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さらば映画の友よ インディアンサマー


■公開:1979年

■制作:キティ・フィルム・コーポレーション、ヘラルドエンタープライズ

■企画:磯田秀人

■監督:原田真人

■助監督:崔洋一

■原作:

■脚本:原田真人

■撮影:長谷川元吉

■音楽:宇崎竜童

■美術:丸山裕司

■照明:小熊良洋

■録音:小島良雄

■編集:鈴木晄

■主演:川谷拓三

■寸評:

ネタバレあります。


自伝的映画というのが苦手であります。他人事と違いどこかに、自覚してないウソが混ざるからでありましょう。美化とも申しますが。

しかし、本作品は違います、映画好きの琴線と逆鱗に触れるパロディが満載。

本作のタイトルにもなっている元ネタ「さらば友よ」は劇中にも看板が登場しますが、アラン・ドロンとまだそれほど名前の出てなかったチャールズ・ブロンソンが狭い金庫の中で上半身裸で悶々とする映画です、ていうか大変に男くさい、男の友情が奇妙なところで芽生える話です。と、同時に「カッコいいマッチの擦り方」と「液体の表面張力」が学べます。

沼津に住んでいる予備校生の重田尚彦は、現実逃避をするがごとく新宿まで遠征して映画を観ております。

しかも、しょっちゅう来ているらしい、ということは親は金持ちに違いない、だって新幹線通勤だもの。

ある日、映画館の害虫である「おしゃべり女子学生」を注意した中年男のダンさん・川谷拓三を痴漢の冤罪から救出したことがきっかけで知り合い意気投合する重田尚彦。

行くあての無かったらしい川谷拓三は、とうとう沼津に住み着いてしまうのでした。

重田尚彦のお父さんは室田日出男で、ちょっとカマっ気があるコーヒーハウスのマスターです。奥さんとは離婚しています。

常連客はキャバレーの歌手・トビー門口山口美也子、セールスマン・鈴木ヒロミツ

時代は学生運動華やかなりしころ、しかし戦場から遠く離れている沼津では、テレビの中の出来事でした。

重田尚彦はウナギ屋さんに就職した川谷拓三とともに地元の映画館にも通いづめです。

深夜、ガールハントをしようとした重田尚彦と冴えないお友達は、現在では絶滅したかもしれないスケバンたちとタイマンを張っていた浅野温子と知り合います。

剃刀を指で挟んで振り回しても本当に人が斬れるのかどうか・・・ま、そんなことはともかく、腰がひけちゃったお友達とは違い「夢は早く童貞を捨てること」な重田尚彦は、浅野温子に急激に惚れてしまいました。

浅野温子にはヤクザの二代目・石橋蓮司という男がついていました。

重田尚彦は石橋蓮司のチンケな脅しには屈せず、彼女とモーテルで筆おろしを試みましたが、彼女の背中一面に彫り物があるのを見て、浅野温子はすでに石橋蓮司の完全な持ち物になっていることにショックを受けてそのまま家へ帰ってしまいました。

大切な友達の恋人の正体を陰険な手口で重田尚彦に教えた川谷拓三は、彼の敵討ちを勝手に計画しました。

馬鹿げた計画だと思った重田尚彦でしたが、ヤクザから息子を守ろうとした室田日出男が、息子を海外逃亡させている間に童貞はおろか、毎晩「男」になっていた重田尚彦は浅野温子のことなんかすっぽり忘れてしまいました。

しかし、川谷拓三は石橋蓮司とそのオヤジ、つまりヤクザの組長・長谷川弘を殺害するために、コルトガバメントを手に入れて、単身、自宅へ乗り込んでいったのでした。

川谷拓三が映画の中で演じる元大部屋俳優は不祥事で映画界を追われた身(それは室田日出男のほうでは・・・以下自粛)。

おそらく職を転々としたため、川谷拓三は調理師の免許も持っていたのでしょう。映画好きの重田尚彦と、同士的な友情を感じていた川谷拓三は、映画の中でとうとうつかめなかった「高倉健さんみたいなカッコいい主役」の座を現実にやってしまいます。

組長と組員、そして石橋蓮司を倒した川谷拓三でしたが、浅野温子のライフルによって倒されました。

インディアンサマー、人生の小春日和に突然、巻き起こった現実とも映画ともつかない、行く末不安な主人公が見た白日夢のような出会いと別れ。

銃器専門のトビー門口先生が、期待以上の美声で披露するのは銀恋、ハゲがおねーちゃんとデュエットするときの飛び道具「銀座の恋の物語」であります。

せっかくトビー先生をお呼びしているのに、と思っていたら川谷拓三が、闇で買ったコルトガバメント(え?拳銃不法所持?それは・・・以下自粛)が登場したので、ああやっぱりねと思いました。当時の日本製のドンパチはトリガーに指かけたまま銃器を取り扱う危険な場面が多かったのですが、川谷拓三がちゃんと指を伸ばして把持していたので、さすがだなと思いましたよ。

冒頭の映画館の支配人役で石上三登志が出てきます、が、それはどうでもいいので。

フィルムアートフェスティバルが上映中止騒ぎになったネタで、登場するのが原田芳雄。芸術家はホモが多いという定説(そ、そうか?)を裏付けるように若干、オネエ言葉だったりするのが笑えます。

当時は、日本映画全体はすでに下火で、名画座と言えば洋画です。川谷拓三がキラ星のごとく繰り出す洋画ネタですが、現代でもはっきりわかるのは「灰とダイヤモンド」くらいなものでしょうか。うっかり「京阪神殺しの軍団」を思い出さないようにしたいものですが。

人生に迷ったら映画館へ行こう!人生に必要なことをたくさん教えてくれる。だけど、映画と現実の境目がつかなくなったら、アウト。そんなメッセージも聞こえてきますが。

冒頭の少年少女の、給食の牛乳臭い青春物語の部分を丸ごとカットしていただければ、映画館という人生の冥府魔道に踏み迷った人々には聖書のような映画でもあります。

「ダンさん、死んだ」

室田日出男のその台詞がその後、現実に近いものになってしまったことを考えると、この映画はまさに映画が好きで、若い頃(無料で)観ていた川谷拓三の、川谷拓三による、川谷拓三のための映画になっていることに気がつきます。というより、室田日出男と川谷拓三のスクリーン外と地続きになってる「友情」へのオマージュ映画という見方もアリです。

しかも監督とリアルタイムの観客との、予想を超えた意味で。

2011年12月11日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-12-12