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おかしな奴


■公開:1956年

■制作:東宝

■制作:

■監督:千葉泰樹

■原作:大佛次郎

■脚本:笠原良三

■撮影:完倉泰一

■音楽:渡辺浦人

■美術:河東安英

■照明:金子光男

■録音:藤縄正一

■編集:

■主演:小林桂樹

■寸評:

ネタバレあります。


渥美清が主演した「おかしな奴」とは縁もゆかりもありませんが、主人公が小太りという点は一致しています。

鯨漁をしている漁師・小林桂樹が遠戚の叔父の遺産100万円(当時)を相続し、サッパリと使い果たせという遺言を守るために、東京見物にやって来ます。ぼろっちいカバンにハダカで突っ込まれた無防備な大金は危険だと思いますが、彼と最初に出会った都会人が、金銭欲の無い画家・笠智衆だったのは不幸中の幸いでした。そのまま酔っ払って笠智衆の家に泊まってしまった小林桂樹は、画家の助手・安西郷子と一緒に「お金を使い果たす」ために上野動物園や浅草を回ることにしました。

安西郷子は無頓着な小林桂樹がお金を粗末にしている人に見えてしまうので、彼のことを心配したり呆れたりしながら、ついでに名所をスケッチしながらツアコンをします。途中でかばんを紛失した小林桂樹でしたが、彼は意に介さないので、安西郷子は呆れるのを通り越して怒り出してしまいました。

しかし、お金は小林桂樹のことが好きだったのか、かばんを置き忘れたタクシーの運転手・田中春男がわざわざ届けに来てくれたのでした。

生活のためにキャバレーのホステスもしている安西郷子でしたが、小林桂樹が彼女の勤務先を訪ねると、かばんの大金のことを知った自称前衛芸術家・三津田健、株屋・大泉滉が呼びもしないのに寄ってきて、さらにはエロいフェロモンをプンプンさせたホステス・田中康子までが彼にモーションをかける始末。

インチキな腕時計を法外な値段で売りつけるチンピラたち・岡豊堺左千夫らは小林桂樹に因縁をつけてきますが、鯨のモリ撃ちで鍛えた馬鹿力に跳ね飛ばされてしまいました。

笠智衆の奥さん・久慈あさみはブティックを経営している実業家で俗物です。かばんのお金をなんとか投資に回してもらおうと考えた彼女は、彼にご馳走をふるまいます。ゴージャスな中華料理屋で、怪しげな中国人っぽいボーイ・佐田豊に話しかけられた小林桂樹は、久慈あさみと一緒に非合法な賭博場へ誘われました。

小林桂樹は、博打ならあっというまにお金を使い果たせると喜んだのですが、残念ながら大当たりを出してしまい、お金が7倍になってしまうのでした。

全然減ってくれないお金、それどころか増えちゃうお金、羨ましいったらありゃあしませんが、小林桂樹の意向には真逆です。賭博場のオーナー・小杉義男はかなりな大損をしたので怪しい男たちに小林桂樹から金を奪ってくるように指示。

そんなこととはつゆ知らず、むしろ賭博容疑で逮捕されるんじゃないかとビクビクしていた小林桂樹は、夜道で巡回していた警官・瀬良明に呼び止められて、思わず逃げ出してしまうのでした。警官がウロウロしていては、怪しい男たちも退散です。運動神経のよい小林桂樹は双方の追跡からなんとか逃げ切りました。

安西郷子に嫌われたと思いこんだ小林桂樹は、逃げる途中で迷い込んだ上野動物園のヤギにお札を食べてもらおうとしますが、ヤギは食べてくれません、それどころか大好物なはずの紙幣の束から逃げ回ります。欲の深い人間の手垢にまみれた紙幣なんか食べたら腹をこわすに違いないと、とうとうヤギにまで嫌われてしまった小林桂樹なのでした。

ガックリしていた小林桂樹が赤ちょうちんに誘われてフラフラ入っていくとそこには、あの、貧乏だけど真面目なタクシーの運転手の田中春男がいました。出勤前にチビチビひっかけていた(おい、おい)田中春男は、困っている様子の小林桂樹と意気投合して、笠智衆の家まで送ってくれるのですが、仕事じゃないからと言って料金を受け取りません。

しかたなく、小林桂樹は田中春男の上着のポケットにそっと札束を1個忍ばせました。相手が善人だとお金も喜んで彼の手元を離れてくれました。これが、小林桂樹が東京で使った唯一の大金なのでした。

地元に戻った小林桂樹は船を買って船主になりました。底抜けに気持ちのいい仲間・中山豊広瀬正一、郵便局の職員・多々良純山本廉たちに見送られて無事に出航した小林桂樹。そこへ、小林桂樹のことが実は好きだった安西郷子が駆けつけたので、彼女を発見した小林桂樹は喜びの余り船から海に飛び込んであわてて港へ泳いで来るのでした。

最初から余計なことしないで、船買えばよかったんじゃないの?とは思うのですが。

金と時間に追われている都会人から見たら、小林桂樹は「おかしな奴」だということになりますが、やることなすこと本当におかしいのは彼以外の人々のほうだという風刺劇です。

彼からお金を取ろうとする人たちが思いっきり漫画っぽいので、時々チクリとくるのが上手いのです。

主演が、無垢な善人丸出しの小林桂樹という時点で勝ったも同然の映画だとも言えます。

さて、小林桂樹を発見した警官の瀬良明が、彼を追うために応援を依頼した交番で、留守番を頼まれる若い警官は、まだ無名時代の中丸忠雄です。ニューフェース同期の中田康子はすでに名前が出ていて、ヴァンプでコミカルに好演しているのですから、ちょっと悔しい感じだったのではないか?と思われます。

2011年10月22日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-10-23