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悪魔の囁き


■公開:1955年

■制作:新東宝

■制作:金田良平

■監督:内川清一郎

■原案:植草甚一

■脚本:川内康範

■撮影:河崎喜久三

■音楽:大森盛太郎

■美術:黒沢治安

■照明:矢口明

■録音:道源勇二

■編集:

■主演:中山昭二

■寸評:

ネタバレあります。


オフライン、モバイル、そんなコミュニケーション手段が実現できたのは当時、無線機だけで、しかも小型軽量ではないのですが、無理やりウエラブルです。

誘拐犯からの指示はすべて小型無線機で行なわれるのです。身内を誘拐された被害者の家族は犯人から届けられたラジオのような無線機を携行して、指示を仰ぐのです。周囲の人には犯人の声は聞こえませんし、発信側が場所や周波数をクルクル変えるので警察は居所を特定することができません。

犯人、アッタマいいねえ!褒めてる場合じゃないですが。

人質の命が助かればあとはどうでもいいな、と思っている被害者家族としては、すぐに犯人逮捕を優先させる警察にジャマされないので、これまた一石二鳥ですね。

犯人はグループで行動しているようで、本日は取引現場でとうとう被害者の家族が殺されてしまいました。犯人はかなり残忍な性格らしいです。

警部・細川俊夫と刑事・舟橋元はメンツにかけても犯人を検挙したいので、嫌がる被害者家族をまるで囚人護送のように取り囲んで、身代金の取引現場へ強引に同行します、ダメだろ、それは!被害者の生命よりも、犯人逮捕、再発の防止、いつもそう、映画の中に出てくる警察って!

さて、都内で保育園を経営している篤志家の上原謙。早くに奥さんを亡くしていますが、カワイイ一人息子・二木マコト(まこと)がいます。同じ保育園に娘・二木てるみを通わせている金持ちの永井智雄。二木てるみと二木マコトはまるで姉と弟のように仲良し(てか、本当に姉と妹だし)なのでした。

すでに芸達者なお姉さんの二木てるみに対して、弟さんのマコトさんが完全に天然なのがステキです。

保育園の先生・筑紫あけみは美人で人気のある先生です。筑紫あけみには、美術館で学芸員をしている恋人・中山昭二がいます。彼は上原謙からも絶大な信頼を得ているので、いずれは保育園の経営者として後を継いでほしいと思われているのです。将来の不安もない二人、もうすぐ結婚の予感です。

万事が幸せで穏やかな上原謙の周辺ですが、彼の家には薄気味の悪い婆や・五月藤江がいました。しかし、彼女もまた心の優しい人でした。五月藤江だからと言って必ずしも黒魔術で死んだ娘を復活させようとしていたり、化け猫だったりするわけではないのですよ。

さて、ある日、永井智雄が上原謙のところへ慈善活動の寄付をお願いに来ました。永井智雄の期待をはるかに上回る金額の寄付を約束する上原謙、保育園ってそんなに儲かるのかなあ?とちょっぴり羨ましい永井智雄でした。

原宿の同潤会アパートに住んでいた筑紫あけみが謎の男たちに誘拐されました。

中山昭二が彼女の自室で発見したのはラジオに偽装した小型無線機、イヤホンから聞こえてくる声はドクロベエ様(「ヤッターマン」参照)・滝口順平の不気味な声でした。まさか「おしおきだベエ!」とかは言いません、ちゃんと真面目に脅迫してました、当たり前ですが。

中山昭二が勤務している美術館に納品された古美術の仏像を盗み出すように指示する犯人の声、その日、たまたま中山昭二が宿直なのを、まるで事前に知っていたかのようなタイミングでした。

ただでさえ、何を考えているのかわかりにくい、顔の表情が乏しい中山昭二ですが、滝のような大汗をかきながら仏像を運び出し、そしてそれを、犯人の指定場所へ置いてくるのでした。

上原謙からの通報で状況を知った刑事の舟橋元が向ったアパートには、無事に筑紫あけみが送り届けられていました。しかし、彼女には誘拐前後の記憶がありません、しかし、実はアパートの屋上に監禁されていたらしいのです。

駆けつけた中山昭二は、筑紫あけみとすれ違いをしてしまったので、まだ彼女の安否が確認できず、憔悴しきった彼の前にまたもや謎の無線機が!

彼はドクロベエ様の声に誘導されて、謎の美容院へ。そこは妙にエロっぽいマダム・角梨枝子が経営しており、不気味な女性美容師・荒川さつきがいました。

仏像の窃盗をバラされたくなかったら誘拐グループに協力するよう命令する角梨枝子、色仕掛けの誘惑に負けそうな中山昭二ですが、筑紫あけみを助けたい一心で、協力者になったように見せかけて真犯人を追及することにしました。

一味の仲間でしたが、口の軽い荒川さつきが、自宅アパートの二階から首にロープをかけられて転落死させられた上に、中山昭二が運転する自動車に引きずり回されて惨殺されてしまいます。

「これであなたも殺人の共犯ね!」焦りまくる中山昭二、いや、そんなに焦らなくてもよさそうですが。

今度は永井智雄の娘の、二木てるみが誘拐されました。

ドクロベエ様の声に誘導される永井智雄、彼のことを心配して一緒に身代金引き渡しの現場に向ったのは上原謙と筑紫あけみでした。

そうだよね、最初から無線機の声が真犯人の肉声だったら一発でバレるので、滝口順平の吹替えだったわけですね。

正体を現わした真犯人の口から出た声が、滝口順平だったのはあまりにミスマッチだったので正直、大笑いでしたが。

真犯人と格闘する中山昭二、ふだんは肉弾戦とは縁のなさそうな真犯人とマジなアクションシーンはかなり貴重です。

角梨枝子は真犯人の流れ弾にあたってしまい絶命します。身代金と一緒に逃げ出した真犯人でしが、すでにアタマが狂っていたのでしょう、自動車を運転中に彼が見た幻影は、彼が一番愛していたソレでした。

昭和のハイテク犯罪映画です。その装置が今から見るとダサダサなので笑える内容になっていますが、当時は斬新だったんだろなあ、と思って我慢しましょう。

しかも、その技術的なノウハウは角梨枝子の元の亭主だった丹波哲郎の手になるもので、丹波哲郎は落ちぶれて今では立派なホームレス、角梨枝子は真犯人の愛人になっていたので、彼女を忘れられずに未練タラタラでストーカーしていた丹波哲郎のおかげで真犯人を追いつめることができたのです。

偉いぞ!丹波先生!

表と裏とまったく別人格になる生活に心酔した犯人のマニアックさが「ジキルとハイド」のようで不気味です。幻影を見ながら自動車を運転する真犯人の絵柄は「怪人マブゼ博士(1933年、フリッツ・ラング監督)」を彷彿とさせました。

さて、問題の五月藤江ですが、実は彼女は重要なキーパーソン、ていうか誘拐された二木てるみを監視する役割だったのです。もちろん、見てるだけですよ、煮て食ったりはしません(何度もスイマセン、)。

身代金を受け渡す方法が、走る列車の上から河川敷に待機している犯人に、カバンを投げ落とすというフローなので「天国と地獄」の先達と言えるのではないでしょうか?それにしちゃあ、その他の部分が破天荒すぎですけれどね。

さて、クレジットに天知茂の名前があるのですが、正直、どれだかサッパリわかりません。黒服でマスクで黒メガネの男の顔が痩せていたのでたぶん、アレ?くらいでしたよ。

2011年08月07日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-08-07