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犬笛


■公開:1978年

■制作:三船プロダクション、東宝(配給)

■制作:三船敏郎、田中壽一

■監督:中島貞夫

■原作:西村寿行

■脚本:菊島隆三、金子武郎

■撮影:斎藤孝雄

■音楽:小林亜星

■美術:植田寛

■照明:土井直之

■録音:宮永晋

■編集:阿良木佳弘

■主演:テツ(犬)

■寸評:

ネタバレあります。


犬笛ってゴールトンホイッスルっていうんですよ。

三船プロダクション総動員令の大盤振る舞いが感動的です。同時に、大散財という気もしますが、三船プロダクションはこの翌年に分裂騒動を起こしてしまうので、最後の晴れ舞台とも言えます。

サラリーマンの父親・菅原文太は、カワイイ奥さん・酒井和歌子との間に女の子をもうけました。この娘が愛犬と遊んでいるうちに交通事故に遭い、それは頭の悪そうなアイヌ犬との雑種(菅原文太・談)犬・テツが自宅に急報したため発覚したのですが、事故を起こした運転手・坂上二郎によると、娘は通りかかりの車に病院まで運んでもらい、文太とワッコちゃんがその病院に駆けつけると、娘は何者かに連れ去られた後でした。

誘拐された娘を心配のあまり、ワッコちゃんは発狂。文太は会社に辞表を出し、娘の捜索に専念することになりました。娘は50000ヘルツの音を聞くことができる特殊能力の持ち主でした。

担当刑事・北大路欣也の発案により、文太が犬笛を吹いて、その音に反応した娘が犬笛を吹き返すと、テツが反応するので居所がわかるということになり、文太は娘の目撃情報があったところへ片っ端から愛車を飛ばしてテツと一緒に駆け回り、犬笛を吹くのですが反応はありません。

娘は一時的な記憶喪失になっていました。彼女が誘拐された原因は、彼女が某商社がライバル商社を追い落とすために裏工作していた社員の殺害現場を目撃し、その社員が持っていた重要なブツの行方を知っているだろう、ということで、さる大物政治家・田中明夫(写真と声のみ)が雇った秘密組織に誘拐されたのでした。

秘密組織はゲシュタポみたいな連中ですが、誘拐団のリーダーは原田芳雄、その部下が小林稔侍ですので、そんなに悪いことはできなさそうな気がします。娘の記憶を回復するように依頼されて、彼らと行動をともにしているのは、精神科医・竹下景子でした。

一度は娘の乗った自動車に追いついたのに、背後にいる組織をあぶりだそうとして失敗した刑事の北大路欣也。これが東映映画なら、文太にボコボコにされているところですが、この映画は三船プロダクション製作で品行方正な東宝の配給なので、プリンス欣也は文太に過剰な成果主義を諌められただけでした。

ま、角刈りのサラリーマンと角刈りの刑事っていうビジュアルは如何なものかという気はしますが、この二人が大真面目に標準語で会話しているだけでなんとなく違和感を感じるのは私だけではないはず。

頼りにならない田舎警察の署長たち・小池朝雄織本順吉を完全無視して、恐怖のチェイサーと化した文太。娘の捜索は長野県で手がかりを掴みかけるも、重要参考人であった岸田森の殺害犯人に仕立てられた文太が、通りすがりの加藤武の協力を得て、こともあろうにグライダーで長野から逃亡し、北海道を駆け巡り、テツの根性で警察犬をブッチぎり、さらには文太が、まるで「北陸代理戦争」の西村晃を彷彿とさせるような雪上ホバークラフトに踏み潰されて殺されかかったりしながら、神戸を経て、遠くインドネシア領海にまでたどり着きます。

そしてついに、三船社長、じゃなかった海上保安庁の巡視船船長・三船敏郎の登場です。

某商社の商船で娘とともに海外逃亡を図った犯人たちを、三船艦長(と、言ったほうが正確)が超法規的手段で追跡します。海保の上司・神山繁の制止も無視。ついには海保の長官・山村聡まで出撃、じゃなかった出てきて、追跡の中止を命令します。

おお!東宝の戦争映画「太平洋奇跡の作戦・キスカ」のコンビが復活です!映画の前半、刑事(デカ)部屋に野口貴史がいたり警視庁の通信係が奈辺悟だったときは東映映画っぽかったのに、三船艦長が出てきたらいきなり東宝映画になってしまいました。

こうなったら誰も三船艦長を止めることなどできません、なにせ、この映画に金を出しているのは三船です。

「わずかな領海侵犯と、女の子の命を引き換えに出来るか!拿捕は覚悟の上だ!」

スゲー!超カッコいいぞ!三船敏郎!

この段階で、テツも文太もまるっきり脇役です。特にテツなんて甲板でずーっと日向ぼっこです。

おいおい、領海侵犯って国際問題だぞ!ちょっとやそっとじゃすまないぞ!ところが、さすがは世界のミフネ、インドネシア政府が領海侵犯を警告したのは、誘拐団が乗っている商船のほうでした。

事件が露見するのを恐れた原田芳雄が部下全員を射殺の上、自殺。商船の船長・神田隆と航海長・田中浩(ヤな船だね、まったく)はさっさと停船、娘は無事に助かったのでありました。

犬のテツがまったく言うこときかないのが大笑いでしたが、警察犬(ジャーマンシェパード)とガチバトルしたり、雪の中を菅原文太と一緒に転げまわったり、片足を無理やり固定されてビッコひかされたりと、犬が散々な目に遭うので、これが東映映画ならさしづめ川谷拓三のポジションだな、と思いました。

2011年09月18日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-09-19