誘拐(1962) |
|
■公開:1962年 ■制作:大映 ■企画:塚口一雄 ■監督:田中徳三 ■原作:高木彬光 ■脚本:高岩肇 ■撮影:小林節雄 ■音楽:塚原晢夫 ■美術:仲美喜雄 ■照明:渡辺長治 ■録音:西井憲一 ■編集: ■主演:宇津井健じゃないと思うけどなあ・・・ ■寸評: ネタバレあります。 |
|
誘拐というのは犯罪の中でも卑劣度合いが最悪です。 今日も凶悪な誘拐犯・杉田康の裁判が行なわれています。 世論を味方につけている検事・根上淳はここぞとばかりに容疑者を追及します。 この事件は誘拐した子供が殺されてしまっているので、有罪になれば極刑の可能性もあるのです。 しかし、途中までは上手く行きそうだったらしいですが、犯人はいくつかの失敗を重ねて逮捕されていました。 目の怖い弁護士・宇津井健も旗色が悪いので情状酌量の余地を探すくらいしかできませんでした。 世間が注目している事件ですから傍聴人も多いのですが、毎回通い詰めている男がいます。 こいつはミステリー小説や犯罪の歴史に詳しいらしく、犯人のミスを小馬鹿にしているようです。 ある日、評判の悪い金貸し・小沢栄太郎の何番目かの後妻・中田康子の子供が誘拐されたらしいという情報が、出入りのクリーニング屋の口からあっさり警邏の巡査に伝わってしまいます。 小沢栄太郎は金で解決しようとしたのですが、刑事・高松英郎はなんとしても犯人を逮捕したいので捜査への協力を家族に強要します。 高松英郎は公判中の誘拐事件の担当者であり、犯人を取り逃がして事件を最悪の結末にした後悔があるので、なんとしても事件の早期解決をしたいわけです。 警察っていうのはメンツを潰されると意地になってしまいがち、今回も人質の命よりも、とりあえず犯人逮捕に燃えているようです。本当に映画のに出てくる警察ってのは学習能力の無いヤツラです。 犯人からの電話は一度きり、逆探知も無理。身代金引渡しの現場に行ったのは小沢栄太郎の腹違いの弟・川崎敬三でした。 彼は若い女・八潮悠子に身代金を奪われてしまいました。 またもや警察のミスです。小沢栄太郎は金は取られるは、歳食ってからできた掌中の珠のような大事な息子は戻ってこないわで、その怒りの矛先は、川崎敬三はもちろんのこと、事件発生時に家を無断で空けていた中田康子にも向けられました。 真犯人は誰なのでしょう? 小沢栄太郎の元愛妾で、今でも同居している倉田マユミとその息子・当銀長次郎でしょうか?それとも、川崎敬三の友人であり、身持ちの悪そうな村上不二夫でしょうか? 身代金の札番号と同じ紙幣を使った男・片山明彦が参考人として身柄を確保されます。 彼は手形を割り引いてもらった金だと主張します。調べてみるとその手形を割り引いたのは川崎敬三でした。 中田康子の妹・渋沢詩子の婚約者・大瀬康一は宇津井健の後輩でした。 優秀な弁護士だし、関係者の先輩でもある宇津井健は妻・万里昌代とともに事件の解明に乗り出します。 しかし犯人からの要求もぷっつり無くなり、誘拐された少年も戻ってきません。 事件解決のキッカケの一つは、追加要求のあった身代金受け渡し現場になるはずでしたが、川崎敬三の持って行った現金を強奪したのは当銀長太郎でした。 すわ、真犯人か?と思われましたが、単に母親をないがしろにした小沢栄太郎への面当てでした。 すでに中田康子との関係は冷え切ってしまった小沢栄太郎は新しい愛人・市田ひろみの家に入りびたりでした。 離婚も決定的のようです。 とうとう真犯人はわからずじまいかと思われました。 やっぱウドの大木だな、宇津井健は、とか思っていたらやっぱり妻の万里昌代のほうがずば抜けて優秀なのでした。 事件の経緯が公判中の誘拐事件にそっくりでありながら、犯人が逮捕される要因のミスをカヴァーしている点に注目した宇津井健と万里昌代は、公判を毎回傍聴しにきた男が怪しいと断定。 判決の出る日にも必ずその男は来るはずだと万里昌代が川崎敬三に言うと、彼はぜひ自分も傍聴してみたいと言い出しました。 犯人はマニアックなだけでなく、小沢栄太郎に歪んだ憎しみを抱いている人物でした。 身代金をせしめるのが目的なのではなく、小沢栄太郎の死後の遺産を狙っての犯行。 したがって、妻である中田康子の離婚と、被害者であり相続人の一人でもある息子の殺害の両方が、犯人の目的なのでした。 現金受け渡し現場に来た八潮悠子も犯人の手によって殺されました。 全部上手く行くかと思いきや、法律の専門家である宇津井健の解説によると、被害者である息子の安否が確認できないうちは財産の相続はストップされてしまうのです。 犯人が犯人である証拠もまた、無いので高松英郎は目の前にいる犯人の逮捕もできず。 しかし犯人は自らの罪の意識によって自滅してしまうという幕切れでした。 「天国と地獄」のさきがけ的な作品ということです。 誘拐映画というジャンルがあるとすると、その妙味は、身代金引渡しのアイデアと、真犯人の動機かと思われますが、本作品は、金の受け渡しはシンプルでしたが、動機が複雑だったので、そこんところが後の大作との共通点かもしれません。 ま、後の大作は憎まれ役が三船敏郎だったのでそれほど観客に憎しみを掻き立てられなかったので山崎努の一人相撲の様相がなきにしもあらずでしたが、本作品は小沢栄太郎ですので観客と犯人の心情の一致度は高いです。だからと言って、子供を殺すようなヤツに同情を感じることは一切ないのですが。 川崎敬三は好きな俳優さんですが、器用貧乏という称号がこれほど似合う人もいなかったよね、と思います。 その真逆にいたのが宇津井健。 両者とも二枚目だと思うのですが、宇津井健は不器用だし長台詞苦手だし、というわけで単純な二枚目しかできない人でしたが、川崎敬三はいろんな役ができすぎてしまったのですね。 繰り返し言いますが本作品で事件の解決に画期的なヒラメキをしたのは万里昌代であって、決して宇津井健でなかったということを確認しておきましょう、他意はないですが、そのくせ最後の犯人を問い詰めるところだけ活躍して美味しいところをさらってましたけどね。 (2011年07月03日 ) 【追記】 |
|
※本文中敬称略 |
|
file updated : 2011-07-03