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本日休診


■公開:1952年

■制作:松竹

■制作:山本武

■監督:渋谷実

■原作:井伏鱒二

■脚本:斎藤良輔

■撮影:長岡博之

■音楽:吉澤博

■美術:浜田辰雄

■照明:

■録音:

■編集:

■主演:柳永二郎

■寸評:

ネタバレあります。


貧乏人相手に治療費は、ある時払いの催促なし、これじゃあ病院の経営は成り立たないと思いますが、個人病院の医師・柳永二郎は戦争で息子を失い、甥っ子・増田順二に経営を引き継いではいますが、まだまだ現役バリバリです。

毎日、大勢の患者がやって来ます。新規開業の一周年、明日は休診にしようということになり、若い看護婦・岸恵子らは温泉旅行に行こうと言い出し、柳永二郎は留守番でゆっくり昼寝を楽しむことにした。

ところが、次から次へと「急患」がやって来てしまいます。

婆や・長岡輝子の息子・三國連太郎は戦争で頭をやられてパーになっているので、日々、一人で勝手に軍事教練をしています。いきなり通行人を兵隊と間違えて暴れ出したため、柳永二郎が「お昼寝」を命じて事なきを得ます。

本日休診なのに、おばさん・田村秋子がどうしでも柳永二郎に会いたいとやって来ます。彼女は、この病院の患者さんの第一号、しかも急に産気づいて無事に子供を出産したけど、その料金を払っていなかったと言って十九年ぶりに訪ねて来たのでした。

現在、息子・佐田啓二は立派に成長(おまけにハンサム)しており、会社の給仕として働いており、お母さんも金物拾いをしてお金が溜まったので、料金を払いに来たと言うのです。感激しきりの柳永二郎です。

次は巡査・十朱久雄が若い娘・角梨枝子を連れてきます。彼女はどうやら暴行されたらしいのです。角梨枝子は東京へ男を頼って来たところ、ゴロツキの女・望月優子にカバンを持ち逃げされ、ゴロツキの男に強姦されたのでした。訪ねる予定の男と恋仲だったらしい角梨枝子は絶望してしまいますが、柳永二郎にやさしく諭されました。

田村秋子は角梨枝子に深く同情して彼女を家に連れて帰りました。

柳永二郎はやっと、お昼寝ができるかと思いきや、今度はジャリ船の中で妊婦が苦しんでいるのを往診することになりました。どうやら亭主・山路義人は博打が好きなようです。たっぷり説教をする柳永二郎でした。

さて、やっと・・・今度はやくざ風の男・鶴田浩二がやって来ます。シノギが上手くいかない責任を取るために指を詰める、痛いから麻酔をしてくれというのです。

なんというヘタレでしょう!鶴田浩二!

情婦で飲み屋の酌婦をしている淡島千景は心配で鶴田浩二と一緒について来ています。どうせ、指詰めを淡島千景に宣言してから来たのでしょう。本気なら、黙って一人で来るはずです。

なんというヘタレでしょう!鶴田浩二!

死んだ息子と同い年の鶴田浩二に、たっぷり説教をする柳永二郎でしたが、ちょっとしか出ないくせにクレジットはトップじゃないとイヤだ!という鶴田浩二、じゃなかった、女の前でイキがりたい鶴田浩二はあっさりこれを無視してしまいます。

鶴田浩二はさらに、淡島千景を妊娠させた金持ちの家を強請ろうとしますが、そこの女丈夫なご夫人・市川紅梅に体よくあしらわれて、ほうほうの体で逃げ出します。

なんというヘタレでしょう!鶴田浩二!

淡島千景は身体を売ってお金を工面しますが、死産のため倒れてしまいました。即、手術をして入院させる柳永二郎、それでも淡島千景は入院治療費が払えないことを申し訳ないと言うのでした。

淡島千景の兄・中村伸郎は腕の良い炭の職人さんだったらしいですが、どうにも博打が好きなようです。とりあえず淡島千景の入院治療費はお兄さんのリヤカーと相殺してもらうことにしました。

突然、運び込まれた盲腸の急患は無料で手術してもらいましたが、たちの良くない男・多々良純がやって来て入院治療費を踏み倒して逃げてしまいます。同じ病室に寝ていた淡島千景は患者脱走の責任を感じて病院を抜け出そうとします。

その頃、ジャリ船の船頭、多々良純、鶴田浩二たちは金の工面をするために、ある家に集まって博打をしていました。その向かいの料亭に招待された柳永二郎は、警察の幹部たちが酒に浮かれているのを嘆きましたが、実はそれは、賭博法違反で現場に踏み込むためのカモフラージュでした。

一網打尽にされた男たちでした。またもや柳永二郎に説教される一同、そして鶴田浩二は淡島千景の健気さにうたれて真人間になることを誓いました。

傷物にされた角梨枝子と、大事な一人息子の佐田啓二との縁組を柳永二郎から提案された田村秋子は、一度は難色を示しましたが、淡島千景を献身的に看病したり、佐田啓二の会社で優秀なタイピストとして懸命に働く姿に感激し、二人の結婚を許しました。

今日も今日とて、三國連太郎は部下の鴨に軍事教練をしようとして「脱走」されてしまいパニックを起こします。

温泉旅行から帰ってきた岸恵子、佐田啓二と田村秋子、長岡輝子、そして柳永二郎たちは、脱走した鴨が仲間と合流して編隊飛行をしていると、三國連太郎に説明して気を静めさせると、強い絆で互いに助け合って長い渡りをしていく鴨の群れに敬礼をするのでした。

三國連太郎みたいな近所の馬鹿は、どこの町内にも一人はいて、疎外されることもなく助け合いの中で生かされていた時代が確かに、つい最近まであったような気がします。しかし、それは彼が戦傷でパーになったというところが原点にあると思われるのです。

敗戦で等しく貧乏な間は互いに、いとしみあうのですが、この映画から50年後の日本では、格差が広がって互いに助け合うことも、近所の馬鹿に居場所を与えることもなくなった様に感じます。

「昔はよかった」誰でも言えるのですが、今、しみじみと観る映画としては、本作品、価値が再認識されてもよいような気がしています。ただし、入院治療費踏み倒しだけは、今も昔もNGなので、ここは見習っちゃいけませんが。

2011年08月21日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-08-21