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獄門島


■公開:1949年

■制作:東横、東京

■制作:マキノ光雄

■監督:松田定次

■原作:横溝正史

■脚本:比佐芳武

■撮影:伊藤武夫

■音楽:深井史郎

■美術:嵯峨一平

■照明:西川鶴三

■録音:佐々木稔郎

■編集:宮本信太郎

■主演:片岡千恵蔵

■寸評:

ネタバレあります。


大友柳太朗の台詞が過剰に早口なのは何か理由でもあるのでしょうか?前編後篇くっつけて尺が長いので、どっか削んなくちゃな、御大の芝居を削るわけにもいかず、しかたないから大友柳太朗の台詞を早回しにしちゃえばいいや的なものを感じるのであります。

どうせ本編にあんまり関係ないしね。

この映画は、家名を守るために邪魔者を排除しようとした男の執念の物語です。

名探偵の金田一耕助・片岡千恵蔵は復員船の中で病死した戦友・沼田曜一に頼まれて、彼の故郷である獄門島へ向います。気味の悪い名前の島です。観光旅行なんかで行くわけがありません。戦友の実家は由緒正しい旧家ですが、かなり没落しているらしく、おまけに本家と分家に別れて、その両家は大変に仲が悪いのです。

当主は戦友のおじいさん・片岡千恵蔵(二役、老け役)です。彼の息子、つまり戦友のお父さんは現在、精神を病んでしまい座敷牢にいます。もう一人の孫は戦友のお兄さんですが、彼は家の封建的な因習を嫌って家出中です。おじいさんは沼田曜一にものすごく期待していましたが、病死の事実を聞かされてガックシです。ただでさえ病気で臥せっているのに。

当主が病気なので、現在この本家は後見人として三人が指名されています、了然和尚・斎藤達雄、幸庵・沢村国太郎、もう一人は村長・高松錦之助です。

跡継ぎの男子がいない、これは家名の存続にかかわります。残されているのは、戦友の従姉妹・三宅邦子と妹の三姉妹・千石規子朝雲照代谷間小百合。こんだけ女子がいれば養子を迎えればいいじゃんか?と思いきや、この三姉妹のオツムのネジはこりゃまたばっちり狂っていました。

いやはやトンでもない家に来ちまった金田一耕助ですが、どうやら多数のトラブルと白痴三姉妹の存在は知っていた様子です。

分家の当主・進藤英太郎の妻・月宮乙女はヴァンプなお色気をブリブリふりまき、同居している美青年の与三松・島田照夫(片岡栄二郎)を年増の色気で篭絡し、三姉妹の一人、谷間小百合とくっつけようとしていました。気が小さいくせに乱暴者で本家の財産なんかもらえっこないダメ亭主の進藤英太郎には将来性が無いので、本家とのパイプを独自に構築して、金回りを良くしようという作戦です。

本家の不運は悪霊の仕業らしいので、今日も祈祷師の婆さん・原泉子が来ています。原泉子に睨まれたらどんな悪霊でも死霊でもゾンビでも退散しそうです。三姉妹も一緒に祈祷しています、こっちは何の役にも立ちそうにありませんが。

珍しく原作どおりに(?)進むのかと思いきや、本作品の目的は、GHQの指導でおおっぴらに時代劇を作れないので、滅私奉公とかの思想を否定すること、チャンバラできないからピストルをバカスカ撃ってスカッとすること、です。

案の定、獄門島の周辺で海上ギャングが出没し、警察に追われて、島へ逃げ込んでいるらしいです。

どうやら「Gメン」な銃撃戦が、きっと無理やりな感じで後半、登場するに違いないです。ていうか、横溝正史の原作なんか別にどうでもよくて、御大にどこでピストルを乱射させるかがこの映画のほぼ全てなのです。

そうこうしているうちに、当主は三人の後見人に看取られて(この島には医者がいないらしいです)息を引き取ります。そして、与三松と逢引き予定だった谷間百合子が絞殺死体となって発見されます。しかし彼女に抵抗した跡がありません、いくら馬鹿でも殺されそうになったら抵抗するはず、つまり・・・

今度は岬の断崖に朝雲照代の死体がぶら下がります。こちらも死因は絞殺でした。島の駐在さん・小杉勇に第一の殺人の犯人と間違われた金田一耕助は牢屋に放り込まれていたので第二の殺人は防げませんでしたが、眼鏡っ娘助手・喜多川千鶴がやって来たので釈放されます。それと、電話線が海上ギャングに切断されたのを不審に思った警視庁の磯川警部・大友柳太朗が部下の刑事・高木新平たちを連れて島に来たので駐在さんも金田一耕助の身元を完全に信用します。

有力な容疑者の進藤英太郎が殺され、月宮乙女も死体となって発見されます。真犯人を目撃したかもしれない隻腕の下男・上代勇吉も負傷しますが、どうもアヤシイ。やがて三姉妹の生き残りだった千石規子も祈祷所で死体となってしまいます。

島に隠れていた海上ギャングたち・戸上城太郎水原洋一は仲間の一人が三宅邦子のお兄さんと間違われているのを利用して彼女に食べ物やタバコを隠れ家へ運ばせていましたが、正体がバレると三宅邦子に襲い掛かります。そこへ駆けつけた警官隊と銃撃戦に突入します。

ここがこの映画のクライマックスだったと言って良いと思います。「Gメン」映画と絵柄がほとんど同じなのが笑ってしまいます。

いよいよ本編の事件の核心に金田一耕助が迫ります。はたして真犯人は?あと、生き残ってアヤシイはオッサン三人しかいませんので、そこは疑いようもありません。もう一人の犯人は・・・ネタバレは「屋根裏の散歩者」でありました。

金田一耕助、犯罪の真犯人を突き止めたときには関係者のほとんどが死んでいるのが常です。御大と言えどそこは曲げられないようです。

共犯者たちの動機が今ひとつ脆弱です。確かに真犯人の「家名を汚す邪魔者たち」を消そうという動機は理解できますが、斎藤達雄と沢村国太郎みたいにドライな連中ならあっさりケツを割りそうです。それに、有名な季語のトリックが無い、ただ絞め殺してしまうだけ、釣鐘とかも出て来ないし。

それでも本作品が不気味で面白いのは、三姉妹の狂いっぷりです。特に千石規子がヤケクソになって祈祷する声にはかなりビビリます。美人系の他の二姉妹と違い、童顔なので「チャイルドプレイ」のチャッキーも真っ青です。ミステリーというよりホラーな感じです。

ところで御大がどこで拳銃ぶっ放すかと思ったら、上代勇吉が放り込んだマムシを殺すために、木造家屋の廊下めがけていきなり乱射。どう見てもやりすぎですが、御大だからいいです。

それにつけても大友柳太朗の早口が謎です。そこが一番ミステリー。

2011年06月12日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-06-12