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目白三平 うちの女房


■公開:1957年

■制作:東宝

■制作:金子正且

■監督:鈴木英夫

■原作:中村武志

■脚本:井手俊郎

■撮影:山崎一雄

■音楽:宅孝二

■美術:小川一男

■照明:

■録音:藤繩正一

■編集:

■主演:佐野周二

■寸評:

ネタバレあります。


甘い二枚目でおっとりしている佐野周二って、なんかいいよね。顔が情けないのに妙に威張ってる息子の関口宏は大嫌いだけどさ(注:あくまでも個人の感想です)。

国鉄の中間管理職である目白三平・佐野周二は一人で箱根に一泊旅行です。国鉄の人ってサラリーがいいのかしら?それとも奥さん・望月優子とケンカでもしたのかしら?種明かしをすると、知り合いが経営者なので料金が格安なのでした。

佐野周二がノーンビリと温泉に浸かっていると、暗い顔をした若い男・佐原健二が入ってきます。話しかけても返事もしない、失礼なヤツなのか?とてつもない恥ずかしがり屋さんなのか?佐野周二の裸を見てドキドキしたのか?ひょっとしてアッチの気があるのか?(ウソ)旅館の女将さんは、佐原健二がカバンを抱えて挙動不審なので、佐野周二に見張って欲しいと頼みます。宿泊料を格安にしてもらっているので断りにくい佐野周二、おまけに佐原健二は隣の部屋に宿泊しているらしいです。

えー!強盗の犯人とかだったら困るなあ、せっかく自分へのご褒美で箱根に来たのに、とんだ迷惑だなあ、と思いつつ真面目な性格の佐野周二は、佐原健二に襲われる(注:アッチの気があるとかじゃないです)悪夢まで見てしまいます。

実は佐原健二は、猛烈な恋愛の末にフラれた失恋旅行の最中で、案の定、自殺志願者なのでした。カバンの中身は元カノと交わしたラブレターの束、それを捨てようかどうしようか迷っていたのでした。

「そんなラブレターなんて未練の元だからとっとと焼いちゃいなさいよ」と一言、佐野周二。

人生経験豊富な佐野周二のイキなアドバイスで立ち直った佐原健二は夜中に一緒にお風呂に入ろう(この旅館は24時間入浴可能の天然温泉らしいです)と誘います。付き合いのいい佐野周二は断れません、若くて体力がある佐原健二はともかく、中年の佐野周二は湯あたり寸前になってしまうのでした。

翌日、鉱石ラジオの組み立てに熱中している長男・杉本修、オヤツ大好きっ子の次男・日吉としやす、そして口うるさいけど誠実な妻の望月優子が待つ家に帰った佐野周二はかなり寝不足でした。

ことほどさように、佐野周二は性格温厚で頼まれると断りにくいタイプです。ご近所に住んでいる団令子が、ダンスの講習会を企画しているらしいです。男性の参加者が少ないからと、団令子に誘われてまたもや断れない佐野周二。ダンスといえばチークでしょ!という望月優子としては、気が気じゃありません。

たまたま団令子の身の上相談を受けていた佐野周二を目撃した近所の奥さん・杉葉子の報告により、朴念仁だと思っていたら実は影でこっそり浮気かよ!と、ムカっ腹の立った望月優子は、先の箱根の旅館へ同窓会に出かけます。

すでに結婚して子供がいる年齢になると、女の同窓会は集まりが悪くなるものです。今と違いますから、奥さんやお母さん、つまり専業主婦はかなり忙しいのです。「毎日、家と商店街を往復するだけ」(by加藤春哉@八百屋のお兄ちゃん)であります。そうは簡単に泊りがけの旅行なんかできません。

望月優子と、金持ちと結婚した久慈あさみの、実質女の二人旅になってしまうのでした。美人でセレブな久慈あさみですが、家庭は冷え切っておりご亭主は浮気三昧、女の喜びなんか全然ないのだと、さめざめと嘆く久慈あさみに、心のどこかでジェラシーしてた望月優子は、金持ちじゃないけどちゃんと子供作った私のほうが、ある意味、幸せなのかも?と思いなおしました。

他人の不幸は自分の幸福を再確認するチャンスです。良かったね!お母さん、てなもんです。

子供たちだけで留守番していた間に、毛布が盗まれてしまったらしいので家に巡査・岡豊がやって来ます。慌てる望月優子でしたが、実は毛布は賢い長男が発見して持ち帰っていました。巡査が怒っていたのは、犯人がとりに来るところを逮捕しようとしたのに邪魔されたからなのでした。

ヤレヤレ、毛布の返還よりも、犯人逮捕なのかよ、毛布盗むくらいだからよっぽど貧乏なんじゃないのか?少しは同情しろよ、とか思うのですが、再犯防止のためですから、巡査も仕事ですし。

さて、団令子ですが、佐野周二に何を相談してたのかというと、今度見合いした相手と結婚することにしたのだが、過去の男性遍歴を告白すべきかどうか?という相談でした。佐野周二は、佐原健二にしたように団令子に口止めをするのでした。

ダンスの練習でシャツに口紅をつけて帰った佐野周二にブチキレた望月優子ですが、ダンスで壊れた夫婦仲はダンスで修復です。意外に上手な望月優子、実は若い頃はこんなふうに若い男子とブイブイ言わせていたのでは?

ダンスパーティーに参加することになった佐野周二。団令子の結婚相手が佐原健二だと知った佐野周二は、彼に太鼓判を押すのでした。

毛布を盗んだ犯人は、次男坊がたまたま知り合った貧乏な男の子のお母さん・千石規子でした。家族の大切さ、きっとこの男の子ために毛布を盗んだに違いないと察した望月優子は、息子達のお古を持たせてあげました。

刺激の少ない日常で、子育てと家事に追われて女性としての魅力がガタ落ちじゃないか?と不安になっていた女房が、何事も無い毎日がとても幸せなんだと、幸福の青い鳥はすぐそばにいたことに気がつくのでした。

貧乏な男の子が他人から親切にしてもらえることに慣れてなくて、むしろ汚い身なりで苛められてきたであろうトラウマを、お父さんゆずりに素直さと一生懸命さで、結果的に改善してあげる日吉としやすの、子供だけのシーンが心地よいです。

大人同士はあれこれと見栄や意地や理屈をこねてこじれてしまう人間関係なのに、子供同士は持ち前の純真さで諸問題を解決してしまいます。

その対比が鮮やかなのですね。最後に、貧乏な子供と完全に心を通わせる日吉としやすに、佐野周二も望月優子も完全に食われてしまいました。

2011年09月04日

【追記】まだ無名だった中丸忠雄は、ダンスの講習会に来ている生徒(壁際に立っています)、ダンスパーティーではわりと上手に踊っていたりします。お見逃し無く。

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-09-05