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「空白の起点」より 女は復讐する


■公開:1966年

■制作:松竹、A&Aプロモーション(後のアマチプロゼ)

■制作:岡部竜、杉崎佐保

■監督:長谷和夫

■原作:笹沢佐保

■脚本:宮川一郎

■撮影:小杉正雄

■音楽:牧野昭一

■美術:根岸正晃

■照明:山形邦夫

■録音:アオイスタジオ

■編集:笠間編集工房

■主演:天知茂

■寸評:A&A:天知茂&芥川隆行

ネタバレあります。


個性派女優という称号には二つの意味があって「顔で勝負してない(ブスじゃないけど美人じゃない)」と「演技が上手い(あるいは奇矯である)」の両方かまたはどちらか。

川口小夜は「個性派女優」と呼ばれているようですが、わりとベタな芝居をする人なのでたぶん前者でしょう(し、失礼な!)。すいません、個人的に女優のアップノーズとビーバーが嫌いなもので。

東海道線の各駅停車の車内では、秘書とおぼしき女・川口小夜が「急いでいるのは知ってましたが新幹線は怖いので在来のしかも各駅の切符を取ってしまいました」というわけのわからない理由を一生懸命上司に説明していました。

「ったく、ドン臭え女だな」というような失礼な感想を持ったかどうかは知りませんが、それをジッと見ていた渋いオッサン・天知茂と鼻っ柱の強そうな女・原知佐子、そして温厚そうなオッサン・美川陽一郎の三人は保険会社の調査員でした。今日も今日とて人間の欲望渦巻く罵りあいの現場を見てきた三人はなんとなく気持ちがダルくなっていました。

偶然、その電車が通過した崖の上から男性が投身自殺をします。目撃者の一人は川口小夜でした。

死んだ男性は、なんと偶然にも川口小夜の父親・加藤嘉でした。

父親には死ぬ前にタップリと保険がかけてあり、しかもその受取人は川口小夜、一人だけだということで、家庭争議必至の状況でもあり、天知茂は保険金目当ての殺人事件ではないか?と、必要以上に怖い顔をして確信するのでした。

案の定、彼女の実家を訪ねてみると、姉・富永美沙子、その夫・北町史郎(北町嘉朗)、兄・露口茂たちは、自分たちの分け前が無いことに不満タラタラ。どうやら川口小夜とそのほかの家族は仲が悪いようです。

加藤嘉が他殺であるということは、警察も断定しました。刑事・中谷一郎の説明によると、自殺するには状況に無理があり、誰かに突き落とされたのであろうということでした。

突き落とされるにしても、そんな足もとが危ない崖の上に、何故うかうかと立ち入ったのでしょうか?どうやらこの事件には共犯者がいるようです。

警察は身持ちの悪そうな露口茂を追及しますが、アリバイがありました。

原知佐子と天知茂は、加藤嘉のところへ売り込みをかけていた画家の存在を、加藤嘉の会社の同僚・園井啓介から聞きだしました。

さらに天知茂は、加藤嘉の情婦・岩崎加根子から、その画家が菅井一郎であり、たびたび加藤嘉の家に金をせびりに来ていたことを知ります。

ところがその菅井一郎も自殺してしまいました。加藤嘉を殺して自分の死んだのだろうと警察は考えます。しかし、天知茂は菅井一郎が飛び込んだ入り江の漁師から重要な証言を得たのでした。

川口小夜と他の姉や兄は腹違いでした。加藤嘉が一目ぼれして猛アタックして結婚した、川口小夜の母親の元の男は菅井一郎でした。

母親の調査のためにゴルフ場へ向った天知茂は、母親のことを知る女性・賀原夏子が母親のもう一人の息子・池田駿介の年齢から、川口小夜の母親は加藤嘉と出会う前に彼女を妊娠していたことを知ります。

いよいよ川口小夜が真犯人ではないかと疑いを強くした天知茂でしたが、川口小夜は天知茂を誘惑し、ぽっちゃり型の肉体で篭絡しようとします。天知茂は彼女に魅入られたように寝てしまいます。イメージビジュアルで風に長髪をなびかせて官能ポーズを取る川口小夜には正直かなり引いてしまいますが、天知茂は彼女のことが好きになってしまったようです。

ちょっとアンタ!原知佐子という恋人がいるくせに、何やってんのよ!そんなデブ専、じゃなかった不誠実な人間だと思わなかったわ!と横っ面をはり倒してやりたくなる気持ちをグッと抑え切れなかった原知佐子にビンタを食らう天知茂でありました。

川口小夜の本当の父親は菅井一郎であり、それだけならまだしも、加藤嘉は亡き彼女の母親にベタぼれでしたので母親にソックリだった川口小夜を下半身のイキオイで強姦していたのでした。

菅井一郎はその件で加藤嘉を脅迫しつづけており、加藤嘉を崖から突き落とした実行犯は菅井一郎でした。しかし、加藤嘉を崖の上に誘い出す、あるトリックを実行したのは川口小夜でした。

真犯人の告白といえば「岸壁」と相場が決まっています。

アレだけのことを父親からされたらそりゃあトラウマになって男性不信に陥った挙句に、男性という生き物全体に復讐してやろうというキモチに川口小夜がなるのは当たり前ですわね。

菅井一郎を自殺に見せかけて殺したのは川口小夜、しかもその手口はいくら油断したからといっても大の男を背後から襲い掛かってそのアタマを海に突っ込んで溺死させるという力技。ていうか、体重かけた大技です。

最後にすべてを告白した川口小夜は自首するそうです。

さて、この事件にはもう一つのトラウマが関係していました。それは、浮気の挙句に亭主である自分を殺そうとまでして自殺した妻の亭主だった過去を持つ、天知茂のトラウマです。

従いまして、若いといってもイイトシこいてる川口小夜が処女じゃなかったからといって別に驚くことは無いわけですし、清純そうだから処女だろうなんていうのは男の幻想なんだと、それくらいダンディだったら判るだろう!と思うのが普通ですが、天知茂の抱えた過去を考えれば、彼の強い女性不信も納得です。

川口小夜の男性不信と、天知茂の女性不信とが、互いに葛藤しながら最後に融合したかに見えて、永遠に平行線だなと思わせるクールな背骨にブレがないので最後まで面白い作品でした。

天知茂が自らプロダクションを興した第一作ですから力も入ろうというものです。愛弟子の宮口二郎、チョイ役にはなんと笠置シズ子まで出てきます。お、ゴージャス!

ところで天知茂はお酒が飲めないそうですね。なるほど、美川陽一郎はブランデーグラスを手でもったとき軽く暖めてからチビチビっと飲みましたが、天知茂はまるでウイスキーかなんかみたいに速攻で一気飲みでした。

この人は本当に酒飲んだことないんだなあと思いましたよ。

2011年06月26日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-06-26