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猫と庄造と二人のをんな


■公開:1956年

■制作:東京映画、東宝

■制作:滝村和男

■監督:豊田四郎

■原作:谷崎潤一郎

■脚本:八住利雄

■撮影:三浦光雄

■音楽:芥川也寸志

■美術:伊藤熹朔

■照明:猪原一郎

■録音:藤好昌生

■編集:

■主演:森繁久彌

■寸評:


庄造・森繁久彌は雌猫のリリーをとても可愛がっています。妻・山田五十鈴よりも、誰よりも、彼女(リリー)の前では素直になれる庄造です。今日は、山田五十鈴が庄造の母・浪花千栄子と大喧嘩をしてしまい、仲人・林田十郎も呼び出されて、ついに離婚、即日、別居という状況になります。

山田五十鈴は実妹・南悠子の嫁ぎ先の二階へ転がり込みます。ここの亭主、義理の弟・山茶花究は哲学を趣味とする、ようするに分不相応なインテリへに憧れており、知り合いの地方公務員に二階を貸す予定だったのですが、義理のお姉さんが闖入してきたので予定が狂います。

浪花千栄子は何もかも計算していました。彼女は田舎の東急ハンズ、つまり雑貨商を営んでおり、今まで店の切り盛りは彼女と山田五十鈴がしており、庄造には生活力もヴァイタリティーもないので、これを金に変える方法はないものかと思案中。そこで眼をつけたのが、浪花千栄子が金を借りている家の娘・香川京子と庄造を結婚させることでした。

庄造は雌猫も好きですが、若い女のピチピチした身体も大好き。一方、香川京子はいわゆる不良娘という輩の一人で、もちろん働いてません、家の手伝いもしません、夏は暑いので水着でフラフラしています。しかも、外で男を作っては駆け落ちをして、すぐに捨てられて、お金がなくなると実家へ戻ってくるという迷惑な娘です。相手はダンス教師・田中春男だったりするので、あまり男の趣味がよいとは言えません。

庄造は香川京子とビーチでベタベタ。もちろん、香川京子の昔の水着は胸パットとかないので、ものすごくエロい感じなため、庄造のキモチも理解できます。

浪花千栄子は、娘が放蕩しないように庄造と夫婦にする、その代償として、彼女の借金証文は香川京子が管理する(破棄してもよいが、浪花千栄子が約束を破ったりしないように責め道具として利用してもよい)さらには、多額の持参金および、お小遣いをせびりに実家に頼ってもよい、このような好条件を香川京子の父親から提示されてますから、浪花千栄子は必死に香川京子をちやほやします。

山田五十鈴は庄造が新しい女房、しかもそれが宿敵・浪花千栄子の思慮遠謀による離婚とセットになっている政略結婚だと知ると、今まで身を粉にして働いてきた庄造の実家に対する労働対価の要求、および、家計を維持するために質に入れて流した着物などの投資の回収意欲が、若い香川京子に対するジェラシーとあいまって、一気に高まるのでした。

女房らしいことひとつしない香川京子、山田五十鈴はシッカリ者だったので掃除洗濯はバッチリでした。汚れた下着の山を押入れに隠蔽してしまうくらいだらしのない香川京子に愛想をつかした庄造ですが、浪花千栄子としては金に眼がくらんでますから、嫁の下着の洗濯くらいは全然平気です。そこで山田五十鈴は、ある計画を思いつくのでした。

将を射んと欲すればまず馬を射よの諺のとおり、彼女は雌猫のリリーを手に入れることにしました。それは、香川京子を唆して、猫を庄造の家から追い出すように仕向ける作戦。山田五十鈴と庄造が密会していたらしいと吹き込まれた香川京子の怒りは怒髪天を突き、ついには家出騒ぎとなります。庄造は泣く泣くリリーを山田五十鈴の家に運びます。

実は山田五十鈴は実妹の家の二階から追い出されそうになっており、ネックの家賃を払うには、以前、女中奉公していたマダム・三好栄子のところへ行くか、さもなければ、愛人契約をするかという、切羽詰った状況であったので、こちらも必死に、懐かないリリーを手に入れて、庄造とヨリを戻そうというのです。さて、リリーをそう簡単に手放せるはずもなく、庄造は雨の中、リリーのところへやって来ます。

もう日が暮れるので雑貨屋・横山エンタツに提灯と自転車を借りて、そっと山田五十鈴の家に忍び込み、リリーの好物を置いてくるのでした。

香川京子も山田五十鈴に庄造を取られるは悔しかったのですが、せっかくアジのたたきの手料理を作ってやったのに、庄造が猫にやってしまったのがそもそも家出騒ぎの発端でした。彼女には経済力がないので、かつての遊び仲間で今は美容師をしている友達・環三千世の説得で家に帰ったのですが、庄造が山田五十鈴のところへ行ったと知ると、鬼のような形相で後を追います。

山田五十鈴、香川京子のキャットファイトが勃発。リリーは逃げ出します。庄造はふたりの女が実は、金のためつまりは自分のことしか眼中にないことに絶望して、そんなのもっと前からわかれよ!とは思いますが、リリーを追って浜辺にやって来ます。

ダメ男とは?生活力がない、ケンカも弱い、金と力があってはダメです。が、なぜか女性にモテたりするわけです。モテる、というかほっとけない、母性本能を刺激する、いろんな要素が考えられます。女性にモテるという最後の砦を失うと、ダメ男ではなく、ダメ人間になるのではないか?そんな気もします。

森繁久彌の芸術的なドスケベ、山田五十鈴のジャンボな悋気、香川京子のスケバンぶり、浪花千栄子の定番ど根性、各々の俳優にちゃんと見せ場のある、関西の夏の暑さが、さらに蒸し暑くなるような映画でした。

2011年05月01日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-05-01