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車夫遊侠伝 喧嘩辰


■公開:1964年

■制作:東映

■企画:坂巻辰男、日下部五朗

■監督:加藤泰

■原作:紙屋五平

■脚本:加藤泰

■撮影:川崎新太郎

■音楽:高橋半

■美術:井川徳道

■照明:

■録音:中山茂二

■編集:宮本信太郎

■主演:内田良平

■寸評:

ネタバレあります。


タクシー乗り場で、順番を巡って言い争いをする運転手さんを見たことがありますが、ほぼそれとノリが一緒な出だしです。

喧嘩っ早い車引きの内田良平は、関東でトラブルを起こして大阪に流れてきます。

現代のタクシー業界と同様に縄張りが厳密に決められているため、勝手に商売することは禁止にもかかわらず、内田良平は生意気な代議士・浜田寅彦をぶっ飛ばしたり、地元の車夫たちとモメて巡査・近藤宏に逮捕されてしまいます。

カミカゼタクシーって言葉はすでに死語ですが、企業タクシーの運転手さんのほとんどが歩合給なため客の回転率をあげようとして「黄色当然、赤勝負」という交通ルールを独自に施行するタクシーのことを指します。

内田良平の場合もほぼ同様。にもかかわらず車夫と同じくらい意地っ張りな客の芸者・桜町弘子を乗せてしまったため、道もよくわからない内田良平の車は闇雲に大阪の町を走り回り、ついには桜町弘子を橋の上から車ごと川に落っことしてしまいました。

桜町弘子は地元の有力ヤクザである曾我廼家明蝶の愛妾でしたが、橋から落ちるときに着物の裾がフワリと広がったのを真上から見てしまった内田良平は「女の大事なところを丸見えしてしまったので責任とって結婚する」という無茶苦茶な純愛宣言をこともあろうに明蝶親分に宣言します。

彼の気風のよさを買った明蝶親分は桜町弘子を譲ります。

ココから先が内田良平のやっかいなところで、新婚旅行先の旅館で主人夫婦・ミヤコ蝶々南都雄二から明蝶親分から女を奪ったと判った内田良平は結婚破棄というモノすごい自分勝手な行動を取ります。キレる桜町弘子。

このように以下、男の意地の張り合いによる超法規的な行動の数々をフォローする女という構図がこの映画の基本的なフレームワークです。

東京で講道館柔道にコテンパンにされた格闘家・大木実が大阪へやってきて、初日から内田良平と対決、内田良平はボコボコにされてしまいます。

大木実の目的は大阪で「一旗上げること」でしたが、曾我廼家明蝶にはとてもオッカナイお兄さん・近衛十四郎がいて、彼は地元警察で柔術の師範を務めている実力者でした。まず手始めに近衛十四朗と対決した大木実は、前半かなりいい勝負でしたが、最後はぶっ飛ばされてしまいました。

近衛十四郎には絶対に勝てないなと思った大木実は卑怯な手口を使うことにしました。地元漁師の迷惑もかえりみず子分達・汐路章たちとダイナマイトで漁をしていた明蝶親分のことを警察にチンコロしたのです。

なんだ?コイツ、格闘家として正々堂々、名を上げるんじゃなかったのか?

逮捕された明蝶親分は懲役に、後はシッカリ者の子分・曽根晴美に任せました。

親分不在の間に、地元のゴロツキを手下に従えた大木実は立派な愚連隊の親分になりました。

おいおい・・・目的と手段を取り違えている大木実、方針転換を図図るにもほどがありすぎです。

明蝶親分が奥さん・千原しのぶにナイショで囲った新しい愛妾は藤純子でした。彼女には苦学生・河原崎長一郎という恋人がいましたので、明蝶親分とはビジネスライクな愛人関係が前提でした。

おやまあ、お藤さんたらリベラルだこと!冗談でも曾我廼家明蝶と藤純子のラブシーンなんて、いろんな意味でありえませんけどね、きっと。

大木実は出所してくる明蝶親分を暗殺しようとして、ついうっかり河原崎長一郎を射殺してしまいました。

おまえ(ら)、本当に使えねえ野郎だな!

すごく美人でインテリな妹にいいところ見せようとしたお兄ちゃんの焦りにしては、人間としていかがなものか?のレベルに達したので、内田良平の怒りが頂点に達します。

大木実と内田良平の果し合い。大勢の手下を引き連れた大木実ですが、やっぱりコイツは根っからの悪人じゃないので、一騎打ちを申し込まれると断れず、内田良平の正義の一撃で片腕を吹っ飛ばされてしまうのでした。

大木実が馬鹿すぎです。

世界が少年ジャンプなら天下を取れるでしょうが、やることなすこと全部チグハグです。それでもなんとか映画として最後まで持つのは冒頭の桜町弘子の落下シーンから、クライマックスの果し合い、橋の上の三々九度、等々エンタテインメントな絵柄の見所満載だからだと断言してやります。

内田良平に若さというモノが感じられないため、うっかりすると単なる世間知らずの馬鹿なオッサン大暴れに見えてしまうのですが、デリカシー無さそうな内田良平が存外なフェミニストで、桜町弘子が男気溢れるキャラなので観ていてスカッとするしバランスも良しでした。

ちゃんと作ってあるからといって、面白いか?と言われると、個人的にはかなり微妙。藤純子がすげー可愛かったなあという感想でお茶を濁しておきます。

2011年07月24日

【追記】

※本文中敬称略


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file updated : 2011-07-24