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ゼロの焦点


■公開:1961年

■制作:松竹

■制作:保住一之助

■監督:野村芳太郎

■原作:松本清張

■脚本:橋本忍、山田洋次

■撮影:川又昂

■音楽:芥川也寸志

■美術:宇野耕司

■照明:佐藤勇

■録音:栗田周十郎

■編集:浜村義康

■主演:久我美子

■寸評:


南原宏治という俳優さんから立ち上る胡散臭さからすると、とてもこの程度のチャチなカラクリに嵌るとは到底、思えませんが。

新婚1週間目の夫婦・南原宏治久我美子。結婚を機に金沢支社から、東京勤務にしてもらえるということで、部下・穂積隆信に業務を引き継ぐために金沢へ出張した夫がいつまでたっても帰ってきません。

久我美子が現地へ行くと、どうも夫の下宿先やら、立ち回り先がよくわからない。最後に会ったらしいのは地元の有力者・加藤嘉高千穂ひづるの自宅。久我美子は心配になり、身元不明の自殺死体の確認まですることになりました。しかし、南原宏治の行方は皆目わかりません。南原宏治の兄・西村晃も金沢にやってくるのですが、久我美子を先に東京へ返した直後、西村晃は毒殺されてしまいます。

地元の警部補・永井達郎(永井秀明)と刑事・織田政雄によると、事件の経過はこうです。

南原宏治には現地妻・有馬稲子がいて、彼は久我美子と結婚したので有馬稲子に別れ話を持ち出したら、これがもつれた。仲裁に赴いた西村晃と、旅館で言い争いなり有馬稲子がウイスキーに青酸カリを盛って西村晃を殺害。逃げ切れないと思った有馬稲子も同じく青酸カリ入りのウイスキーを飲んで橋から投身自殺。南原宏治も能登金剛から投身自殺をして、別人としてお葬式も終了していた、そうです。

久我美子はどうにも納得がいきません。独自に捜査を開始します。

久我美子が目をつけたのは、南原宏治が今の会社に就職する前に何をしていたのか?

南原宏治は、敗戦直後、警察官として東京の立川に勤務しており、パンパン(注:進駐軍相手の娼婦)の取締りを主にやっていたらしいのです。久我美子は、加藤嘉の会社の受付をしていた有馬稲子が、頭悪そうなのに英語がペラペラだったのを覚えていました。一緒に行った穂積隆信が「ああいう実践的な英語が得意なのはパンパンだったかもしれない」という核心を突くような予言をしていたのもシッカリと記憶していたのです。

ていうか、いきなり女性にこんな失礼なこと普通に言うんだろか?それとも、当時は普通だったのだろうか?などいろいろ考えてしまいますが、確かに戦争の影を引きずってる頃の話ですから、さもあらなんというところなのでしょう。

そして、高千穂ひづると南原宏治の仲も疑ったりしてました。立川で売春婦をしていたオバサン・桜むつ子に、高千穂ひづるの写真を見せると、有馬稲子といっしょにパンスケだったことがわかりました。

で、久我美子の推理はこうです。

南原宏治に偽装自殺をもちかけたのは高千穂ひづる。それで有馬稲子を諦めさせようとした。しかし、南原宏治に過去を知られていた高千穂ひづるが現場で南原宏治を突き落として殺害。西村晃に青酸カリの入ったウイスキーを持たせたのは高千穂ひずる。旅館で待っていた有馬稲子は西村晃にそのウイスキーを飲ませて殺害亡。有馬稲子はそのまま逃げ出して、高千穂ひづると落ち合って、逃がしてくれるのかを思ったら高千穂ひづるに橋の上から突き落とされて死亡。

ようするに真犯人は高千穂ひづる。

観念した彼女の口からはさらなる、二人の元パンスケの悲しい和解の顛末が語られます。そして、第三の殺人は真犯人がまったく望んでいなかったということも。

戦争の混乱の中で身体を張っていた女二人の運命が大きく上と下に分かれてしまい、一生接点がないかと思ったところが、南原宏治という二人の過去を知るもう一人の人物のおかげで出会ってしまった悲劇。

そうですね、時代が前後するんでアレですが「砂の器」と同じように、誰にでもある、誰にも知られたくない過去が、本人も忘れていたような亡霊が突然、甦ってしまう、一種の業のようなものを感じます。。音楽も芥川也寸志なので、さあ泣け!とばかりにアレンジを変えて同じフレーズが繰り返されると条件反射のように感動してしまいます。

実際に、能登の断崖絶壁でロケをしているので、小柄で痩せているい久我美子が強風で吹き飛ばされやしないかとヒヤヒヤしました。南原宏治がちょっと不器用で純情な青年だったというのは、その後の南原宏治の活躍を知っている観客としては意外性があり、あんなに簡単に殺されるわけ無いので、きっと高千穂ひづるとグルになって、アレだろう、とか想像をついつい逞しくしてしまいました。

「波の塔」と同じく能登金剛を自殺の名所にしてしまった罪は重い、ていうかそれだけこの小説が有名だったということなのですね。

2011年04月10日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-04-10