「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


悪魔の手毬唄


■公開:1961年

■制作:東映(東京)

■制作:猪又永一

■監督:渡辺邦男

■原作:横溝正史

■脚本:渡辺邦男、結束信二

■撮影:渡辺孝

■音楽:山田栄一

■美術:進藤誠吾

■照明:元持秀雄

■録音:加瀬寿士

■編集:祖田富美夫

■主演:高倉健

■寸評:原作に横溝正史ってあるけど、それは横溝正史が怒るんじゃないかと思います。

ネタバレあります。


角川映画の「悪魔の手毬唄」を日本国民全員が観ているわけではないのですが、磯川警部といえば若山富三郎であると断言するお客様は多いと思います。本作品の磯川警部は「警視庁物語」でパリパリだった神田隆です。他意はありません、ようするにゴツイオッサンだったよ、ということです。ちなみに、若山先生はフォーリーブスのコーちゃん、ライオン丸の潮哲也と入湯しますが、本作品では神田隆と健さんが仲良くお風呂に入ります。

人気歌手・八代万智子の実家は鬼首村にあります。故郷に伝わる子守唄をアレンジした新曲をリリースした彼女が久しぶりに帰郷の途中、何者かに殺されてしまうのです。

おい、おい、おい!のっけから原作と違うじゃんか!気にしないでいいです、この後もどんどん違いますから!

彼女の実家は大変に裕福でしたが、地元での評判は最悪でした。どうやら現在の当主、仁礼剛造・永田靖は主人筋にあたる家から土地や財産を横領したらしいのです。おかげで財産を失ったほうの家は当主の奥さんが子供を道連れにして無理心中、一家は離散してしまいました。

永野靖には八代万智子のほかに、彼女の弟で長男の仁礼源一郎・大村文武、妹で次女の仁礼里子・志村妙子(太地喜和子) 、末っ子の仁礼宮子・不忍郷子がいました。

田舎のバスの車中でも人気歌手の謎の死の話題でもちきりでした。その中にちょっと雰囲気の違う学生・小野透(かとう哲也)が乗っていました。彼は志村妙子が通っている神戸の大学の同級生なのでした。そのバスに怪しげというよりは下町の駄菓子屋にいそうな婆さんが乗ってきて不吉な予言をするのでした。

そのバスを土煙をあげて追い越していくオープンカー、乗っているのは明らかに悪い予感がするスカした野郎でした。そうです、彼こそが名探偵、金田一耕助・高倉健なのでした。おおー!健さんにも若い頃はあったのですよ、しかも、キャラクター設定時の迷いがありありとわかるような謎な役をやらされていたのですね。

以上、本作品の見どころの全ては以上です。

じゃ、後は蛇足なんでダラダラと解説しましょう。

健さんが宿泊したボロッちい旅館には三人のおじいさんが来ていました。山口勇島田順司、それに謡の上手なおじいさん・石黒達也。最後のおじいさんは足が悪いため、湯治に来ているのでした。

八代万智子の葬儀の席に、のんだくれのオヤジ・中村是好が現れて、なにやら永田靖の過去について因縁をつけて帰ります。亡き娘の歌う子守唄に過剰反応する永田靖。この家の長男である大村文武も何かアヤシイ、というよりも何かに怯えているようです。

大村文武が猟銃で自殺してしまいました。駆けつけた磯川警部・神田隆の前に颯爽と姿を現わして身分を明かす高倉健。彼は生前の八代万智子から実家のピンチを救ってくれるように依頼の手紙を受け取っていました。実は永田靖のところへは脅迫状が届いており、それは、全財産を慈善事業に寄付しなさいというものでした。

小野徹は志村妙子のことが大好きなので、彼女の安全を守ろうとしますが、志村妙子の自称許婚で永田靖に取り入っている山本麟一が実家に居座って何かと小野徹や健さんをヨソモノ扱いして遠ざけようとします。お?山本麟一が実は真犯人なのか?どうせここまで原作と乖離してるなら、ソレもありだな。

そうです、この映画が優れているのはタイトルに騙されて、原作通りになるかと思っている観客を完璧に裏切るので犯人を予測する手がかりが全く無いということです。ある意味、実に優れた探偵モノと言えるでしょう。

ウソですよ。山本麟一とその仲間達はただの乱闘要員なのでした。

毎度のことですが、金田一耕助は事件の解明はしますが、その頃には関係者が全員死んでいるのが常です。犯罪抑止力としては無力な金田一耕助、そこんところだけは原作どおりなんですな。

事件のキーマンとなる中村是好は、永田靖によって女房子供を殺されたも同然な、以前の主人の家の使用人でした。彼は真犯人を見てしまったので、殺されてしまいます。そもそも中村是好のポカミスで、永田靖に財産横領を許してしまったわけなので、彼としては独自に復讐しようとしていたのですが、結果的に真犯人の協力者にもなっていたのでした。

エンディングはまたもや真犯人の自害です、いつものことです。神田隆の温情ある配慮による幕切れなのでちょっと泣かせる感じです。

健さんに名探偵っていうのはいかがなものか?やっぱ、東映の現代劇のスタアには金田一耕助は登竜門ということでしょうか?野暮ったい探偵をあまり動かさずにペラペラ解説だけをさせて、でも乱闘シーンは技斗の先生でもある与太者・日尾孝司に一任したりなんかして、結局ボロが出なくてよかったね、というオチです。狂言回しとして、美空ひばりブランドの小野透に汗をかかせて、世間知らずのおぼこ娘である志村妙子にドラマを動かす役どころを与えたのが正解でした。

刑事の台詞が多少モタついてもスルーしてしまったり、これだけの大人数をソツなく見せ場を作りつつ、派手で判りやすい映画にまとめたのは、さすが渡辺邦男監督だったと褒めておきます。

もう一度言いますが、これ、横溝正史の「悪魔の手毬唄」とは全然別物ですから。

ニュー東映なので東京撮影所の常駐俳優も多数出演です。田舎の駐在さん・河合絃司、ベテラン巡査・沢彰謙、腹黒い永田靖に抗議するいかつい村人Aは関山耕司でした、顔映してもらえなかったのはチトさびしいですが。

2011年06月19日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-06-20