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波の塔


■公開:1960年

■制作:松竹

■制作:小松秀雄

■監督:中村登

■原作:松本清張

■脚本:沢村勉

■撮影:平瀬静雄

■音楽:武満徹

■美術:芳野尹孝

■照明:津吹正

■録音:吉田庄太郎

■編集:杉原よし

■主演:南原宏治

■寸評:


フランス映画の「鬼火」公開後、この作品が醸し出すアンニュイな電波が原因なのでは?ということで自殺者が出たそうですが、原作も一説によりますと富士吉田の樹海を自殺の名所にしてしまった(結果的に)ようです。でも、自殺する理由なんて本人しかわかりませんから、原作が原因というのは冤罪です。

お嬢様・桑野みゆきは、バカンスで訪れた下諏訪で、期せずして官僚やってるお父さん・二本柳寛のご機嫌取り目的の、地元の中小企業のオジサンたちに観光案内の接待を受けてしまいます。まんざらでもないお嬢様でしたが、古代人の住居跡を見学中に、そこで宿泊していたカッコいい青年・津川雅彦に出会います。運命の出会いってヤツですね。

もしも、この時に出会った男が津川雅彦みたいんじゃなくて、顔が十人並みだったらきっと彼女の記憶からは早々にデリートされていたはずですが、二枚目だったのが運のツキです。

東京の深大寺へお友達・峯京子と遊びに来た桑野みゆきは、津川雅彦と再会しただけでなく、彼と一緒にいた美人のご夫人・有馬稲子とも出会います。峯京子のプロファイリングによりますと、津川雅彦が有馬稲子をちゃんと紹介しなかったのは、おそらく、彼女が人妻であり、津川雅彦は夫ではない、つまり二人は「なさぬ仲=不倫なう」だとのことです。

津川雅彦は新進のエリート検事です。有馬稲子との出会いは新橋演舞場で観劇中に、たまたま隣り合わせの席で彼女が気分が悪くなったのを介抱したからなのでした。いや、ここでも津川雅彦じゃなかったら有馬稲子は浮気しちゃえ!とは思わなかったかもしれません。

二枚目って罪作りですなあ。

桑野みゆきのお父さん、二本柳寛は官僚の中でも次期内閣入りが期待されちゃってるらしいです。いつも取材に来る新聞記者・石浜朗は手土産が泉屋のクッキーばかりなので、お嬢様からは「クッキーさん」と呼ばれております。石浜朗は二本柳寛と奥様・沢村貞子にも気に入られているので、いずれはお父さんの秘書になるかもしれません。幸せを絵に描いたようなセレブなご家庭であります。

有馬稲子の現在の本当の夫・南原宏治は、ヤバイ仕事をしているようですが、艶福家でもあり、今日は奥さん同伴で高級料亭でお食事です。接待をしている芸者・関千恵子と南原宏治は愛人関係をプンプンと匂わせているので、有馬稲子はいたたまれません。南原宏治、相当にドSです。ちなみに他にも女・岸田今日子がいます。

津川雅彦と有馬稲子が、初めてのお泊りを東北地方の温泉でしていたところ、そこへ台風が直撃。箱根に一泊旅行だとウソついて出てきた有馬稲子を心配した津川雅彦は、豪雨の中を有馬稲子と一緒に山越えしますが、そんなの無理に決まってるじゃん!というわけで、泥まみれで帰宅した奥さんの挙動不審は、南原宏治の知るところとなります。

公共工事を巡って大掛かりな汚職事件が発覚。買収側が南原宏治、収賄側が二本柳寛、捜査検事は津川雅彦です。

殺人容疑者・佐藤慶への取調べが素晴らしくスマートだったので今回、大抜擢の津川雅彦でしたが、捜査対象に有馬稲子の旦那の名前を見つけてしまい、気持ちは超ブルー。家宅捜索で鉢合せもしつぃまい、気まずいムード、他の捜査員もいぶかしがります。

自分が浮気をしているとパートナーの浮気にも敏感かつ執拗な追及をしたくなるものらしいです。南原宏治は、たまたま上野駅で有馬稲子を見かけた会社の部下・佐野浅夫からチクられたので、探偵を雇って追跡調査、不倫旅行の現場まで行って、お土産まで買ってきて、そのお土産を有馬稲子に発見させるという、ああ、やっぱりコイツ、ドSだわ!

二本柳寛の家に捜査の手が入ります。ガックリな沢村貞子は、あきらかに分不相応な贈り物のミンクのコートが賄賂だと気がついていましたが、南原宏治が持って来たお金は使っちゃいました。

桑野みゆきは両親を責めます。が、家事手伝いで遊び惚けていたくせにお前にそんな口きく権利は無いです。お金で買収されたということは、両親がお金に苦労していたということです。「そんなに貧乏なら私、働きにでていたわ!」と泣き喚く桑野みゆき。実家の経済状態がどうあろうと、イイトシこいた大人が実家に居座ってニートしてたことに変わりは無く、その気があるならとっとと独立すればいいだけのことです。

南原宏治は逮捕されます。面会にきた有馬稲子に「あとは好きにしていいよ」と言う南原宏治の、これまでの女性関係と執念深い浮気調査は、すべて妻に対する捻じ曲がった愛情表現だったようです。不器用なのね、この男、でも程度問題だと思うわ。

さて、有馬稲子との不倫関係が、南原宏治の弁護士・西村晃の手によってあばかれた津川雅彦は検察庁を辞職して、有馬稲子とどこか遠くへ行くことにします。

しかし、その有馬稲子は「みんなを不幸にしたのは私のせい・・」ということで、かつて汽車で通りかかった富士の樹海、死体も見つからないという場所で自殺してしまうのでした。

おいおい、全部放りっぱなしかよ!有馬稲子!もとはと言えば、有馬稲子が若い男子をオモチャにしたのが原因なわけで、その時点でとっとと家を出ちゃえばよかったのですが、自分がいつでも元の鞘におさまる逃げ道を作っておいて、美味しいことをしようとすると結果は悲劇的だということですね。

あと、この映画のスーパーヒロインは実は峯京子であったと思います。素晴らしすぎるプロファイリング、個人情報だだ漏れの有馬稲子の身元調査、ようするにヒマだったっつうことですが。通常は主に善玉の登場人物をピンチに陥れる危険な地雷である金持ちのお嬢様が、他人様の役に立った希少な事例であると言えましょう。

通俗的なメロドラマではありますが、ロケの名手、中村登監督なので、観光映画としてもお勧めです。

2011年05月08日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-05-08