史上最大のヒモ 濡れた砂丘 |
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■公開:1974年 ■制作:東映 ■企画:杉本直幸、奈村協 ■監督:依田智臣 ■原作: ■脚本:深尾道典 ■撮影:萩屋信 ■音楽:松原曾平 ■美術:鈴木孝俊 ■照明:井口雅雄 ■録音:加藤正行 ■編集:河合勝巳 ■主演:川谷拓三 ■寸評: ネタバレあります。 |
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タイトルが実に素晴らしいですね。 滋賀銀行巨額横領事件なんて厳しいんじゃなくて「女に貢がせたんならコイツはヒモなんじゃね?」という東映宣伝部の素晴らしいセンスが光ります。 「濡れた砂丘」という副題のほうは「とりあず女の股ぐらは湿っぽいし、濡れてるという言葉に脊椎反射して欲情する馬鹿な観客がたくさん来るように」という願いが込められています。 「史上最大のヒモ」で「ヒモってなんですか?」という皆様は、とりあえず東映で、梅宮辰夫が出ている映画を観るか、または「女性に生活費を賄ってもらっている無職の男またはモテる男のロマン」という意味であることをご理解ください。 しがないタクシーの運転士である川谷拓三は金にも女にも苦労していましたので、同僚の西田良とストリップ観に行ったり、ロウワーなグレードの商売女を抱いたりして性欲を満たしておりました。ある日、川谷拓三が乗せた女の乗客・小島恵子は冴えない彼を馬鹿にしない、真面目なタイプでした。 テーラードジャケットのコンサバなファッションからわかるように、また、酔っ払っても誰も送る男のいない彼女は支店長の信頼も厚いベテランの銀行員で独身なのでした。男女雇用均等法が施行される以前なので、地元採用の彼女は転勤を繰り返して出世する男性同期からははるか後方に置いて行かれており、窓口業務一筋のオールドミスなのでした。 実入りの悪いタクシーの運転手から、中小企業の社長のお抱え運転手に転職した川谷拓三は、ゴージャスなバーのママ・川村真樹に交際を申し込んでみましたが「身の程をわきまえろ」と説教されてしまいました。 川谷拓三は、地味だけどほっこりと優しい小島恵子とホテルで一夜をともにしました。小島恵子には久々の春だったのでしょう、彼の言われるままに「事業資金」の提供を約束するのでした。 なという健気な、そして馬鹿な女なのでしょう。ていうか、この女は三十年間生きてきて何も学んでいないようです。 しかし、この事件は実際の話がベースなのです。そして、この事件のおかげで、ひょっとしたらほかにも大勢いたであろう、小島恵子のモデルになった犯人と同じ立場の「いかず後家」の皆様に「金と愛情は別腹」という素晴らしい教訓を残したのであります。 いくら堅実な銀行員でも三十路かそこらで億単位の金が右から左へ動かせるわけもなく、川谷拓三が彼女からもらったお金は銀行から横領したものでした。 さっそく郷里の実家の新築やら、ギャンブルやら、そして川村真樹のお店で豪遊する川谷拓三。ついに彼は川村真樹を見返すことができたのです。しかし、こっちの女は世間を知りすぎていました。彼をいい金づるだとふんだ川村真樹は、さらにお金を使わせるために彼とホテルへ行きました。 金は、貯めるのは大変ですが使うはカンタン。あっという間にお金がなくなった川谷拓三はさらに、小島恵子から金を引き出します。しかし、銀行も馬鹿ではないので、彼女を転勤させて横領の証拠を徹底的に調べるつもりらしいです。川谷拓三は、彼女に飛行機でどこか遠くへ逃げるように指示しました。 ついに警察が動き始めます。そのあたりを敏感に感じ取った川村真樹は川谷拓三に別れ話を持ち出しました。 逆上した川谷拓三が彼女を包丁で刺しました。しかし、そこは生きることに対する執着心が格段に強い川村真樹、血まみれになりながらも、川谷拓三のどて腹に包丁を突き刺したのでした。 実際の事件では、貢いだ女よりも、貢がせた男のほうが量刑が重かったので、これは納得がいく話であるなと思いました。 川村真樹は、川谷拓三の持っている金に惚れたのであり、あくまでもビジネスライク。しかし、川谷拓三はそれまでの冴えない人生を一気に見返すチャンス。そして小島恵子にとっては彼女の絶望的な未来にケリをつける一世一代の大芝居。 三人それぞれの思惑が、集中してズレた結末が刃物三昧ということなのでした。 川谷拓三が終始、二枚目の演技でサマになってます。完全にピンの主演映画でハッスルしたということもありましょうが、怒鳴ったりクダ巻いたりしてなければ、意外なほどの二枚目であることを再確認できた次第です。 いや、意外にっていうのは失礼かも。 本作品のコメディリリーフは西田良。バラケツ勝負の千円札を数えるのに「ファーイブ、セーックス、セブーン・・・」小学生か?君は。 (2011年12月11日 ) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2011-12-12