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安宅家の人々


■公開:1952年

■制作:大映

■制作:

■監督:久松静児

■原作:吉屋信子

■脚本:水木洋子

■撮影:高橋通夫

■音楽:古關裕而

■美術:柴田篤二

■照明:

■録音:

■編集:

■主演:船越英二

■寸評:

ネタバレあります。


戦後、経営者の一族の後継ぎが大散財して、壮絶な倒産をした安宅産業とは関係なさそうです。

養豚場を経営している大地主の安宅家、敷地の中には森やテニスコートがあります。

安宅家の事業一切を切り盛りしているのは、元々この家の執事をしていた人の娘・田中絹代です。安宅家とはかなり身分的にアレですが、実は現在の当主・船越英二は知的障害があり、幼い頃は施設に預けられていました。船越英二の将来を心配したご両親と実父の計らいで、田中絹代は半強制的に結婚させられたらしいです。

ダサいメガネに化粧っ気のない素肌をさらして泥まみれの田中絹代には子供はいません。旦那がアレじゃあセックスできないんだろうなあ、ということと、障害の遺伝を恐れてのことです。

船越英二は天使のように純真な性格で身の回りのこともある程度までは自分でできるのですが、障害のある彼を家の恥だと思った周囲の人々の手によって、一日のほとんどを書斎で過ごし、与えられた知育玩具や絵本を読んで過ごしています。

世間とは隔絶された養豚場で、夫婦はある意味、平和な暮らしをしていました。ある日、船越英二のロクデナシの弟・三橋達也が事業に失敗して妻・乙羽信子と一緒に転がり込んできます。彼は、自分のほうが優秀なのに、馬鹿な兄貴が長男だという理由で莫大な財産を相続したこと、しかも現在はその財産の管理一切が元使用人の娘に押さえられていて、自分の自由にならないことを大いに不満に思っていました。

才能も実力もないくせに見栄っ張りの三橋達也に対して、元軍人・山村聡の娘である乙羽信子は上品な性格でしたが、船越英二の境遇に深く同情し、田中絹代の許可も得ずにテニスに連れ出したりしました。

歯茎をむき出して笑うの乙羽信子を見ていると、たとえ性格がひねくれていても旦那が正常であることと、普通にセックスできることを、ちょっぴり羨ましい田中絹代でありました。ていうか、居候のくせに毎日グダグダしてるんじゃないわよ!豚のウンコ片付けるくらいの手伝いでもしたらどうかしら?お嬢様育ちはこれから困るわ、プンプン!というところも無きにしも非ず。

一緒に遊んでくれる乙羽信子にすっかり懐いた船越英二でしたが、三橋達也は悪友・大泉滉たちに唆されてまたもやアヤシイ事業に手を出しており、ついては乙羽信子を介して、船越英二にお金を出させようとします。しかし、そこはシッカリ者の、シッカリしすぎの田中絹代にキッパリ断られてしまいます。

親戚一同が集まる法事の席に、やむなく参加した船越英二を見た周囲の人々の目は冷ややかで、田中絹代は連れてきたことを後悔します。おまけに三橋達也が船越英二を連れ出して、いかがわしい遊びに誘ったりしますが、平素から一人で外出することになれていなかったのであっという間に逃げ出しました。

三橋達也は、田中絹代の妹・三条美紀に目をつけます。ダサいけど鉄板のようにカタいお姉さんとは違い、身持ちが悪く、お姉さんから小遣いせびるくらいしか能がないけど美人でスタイルの良い三条美紀は、同じレベルで、同じ目的を持つ三橋達也とデキてしまい、インチキ臭いイタコに「三橋達也を援助しなさい」という都合の良いお告げをさせて船越英二を騙そうとします。

ついに三橋達也と乙羽信子を養豚場から追い出した田中絹代でしたが、三橋達也はあきらめが悪いので従業員たちにストライキをさせたりします。そして、乙羽信子の不在に精神が不安定になった船越英二は、愛犬・カール(セッター犬)の目の前で崖から転落死しました。

こうなったら親戚一同、特に三橋達也は、田中絹代さえ追い出してしまえば、安宅家の財産は思いのままです。親戚の代表者・見明凡太朗は、葬儀の席で船越英二が死んだのは座敷牢に幽閉していた田中絹代のせいだと糾弾し、田中絹代と三橋達也が養豚場を共同経営するように迫りますが、田中絹代は財産まるごと船越英二が世話になった施設に寄付、残りは本家に寄贈することにしちゃいました。

三橋達也のサイテーぶりに愛想を尽かし、自立の道を目指した乙羽信子は、同じく施設で働くと言う田中絹代と行動をともにするのでした。

男運が悪い二人の女性が互いの境遇に共感して、深い友情で結ばれたという映画です。

しかし、カマトトぶってますが乙羽信子が船越英二を誘ったのはあながち、同情ばかりではないような気がします。経済的に自立している田中絹代に多少のライバル心が無かったとは言えない気がします。女性としての魅力をブリブリ振りまいてたわけだし、いくら知的障害があってもあんなにベタベタしたら、田中絹代がムッとするくらいのことはわかるはずです。

ただし、イイトコのお嬢さんですから、金銭への執着があまり無かったのが救いです。しかし、そんなに良いお嬢さんが、なんで三橋達也みたいなゴクツブシの次男坊とくっついたのか?名家の次男で、嫁姑問題が避けられると言う計算があったとしたら、乙羽信子もかなりのしたたか者だと言えます。

その点、三条美紀のヴァンプぶりは自分の欲望にストレートに正直なので好感もてます。やることなすことレベルが低いと言うのも憎めませんし、意固地になってる田中絹代のポリシーに意義を唱えて、結果的にお姉さんに羽ばたく翼を与えた功労者の一人と言えなくもありません。

田中絹代に入浴介助をしてもらっている船越英二は、お風呂なので全裸なのは当たり前ですが、バスタブで大事なところがかろうじて隠れているショットが延々と続きます。いや、べつにアソコを見ようとか思いませんが、時々「おぉっ!」となるくらいドキドキするアングルがあるので、目のやり場に困ります。

その筋の猛者の方にはプレミアムショットですからお見逃しなきよう、っていう下品な映画じゃないですが。

船越英二が育った児童施設の映像がインサートされます。知的障害を持つ子供がはっきりとスクリーンに映し出される商業映画というのは珍しいかもしれません。

2011年09月11日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-09-12