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窓から飛び出せ


■公開:1950年

■制作:新東宝

■制作:大日方伝

■監督:島耕二

■原作:

■脚本:大日方伝

■撮影:安本淳

■音楽:早坂文雄

■美術:河野鷹思

■照明:佐藤快哉

■録音:矢野口文雄

■編集:

■主演:轟夕起子

■寸評:日本の草分け的グラフィックデザイナーの河野鷹思が美術を担当。

ネタバレあります。


昔の小田急電鉄はストライキはしませんが、大雨が降ると玉川学園あたりで線路が水没してしまい電車がよく止まりました、今はそんなことないですよ、と駅員の人が言っていたので改善されたようです。

玉川学園はアーメン系の学校で、小学校から大学までの一貫教育、広大な学園都市に農場や牧場があります。本作品は玉川学園と農林省(現・農水省)が協力しています。

畑を耕し、鳥やウサギを飼って自給自足のこの家には、お父さん・大日方伝、お母さん・轟夕起子、お父さんの弟・小林桂樹は大学生、子供たち・大日方荒弼土屋美光大日方百合子大日方桃子、そしておじいちゃん・汐見洋が一緒に暮らしております。

このご家族のモットーは「人間の生活は工夫すれば楽しくなる」ですので、少々高台にある家屋から下の道路に面した郵便ポストから、玄関口までペリカンのマシーンが手紙を運んでくれたり、出入りするたびに違う音のするドアベル、壁面収納できるアイロン台や化粧台などアイデア満載です。

ジャック・タチの 『ぼくの伯父さん』に出てくる機械仕掛けの家よりも、本作品のほうが先達です、念のため。

サザエさんのようなヘアスタイルの轟夕起子(だって元タカラジェンヌ)は歌が上手なので、ご家族の気持ちを明るくさせるために、お金のかからない美声で浪々と歌います。とは言え、轟夕起子のほかには歌える人がいないので、せいぜいコーラス程度になるためミュージカル映画にはなっていないのですが。

善人ばかりかと思いきや、まだまだ日本は貧乏なので、手癖の悪い井戸掘り職人・鳥羽陽之助は日常的に寸借詐欺、そんな大そうなものではありませんが、ちりも積もればなんとやら、大日方伝がノンビリしているのにつけこんで、今日も自転車を拝借されてしまいました。

いつもは満月のような笑顔の轟夕起子ですが、井戸屋の話のときだけは鬼のように冷酷な顔になるところからして、バレバレの卵泥棒やらなんやらと、さすがの大日方伝もそろそろ〆てやらなきゃなと思っているようです。

おじいさんはお隣に住んでいる足の悪い少年・大日方駿介が、ストレス解消のように林にいる小鳥を空気銃で撃つのが困ります。畑の害虫を食べてくれる小鳥を追い払われるのも困るのですが、他の生命を軽んじる人間は、己の生命も軽んじているものです、おじいさんの本当の心配はそっちでした。

少年の悩みのタネは、夫が船の事故で死んで以来、インチキ臭い義理の弟・清川荘司、新興宗教の教師・小林十九二、欲の深そうな古道具屋・杉狂児に家の財産を全部取られそうな未亡人、つまりお母さん・岡村文子のトンチンカンな愛情でした。

なにせ「手かざし」で少年の足を治そうというのですから。しかし、同居している義理の妹・香川京子はやさしくてシッカリ者なので、やや安心です。

実は香川京子はお隣の小林桂樹のことが好きなのでした。小林桂樹も香川京子のことが好きだし、子供好きでもあるので、学園の子供たちからも、隣の少年からも大変に慕われています。

だんだんエスカレートしていくお母さんの宗教信仰はとうとう、お父さんの形見であった商船の模型まで売り払ってしまいました。少年、一気に心がブルーです。

もうすぐクリスマスだというのに、すっかりタケノコ生活です。それもこれも「あなたのためだから」なんてお母さんに真顔で言われてしまっては、どうにもやりきれない少年です。

おまけに、宗教の本部から来た使者によると、今度は息子のさんの病気快癒のためには不動産までも寄進してくださいというのです。

人の弱みに付け込む新興宗教の手口は今も昔も変わりませんね、おっと、もちろん「一部の」新興宗教の話ですけど。

クリスマスイヴ、轟夕起子の家ではささやかですが心温まるパーティーをしています。

しかし、その夜、お隣といっしょに泥棒が入ったのでした。男手のある大日方家では小林桂樹がコソドロ・藤原釜足を捕獲。藤原釜足がゲロしたところによると、隣家に侵入したのは仲間らしい。そこでそっちも捕まえて警察に引き渡した大日方伝でしたが、藤原釜足が貧しいゆえの犯行で、しかも深く反省しているので、彼の希望をかなえて農場で働いてもらうことにしました。

岡村文子の散財を放置しておけなくなった香川京子は、自活の道を模索して、大日方伝からアンゴラウサギの養殖を教えてもらうことにしました。しかし、プライドが高い岡村文子は「セレブが百姓の仕事するなんて!」と、轟夕起子と大日方伝に猛抗議のうえ絶交するのでした。

しかし、子供たちはそんな馬鹿げた大人の事情を乗り越えます。小林桂樹が立派なエンジン付の商船模型を作ってくれました。進水式の日、クリスマスの奇跡のように足の悪い少年は、松葉杖を捨てて自分の足で歩けるようになったのでした。

窓から飛び出せというのは、自分を枠の中に閉じ込めてしまうのはやめよう!窓から飛び出すように人生に挑戦しよう!ということでしょうか。

大日方ファミリーが出演したワンマン映画ですし、農林省がバックでもあるので、アメリカで農業経験のある大日方伝の「農業ネタ」が面白いです。特に、ニワトリ泥棒をした井戸屋のところへ乗り込んで「実験用に青酸カリを注射したニワトリがいなくなった」と大ウソこいて、焦った井戸屋に白状させるところの、ほのぼのとした悪戯心には笑いました。

善意が勝利する映画というのはいいものです。どんなに単純で、ご都合主義でも、それは人の心を救う原点ですから。

2011年12月11日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-12-11