くちづけ

■公開：1955年

■制作：東宝

■制作：藤本真澄

■監督：筧正典、鈴木英夫、成瀬巳喜男

■原作：石坂洋次郎

■脚本：松山善三

■撮影：山崎一雄

■音楽：斎藤一郎

■美術：中古智

■照明：大沼正喜

■録音：下永尚

■編集：

■主演：青山京子（1）司葉子（2）高峰秀子（3）

■寸評：

ネタバレあります。

オムニバス映画です。

第一話「くちづけ」

カンニングを許すほど仲のよい大学生・太刀川洋一（太刀川寛）と青山京子。彼女の家には母親・滝花久子と、青山京子の死んだ兄・竜崎一郎（遺影）の妻、つまり義理の姉・杉葉子とその息子・日吉としやすが同居しています。

お父さんがいないこの家を経済的にバックアップしているのは叔父・十朱久雄です。

女子供だけの家ですから、イロイロと心配な叔父さんとしては、青山京子の教育と若後家の杉葉子の今後の身の振り方も考えてあげたいところです。

青山京子は垢抜けない素直なお嬢さんです。

太刀川洋一は不良っぽいですが、軟派でもなく、真面目で真っ直ぐな青年です。

杉葉子に再婚話が持ち上がります。女ざかりな杉葉子には別に不思議でもないですが、当時の倫理観というか、恋愛にロマンを求める青山京子としては「前の旦那さんの子供がいるのに、新しい男と結婚するなんて不潔よ！」と思っています。

それに、継子になってしまう日吉としやすが冷遇されるのではないか？というお姉ちゃんらしい心配もあります。

頼りになるかどうか少々物足りなくても、イチバン身近にいる太刀川洋一に意見を求めたところ、人間の幸福には個人差があるからあまり立ち入らないほうがいいんじゃないか？最後は本人の意思を尊重したほうがいい、という回答でした。

うん、うん、太刀川洋一ってイイ奴じゃん？童顔だけど、ちゃんと大人じゃん？

試験のカンニングがバレたらしいので担当教官・笠智衆から呼び出された二人は素直に謝りますが、呼び出しの理由は「大学生のくせにいかがわしい宿屋から連れ立って出てきたから」というモノでした。

自首して損した二人ですが、いかがわしい宿屋というのは青山京子の家の使用人の嫁ぎ先で、ときどきご飯を呼ばれていたので、太刀川洋一もご相伴に預かったということでした。

二人の爽やかで素直な若さ、俗な汚れのない屈託の無さが、やけに眩しくてほほえましいと感じる笠智衆であります。

太刀川洋一が青山京子に思わず接吻しましたが、びっくりした青山京子はダッシュしてしまいました。

結婚前に接吻なんて不潔よ！ま、当時ならキスしたら子供が出来るくらいに思っていた大学生がいても不思議じゃないのかも。

さて、杉葉子は再婚話を断りました。

前夫の忘れ形見の成長を見るのが楽しみだというのです。なんだか嬉しくなっちゃった青山京子でありました。

第二話「霧の中の少女」

東京の大学に通っている司葉子の実家は田舎の兼業農家です。

ご両親・藤原釜足、清川虹子（え？ええっ？）は都会で一人暮らしをしている娘がものすごく心配です、特に母親のほうはすでに何かあったんじゃないか？くらいに心配です。

そこへ司葉子の学友・小泉博がバックパッカーしながら遊びに来るらしいです。

どんな野郎が来るのやら？そこでご両親は、小泉博が滞在中に司葉子と何かあっては大変なので、監視要員として妹・中原ひとみをアサインします。

都会の男ってどんなだべ？（会津ですから）ちょっとでも姉ちゃんにヘンなことしたらオラの責任問題だ！小さな身体に大きな瞳のバンビちゃん（中原ひとみ）はミッションの重大さに張り切ります。

ああ、なんてカワイイんだ！「きいちのぬりえ」みたいなバンビちゃんであります。

小泉博は図々しいけどアタマ良さそうだし、フランクな人だったので、弟・伊藤隆ともすっかり仲良しです。祖母・飯田蝶子は酒飲みの若い衆の到来に便乗して、ビールをくいっくいっと飲んじゃいます。

お父さんも便乗しようとしましたがお母さんに無言の圧力をかけられてしまい断念。

実は、司葉子と小泉博は結婚を前提として交際中でした。

なるほど、二人ともガツガツしてないはずだわ。

おばあちゃんの発案で山奥の温泉に、司葉子、小泉博、バンビちゃん、弟の4人で出かけた夜、湖畔のデートを楽しんでいる二人をそうとは知らずに「お目付け役」の任務失格ではないか！と泣きそうになりながら、深い霧の中に一人で飛び出して必死に探すバンビちゃん。

ああ、なんてカワイイんだ！てか、心配だ！小泉博ならいいけど他のオオカミに食われやしないか？

何気に現れた二人に安心したバンビちゃんは安心して大泣きしましたとさ。

バンビちゃんの作文を、小泉博が読んであげるシーン。

田舎暮らしを朴訥に綴った文章を小泉博のアナウンサー声で浪々と読み上げるとまるで「新日本紀行」のナレーションのようでありました。

第三話「女同士」

だーかーらー、他人の日記なんか盗み読みしちゃダメですよ！デコちゃん！ほうら御覧なさい！ロクなことにならないでしょう？

田舎の町医者・上原謙は自宅で開業しています。妻・高峰秀子は看護士免許を持っていないので助手は、看護学校出た娘を地元採用しました。

彼女・中村メイコは真面目だけど、世間知らずでウブです。

日々、上原謙の助手としてかいがいしく尽くしますが、高峰秀子は気が気じゃありません。

そりゃまあ、亭主が上原謙じゃあ浮気の一つや二つや三つや四つや・・・心配かもしれませんが、デコちゃんともあろう人が中村メイコにライバル心燃やすというのは如何なものか？

中村メイコには地元の八百屋の若旦那であり従業員である小林桂樹がオカボレです。

ある日、中村メイコの日記を盗み読みしてしまった高峰秀子は、夫への恋愛感情を確信して危機感を抱きます。

いてもたってもいられなくなった高峰秀子は都会でサラリーマンをしている兄・伊豆肇に相談してみました。

「田舎娘が（他に選択肢がないので）イチバン身近な学校の先生に憧れるようなもので、一過性だから心配無用」と諭しますが、高峰秀子の不安はいや増すばかり。

それって中村メイコがどうのというより、上原謙の女グセの悪さを心配してるのかしら？デコちゃんったら。

そこで高峰秀子は、小林桂樹と中村メイコをくっつける作戦を開始します。

かなり強引でありますが、中村メイコも小林桂樹のことが嫌いというわけではありません。

お祭りの夜、中村メイコは小林桂樹とプチデートをしてしまい無断外出してしまいます。

上原謙は職務放棄を叱りますが、女性としての幸せをまっとうさせてあげるために、中村メイコを優しくクビにしました。

ほっと一安心のデコちゃん、だが、しかし！他人のプライバシーをあばいた天罰はとんでもない形でデコちゃんに下りました。

新しく雇った看護助手が八千草薫だったのです。ガビーン！なデコちゃんでありました。

正直、それはいくらなんでも中村メイコに失礼すぎるオチではないか？でも、相手が八千草薫じゃ納得だな。

高峰秀子、一人相撲の幕切れはかなりな大笑いでした。

（2011年07月10日 ）

【追記】仕出しウォッチング情報：無名時代の中丸忠雄は第一話の十朱久雄と青山京子が食事をしているレストランの客、第三話の伊豆肇のところへ相談に行くためにデコちゃんが乗った電車の乗客（居眠りなう）です。

※本文中敬称略

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