかんなっ!とばかりにゴジラに怒られる東宝の皆さん、怒っている中身が大先輩の中島春雄さんなので納得です。

「人間と付き合うと苦労するよ」去っていくゴジラの後姿に哀愁を感じたのは私だけではないはず。

2012年01月01日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2012-01-01