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東京の恋人


■公開:1952年

■制作:東宝

■制作:熊谷久虎、藤本真澄

■監督:千葉泰樹

■原作:

■脚本:井手俊郎、吉田二三夫

■撮影:飯村正

■音楽:飯田信夫

■美術:北猛夫、浜上兵衛

■照明:大沼正喜

■録音:宮崎正信

■編集:笠間秀敏

■主演:原節子

■寸評:

ネタバレあります。


東京にある勝鬨橋は昔、開閉したんですよ。

戦後間もなく日本はまだ貧しかったので、銀座から築地界隈でも靴磨きの少年たち・小泉博(え?)、増渕一夫井上大助たちは同じく街頭で似顔絵描きをしている原節子と一緒に、今日もポジティブでヴァイタリティ溢れる毎日を送っておりました。

原節子は、都電で職場に向かう途中、小銭が無い(大金はある?)ので運賃を払えない男・三船敏郎に小銭を渡して助けてあげました。

恐妻家で実業家の森繁久彌は、実業のほうはベアリング技術を生かした金属球の製造販売で商売も上手く言っているようです。森繁久彌の愛人・藤間紫は宝飾店で高額なダイヤモンドの指輪をオネダリされています。そこへ、店頭ディスプレイ用のニセモノを制作している三船敏郎が納品にやって来ます。宝飾店の店主・十朱久雄の妻・沢村貞子がうっかりホンモノとニセモノを取り違えてしまったからさあ大変です。

小銭を返しに来た三船敏郎がキザで鼻もちならないヤツだと思い込んだ原節子の態度はつっけんどんでしたが、惚れっぽい藤間紫は三船敏郎に早速、ロックオンするのでした。

そして、原節子にロックオンしたのは森繁久彌でした。そりゃもう「いや〜ん」丸出しの原節子でしたが、肖像画の依頼は稼ぎになるので断れません。そこへ、ニセモノの指輪をホンモノ(実はこっちがホンモノ)だとウソをついてプレゼントしたのが藤間紫にバレてしまい、彼女がすごい剣幕で会社に乗り込んできました。オロオロする森繁久彌、しかしさらに間の悪いことに正妻の清川虹子までが会社にやって来てしまい、愛人とハチあわせします。

キレた清川虹子は商売物であるパチンコ玉を凶器にして、掴んでは投げ掴んでは投げしたので、たちまちオフィスは戦場と化しました。逃げ惑う社員たち・村上冬樹高山スズ子。しかし清川虹子のパワーは素晴らしく、ガラスを叩き割り、オフィスの什器を次々と破壊していくのでした。

私は確信しました、この、清川虹子姐さんのパワーが後に「ゴジラ」のキャラクターに結実することを、ウソですが。

煩悩渦巻く戦場からなんとか逃げ出した原節子、そして路上に散乱するパチンコ玉を必死に拾う靴磨きボーイズと通行人の皆様。強欲むき出しの逞しい市井の人々のあさましい姿は、東宝映画とは思えないほどの爆笑を誘います。

藤間紫が逃げる途中で落とした指輪をニセモノだと思い込んでいる清川虹子は、その指輪を給仕の高山スズ子にくれてやり、自分には本物を買うように森繁久彌に命令するのでした。

さて、三船敏郎ですがある晩、町でふらついている娼婦・杉葉子を保護して自宅まで送ったところ、そこは原節子が住んでいるアパートで、杉葉子と原節子は友達でした。親切な診療所のお医者さん・柳谷寛は診療時間をとっくに過ぎていたので診療所にはいませんでした。お医者様をお風呂屋さんで発見した三船敏郎は半裸のままアパートへ送り届けました。

杉葉子の病状は芳しくなく、手遅れ気味でしたが、原節子や小泉博が手分けして食糧をゲットしたり、看病してあげました。

三船敏郎は実は金持ちでもなんでもなく、スケベでもスマートでもなく、体格は土方のようで、自宅もあばら家を自分で修繕するくらいの苦労人であるとわかった原節子は彼のことがちょっと好きになりました。しかし、三船敏郎の商売がイミテーションの制作、つまりニセモノを作ることだと知った原節子はもちまえの潔癖症が高い鼻っ柱と同じくらいムクムクと頭をもたげてしまい三船敏郎を軽蔑するのでした。

余命いくばくも無いと悟った杉葉子は、田舎のお母さんを安心させようとウソの手紙を書きました。そこには、結婚して今は幸せだと記されており、靴磨きボーイズがトイカメラで撮影した、三船敏郎と杉葉子の多重露光写真を同封しました。そして、杉葉子が危篤の知らせを受けた母親が上京してくることになりました。

原節子は三船敏郎に頼んでニセモノの夫を演じてもらおうとしますが、原節子にフラれて拗ねてしまった三船敏郎に断られてしまいました。泥酔した三船敏郎は町のゴロツキ・広瀬正一堺左千夫中山豊とケンカになってしまいます。

広瀬正一、堺左千夫、中山豊、もう、待ってましたという感じの東宝大乱闘要員の皆様ですから、あっという間にきれいに投げ飛ばされてしまいました。

大暴れして酒が抜けた三船敏郎は、手紙に書いてあったとおり職工さんの制服をどこからか都合して、原節子たちが杉葉子のお母さんをハラハラしながら待っている駅に駆けつけてくれました。

しかし杉葉子は看病の甲斐なく死んでしまいました。最後に隅田川の花火大会を、床に伏したまま鏡で見ている杉葉子は本当に可愛そうでした、そうでなくもガリガリなのに。

そうそう、例の指輪ですが、高山スズ子が持っていたのがホンモノでしたが、そうとは知らない高山スズ子は杉葉子の薬代にしようと思って指輪を売ることにしましたがその矢先、都電の窓から落としてしまい、とうとう隅田川に沈んでしまったのでした。

指輪がホンモノだと知った清川虹子は高山スズ子を泥棒呼ばわりしましたが、現場を捜索してくれた巡査・今泉廉と、顔は怖いけど良心的な警官・小杉義男のおかげで濡れ衣は晴れました。が、そんなことであきらめるような清川虹子姐さんじゃありません、インチキ臭い潜水夫・山本廉を雇って隅田川の大捜索です。指輪の捜索費用の捻出までさせられた森繁久彌は破産寸前にまで追いつめられてしまいました。

原節子に嫌われてシュンとしたり、いつものとおり乱闘したり、杉葉子のシュミーズを手洗いしたり、とにかく徹底的にこき使われる三船敏郎が気の毒です。それでも、三枚目役を大真面目に二枚目のままやり遂げているのはお見事でした。

原節子も三船敏郎と同じくらいクルクルと派手な顔立ちを生かしてコミカルでステキです。しかし、重病の杉葉子がちょっとくらい三船敏郎と仲良くしたからといって、イキナリ顔が険しくなるのは如何なものか?欲しがりすぎですぞ、節子ったら!ま、美人だからむくれた顔もステキですが。

意外性のあるキャスティングといえば、顔に「大学卒」と張り紙してあるような小泉博が、街頭の靴磨き少年だと言われても無理がありすぎでした。

2011年10月30日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-10-30