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沙羅の門


■公開:1964年

■制作:宝塚映画

■制作:寺本忠弘

■監督:久松静児

■原作:水上勉

■脚本:新藤兼人

■撮影:梁井潤

■音楽:崎出伍一

■美術:加藤雅俊

■照明:下村一夫

■録音:鴛海晄次

■編集:庵原周一

■主演:森繁久彌

■寸評:

ネタバレあります。


禅僧は妻帯できないので、承海和尚・森繁久彌の「妻」・加藤治子は一人娘・団令子を残して他界しますが、正式な妻ではありませんから葬儀にも参列できません。「後妻」・草笛光子はすべて了解済みで寺に「嫁いで」来た夜に、和尚とまぐわってしまい、それを目撃した一人娘は大変なショックを受けました。

ついこないだまでお母さんが生きていたのに、なんでこうもアッサリ別の女を愛せるの!こんな生臭い坊主の業界の「嫁」には絶対になりたくない!と心に誓う娘でした。

時は流れて女子大生になった団令子は、アプレな若者・船戸順と肉体関係を持っています。坊さんに嫁ぐと正式な妻になれず、坊さんが死ぬと寺を無条件で追放されるような人生は真っ平です。団令子の一途さに比較して、船戸順はどう見ても遊びのようです。

案の定、船戸順は団令子の妊娠を知るとそわそわおちつきが無くなり、草笛光子が責任を追及すると「オレの子かどうかわからない」とか言ったりします。ところが、団令子にもその可能性が否定できず、ということで草笛光子が実家から借金した金で団令子は堕胎しました。

知り合いの寺に下宿して一人暮らしの団令子は、ビアホールでアルバイトすることにしました。そこへパリっとした感じのサラリーマン・木村功が客としてやって来ます。彼は気さくで真面目(そう)な大人でした。将来性に不安のあった船戸順はハズレくじでしたが、今度こそ!団令子は木村功と付き合うようになりました。

だが、しかし、木村功は妻子もちでした。つまり団令子は浮気相手です。ちゃんとした奥さんになりたい、そんな団令子の夢は叶うのでしょうか?

一方、森繁久彌は今日も檀家を回って大忙し、スクーターの後部座席に若い僧侶・細谷清を手伝いに来させて走り回っていました。がめつい、等々の陰口をたたく人もいましたが、一人娘を女子大へ通わせるのは並大抵のことではないのでしょう。

お父さんの知らぬ間に、男に捨てられて捨て鉢になっていく娘の団令子。森繁久彌はそんな娘を、手伝いに来た若い僧侶のところへ嫁がせようと思っていました。実母、継母ともに幸福な生活を送らせていると信じている森繁久彌は、娘の下宿先を訪ねました。

父は知らぬようで娘の行動はすべて知っていました。娘は、妻と言っても内縁の妻にしかなれない禅宗のしきたりに精一杯反抗してきたことを吐露します。娘の淫らな男性関係を叱り飛ばした森繁久彌でしたが、当然と思っていた禅僧のしきたりが、娘に与えた精神的な苦痛を思い知るのでありました。

老いた森繁と、未来のある団令子、いつまでもあると思うな親と金。金はともかく、森繁久彌は高い授業料を払って親子の情愛に目覚めた団令子に深い愛情を注ぎ、娘も老いた父親を気遣う心のゆとりが生まれました。

しかし森繁久彌は、スクーターごとダンプに撥ねられて病院に担ぎ込まれてしまいました。

瀕死の森繁久彌、枕辺の団令子と草笛光子、一瞬、目を開けましたが帰らぬ人となりました。

早速、お葬式です。多くの僧侶たち・遠藤辰雄田武謙三らが、こまごまとした手続きを進めます。そこで、正式な妻ではない草笛光子は、寺を出ることになります。そんな馬鹿な!と叫ぶ団令子ですが、すでにあの、父が決めた許婚でもあった若い僧侶は、そそくさと立ち去りました。

葬儀を取り仕切った偉い僧侶・宮口精二の冷たい視線に、憎悪の炎がゆらめく団令子、しかし、抵抗してもせん無いことのようです。

沙羅の門というのは、加藤治子と結ばれた記念に寺の門のところへ森繁久彌が植えた花木のことです。この香りをかぐと草笛光子は身体が悶々とするらしいのですが。

正式な妻じゃないから「姉さん」と呼んでと言っていた草笛光子に、団令子は最後に母親と呼ばせて欲しいと言います。自立を誓い合った二人は誰にも告げずに寺を去って行きました。

団令子が木村功を吹っ切るとき「男は自由でいい、男に生まれたかった」と泣きながら訴えるところは、彼女自身と彼女の実母、継母への思いが一気に溢れ出すイイ場面でした。

ところで、木村功っていつも、甲斐性も無いくせに女に手を出すへタレな役が多いような気がします。もう、出てきた瞬間に「やめとけ!団令子!」と心の中で叫んでしまうのですが、それは製作者の意図なのでしょうか?

たぶん、そうだな、おかげで団令子の焦りと気の毒さ加減が増幅されたような印象です。

無償の愛を注いでくれる、大切な人の存在を知った団令子はきっと立ち直ることでありましょう。

ところで、草笛光子と団令子、実年齢でも2つしか違いませんから姉妹でも充分に通用するな、と思いました。

2011年09月04日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-09-05