「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


愛と炎と


■公開:1961年

■制作:東宝

■制作:藤本真澄

■監督:須川栄三

■原作:

■脚本:新藤兼人

■撮影:小泉福造

■音楽:佐藤勝

■美術:阿久根巖

■照明:金子光男

■録音:上原正直

■編集:

■主演:三橋達也

■寸評:


女にだらしなくない森雅之って、ただのオッサンだな。女にだらしがないのが魅力の俳優ってのもどうかと思うが。

戦後間もなく、石油カルテルが市場を寡占状態だったころの話。

大戦末期、南方の洋上で乗っていた船が撃沈されて漂流していた三橋達也平田昭彦(様)。二人は戦友で親友したが、平田昭彦(様)は瀕死の重傷だったので持っていたナイフでトドメを刺して欲しいと懇願します。三橋達也は躊躇しますが何日も苦しんでいる親友を見かねてついに刺殺してしまい、その遺体を海に流します。三橋達也はその後、日本に帰国できました。

三橋達也は戦後、平田昭彦(様)のお父さん・森雅之が社長をしている石油会社に就職しますが、トンでもないトラウマを抱えているので優秀なのですが虚無的なところもあって、女性関係でトラブルを起こします。東京の本社にいたときは恋人だった女性社員・水野久美との別れ話がもつれて水野久美が自殺。地方へ飛ばされている間に地元の芸者・岸田今日子と無理心中、女は死んで三橋達也は生き残ります。

普通、こういうスキャンダルを起こせば諭旨免職くらいにはなりそうですが、森雅之は三橋達也を買っているところもあるので、重役・志村喬の諫言に耳を貸さず三橋達也を東京本社へ呼び戻します。

万が一にも森雅之が「わかるよ、三橋くん!僕も昔は過去のトラウマに押しつぶされて、毎日うなだれていたものさ。甲斐性もないのに女にモテまくって問題起こして、星の数ほど女を泣かせたよ」とか共感するはずがないのですが、男の精気がメラメラしている森雅之というのが違和感ありすぎなだけです。多くの観客はついつい「女にだらしの無い」いつもの森雅之を思い出してしまうのでした。

三橋達也は水野久美の親友で、現在は社長秘書の白川由美から「卑怯者」と呼ばれても反論できません。さらにヤケ酒を飲んでいて戦時中の体験を批判的に語る作家・浜田寅彦を見ていて勝手にブチギレてしまい、編集者・滝田裕介にもケンカをふっかけて制止しようとしたバーテン・二瓶正也ごときにノックアウトされてしまうのです。

森雅之の娘・司葉子は画家志望で男に捨てられて自殺未遂の過去を持っていました。三橋達也とは父親の部屋で初対面、乱闘騒ぎのあったバーで現在の彼氏・戸浦六宏(え?ええっ!?)とデート中に三橋達也を目撃し泥酔している三橋達也をアパートに送ってあげました。

男気溢れるビジネスマンという役どころが森雅之に似合わないのと同じくらい、過去のトラウマに敗北してしまう殉教者のようナルシスト役に三橋達也というのはピンと来ません。こういう役はいっそ森雅之がやればいいのですが、すでに時代はカラー映画になっているので年齢詐称が難しかったのだと推察されます。

弱小石油会社には大手銀行もそっぽ向きますし、官民一体の護送船団方式が常識だった石油業界で一本どっこで勝負していた森雅之は外貨の割り当ても不十分。このままでは売る石油が手に入らず会社はピンチになってしまいます。そのとき独立間もないアラビアの小国が、経済封鎖で石油が売れずに困っているという情報を三橋達也が森雅之に報告します。

そんなデンジャラスな取引に社運を賭けるのはいかがなものか?志村喬の心配はもっともでしたが、非常に珍しく三橋達也が熱心に勧めるので森雅之は、小国からの石油買い付けにGOサインを出します。現地に赴いた三橋達也と森雅之でしたが、国有化した石油をなんとか売りたい現地の担当者は最初は懐疑的でしたが、外貨の獲得のために契約を締結します。

三橋達也は結核になっていました。司葉子が止めたのですが、彼は現地の担当者の信頼を裏切りたくないので取引を見守るために現地へ向います。森雅之の会社のスタンドプレイが面白くない石油業界が妨害しますが、自社のタンカーを船長・藤田進が現地のキャプテンと一緒にオペレーションし、途中、いくつかの浅瀬の難所を乗り切って無事に小国の港に入港すると現地の人たちが大歓迎してくれ、担当者もわざわざ出迎えていました。万感の思いで現地の担当者と握手する三橋達也。

しかし三橋達也がこの場所に来たがったのは別の目的もあるのでした。彼はこの近海に平田昭彦(様)が沈んでいるので、そこへ行きたかったのです。ビジネスマンとして偉業を命がけで成し遂げることで達成感を得た彼は、そのまま死んでしまい、戦友と同じ海に葬られるのでありました。

三橋達也のグダグダはともかく森雅之の言うとおり「一企業のためではなく、国家の自主独立のために」というバリバリに右翼的な発言は石原慎太郎(原作)の面目躍如というところですね。しかしビジネスマンたるもの、一生に一度くらいはこういう仕事をしてみたいと思うものであります。つまりNHKに再現ドラマしてもらえるほどの偉業。

産油国のモデルになったのはイラン、ちなみに現地の担当者は元西武ライオンズのデストラーデに似ています。商売相手がアラバンダ共和国の虎の牙将軍でなくて本当に良かったと、三橋達也に言ってやりましょう。船長の藤田進が出てきた後は完全に絵柄が「太平洋奇跡の作戦 キスカ」になってました。

自殺した水野久美の弟の役で久保明が出てきます。三橋達也の最後の航海に同乗しています。彼は好青年で三橋達也のことはあまり恨んでいないようです。ところで久保明は童顔の二枚目なので何時いかなるときでも「みんなの弟」になってしまいますが、本人がそれに満足していたかどうかは微妙です。

2011年05月15日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-05-15