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真昼の罠


■公開:1962年

■制作:大映

■企画:塚口一雄

■監督:富本壮吉

■原作:黒岩重吾

■脚本:高岩肇

■撮影:宗川信夫

■音楽:池野成

■美術:千田隆

■照明:伊藤幸夫

■録音:三枝康徐

■編集:

■主演:田宮二郎

■寸評:

ネタバレあります。


同性から最も嫌われるキャラクターをやらせたらおそらく、戦後日本一になるかもしれない、田宮二郎が主演。

女グセの悪いエリートサラリーマンの転落物語。同様のタイトルは松竹映画にもありますが全然関係ないです。

大手商社に勤務している田宮二郎は若くして係長に昇進した、自他共に認める画に描いたようなエリート、つまり鼻持ちなら無いヤな野郎です。

直属上司・村上不二夫を見下すほどの傲慢ぶりで、同期入社の友田輝は些細なミスから上司の不評を買っており、田宮二郎に大きく水をあけられています。

田宮二郎は課長の上司である部長・高松英郎、さらには取締役の覚えもめでたいので近々、将来の重役候補の登竜門と言われている海外留学のチャンスが巡ってきそうなのです。

すっかり有頂天の田宮二郎、おまけに彼はハンサム、高身長、高学歴、これではモテないほうがおかしいというモノです。

彼は寄ってくる女は玄関マットくらいにしか思ってませんから、年増の女医・角梨枝子、秘書課の渋沢詩子とはほんの遊びのつもりでした。

彼の人生ゲームのシナリオでは、重役以上の子女と結婚することで将来の出世が約束されて「あがり」となるので、いくら金があっても、いくら若くても、可愛くても無価値なのです。妊娠とか付随する堕胎なんて余計な「一回休み」くらいの石ころとしてしか認識できません。

田宮二郎は高松英郎の趣味につきあってクレー射撃の知見と技術を磨いています。エリートは基本、努力家ですからね。

ある日、射撃場で出会った女、叶順子はアンニュイな感じで、田宮二郎を見ても全然ガッついて来ません。

今まで女のほうから寄ってくるのが当たり前だった彼のプライドを刺激しつつ、女性観を変えうる運命の出会い、田宮二郎は彼女に魅了されてしまうのでした。

それもそのはず、叶順子は超大物の総会屋・小沢栄太郎の愛妾なのでした。

ビビる田宮二郎、気持ちはわかりますが、実は肝っ玉の小せえ野郎だったのね。

友田輝は、小金もちの女医に求婚してフラれたらしいですし、課長の村上不二夫も彼女に手を出していたようです。

「あんな手近なところで満足しようだなんて、将来性の無いヤツラのキモチはわからんな(笑)」心の中で蔑みまくりの田宮二郎でしたが、ある日、角梨枝子が自宅で絞殺死体となって発見されてしまいます。

ここから一気に人生の下り坂を経験する田宮二郎の狼狽ぶりが映画の見所となります。

叶順子にモテたいばっかりに角梨枝子からの借金がバレて容疑者扱いされてしまい、刑事の夏木章や警部の中条静夫から馬鹿にされたような取調べを受けてボロボロになっていく田宮二郎は名誉回復のために会社サボって自ら犯人探しに乗り出します。

さらに叶順子との浮気がバレてしまったので小沢栄太郎から会社の機密書類を盗み出す約束させられた田宮二郎は、村上不二夫を恐喝してまんまと書類をゲット、しかしその書類から会社の巨大な不祥事が明らかになります。

看護婦・弓恵子をたらしこんでまで真犯人を追及した努力が実り、晴れて無実が証明された田宮二郎ですが、社名が新聞に出てしまった責任は、会社にとっては人殺しよりも重罪だったということに気がつかず、あっさりと解雇されてしまいます。

チビでもハゲでもエロジジイでも、知力・体力・胆力という男の魅力をトータルに搭載した小沢栄太郎のほうが、田宮二郎よりも圧倒的にカッコよかったというオチでした。

彼のサラリーマンとしての失敗は己の実力だけを頼みとして人脈を作ってこなかったこと、または、その人脈が腐った蜘蛛の糸だったということですね。

いろいろあったけど結局は身の丈にあったほどほどの幸せをゲットできたわけだから、松本清張の「寒流」みたいな最後にならなくて良かったね!田宮くん!

2011年07月18日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-07-18