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千羽鶴


■公開:1953年

■制作:大映

■制作:

■監督:吉村公三郎

■原作:川端康成

■脚本:新藤兼人

■撮影:宮川一夫

■音楽:伊福部昭

■美術:丸茂孝

■照明:岡本健一

■録音:海原幸夫

■編集:

■主演:森雅之

■寸評:木村三津子が乗っている京浜東北線の車内に、まだニューフェイスだった頃の南原宏治を発見!


北鎌倉ってなんかスノービッシュだよね。

セレブが集うお茶会に、四十面下げて(注:実年齢)婆やさん・英百合子から「おぼっちゃま」と呼ばれるオッサン・森雅之がやって来ます。彼のお父さん・清水将夫は故人ですが、お茶の世界ではちょいと名の知れた人でしたが、戦争で経営していた楽器の工場が焼けたりしたので、息子の森雅之は、楽器メーカーのサラリーマンです。

「おぼっちゃまは止せよ」と、英百合子に苦笑いの森雅之、そりゃそうだよね。

お茶の師匠にして、清水将夫の元愛人であるちか子・杉村春子は森雅之を、一日も早くいいところのお嬢さん・木村三津子と結婚させようとしています。なぜかというと、同じく清水将夫の愛人で、しかも、杉村春子が清水将夫から捨てられる直接の原因ともなった新愛人・木暮美千代が、こともあろうに森雅之に色目を使っているからでした。

木暮美千代の娘・乙羽信子は、ジャンボなお色気を振りまいて、人目も憚らず森雅之にエロ光線を発するお母さんのことが心配でしようがありませんでした。

父子二代にわたる愛人同士の大戦争、勃発の予感です。

杉村春子は森雅之の家にズカズカ上がりこみます。おせっかいオバサンなのです。英百合子はあきれ果てていますが、優柔不断な(いつもの)森雅之はなんとなく彼女にアレコレを世話を焼いてもらうのが嫌いではなさそうです。

しかし、木暮美千代は違います。もう、いても立ってもいられないほど、森雅之=清水将夫なので、雨の日でも風の日でも、乙羽信子がいくら止めても森雅之のところへ来てしまい、色っぽい声で喘いだり、抱きついたりします。

杉村のオバサンが「アノ人は魔性の女」というだけのことはあります。かつて、清水将夫に捨てられた恨みが高じて刃物沙汰になっただけのことはあります。

見合い相手の木村三津子は、リベラルな家庭のお嬢様でした。お父さん・進藤英太郎、お母さん・相馬幸子とこまっしゃくれた妹と一緒にオサレな洋館に住んでいます。お父さんはバリバリの土建屋で下品ですが、ヴァイタリティに溢れた人です。森雅之とは正反対と言って良いでしょう。

木村三津子は東京は新橋で働いていました。森雅之は知的で節度のある彼女のことが好きでしたが、そこへ彼をストーカーしている木暮美千代が現れます。木村三津子は取り乱したりはしませんでしたが、二人のただならぬ関係だけは理解しました。

ノイローゼ状態に陥った木暮美千代が身体を壊して死んでしまいました。エロ爆弾が死んだのでほっとしたのは杉村春子でした。

乙羽信子とお友達だった木村三津子は、お線香を上げに来ました。ちょうどそこへ森雅之がやってきたので彼女は身を隠します。一人残された乙羽信子と森雅之の間にほのかな恋愛感情のようなものを敏感に感じ取った木村三津子は、婚約を解消して去っていきました。

森雅之は、お父さんの顧問弁護士・菅井一郎に頼んで屋敷や、お父さんが集めた茶道具、茶室など一切合財を売り払って、諸々の弁済に充てることにしました。お父さんの事業はあまり成功したとは言えず、いろんなところに借金があったのです。木暮美千代も死んだし、これ以上、杉村春子にうろちょろされてもウザッたいと思ったのかもしれませんし、色々とアヤのついた遺品も全部売っぱらってすっきりしたかったのかもしれません。

乙羽信子が形見分けに持って来た、木暮美千代の口紅のついた志野焼の茶碗を、庭のタタキに投げ捨てる杉村春子を見てもわかるとおり、お父さんと関係した女たちはロクなもんじゃない。ここまで酷いサンプルを見せ付けられてきた森雅之が、純情な乙羽信子や、知的な木村三津子に惹かれたのは当然の結果です。

しかし、ですが、森雅之がモテすぎです。そりゃまあ、カッコいいかもしれませんが、どこか母性本能を刺激するダメンズな魅力もあるかもしれませんが、それほどのもんか?という気がしないでもないです。個人的には、ビジュアルはいいけど、声がおじいちゃんなので男性的な魅力は今ひとつ、という評価であります。

ついでに言うと、清水将夫のモテまくりも如何なものか?ようするに、木暮美千代と杉村春子を燃え上がらせたのは、お互いの悋気の強さが原因であって、森雅之やら清水将夫の実体は実は別にどうでもよかったのでは?刺身のツマくらいに、後半はなっていたのでは?

いずれせにせよ、毎度のことですが、すべては優柔不断な森雅之に責任の一端があるということだけは明白でした。

千羽鶴というのは、木村三津子が愛用していた風呂敷の柄です。何か願いやら念をこめるアイテムでもあります。最後に乙羽信子が、茶碗を持って来る時に包んでいたのもこの千羽鶴の柄の風呂敷でありました。きっと、木村三津子がお世話してあげたのでしょう。そうそう、こんなふやけた森雅之よりも、きっと木村三津子のほうが頼りになりますよ、乙羽信子は最後に誰につけばいいか、ちゃんとわかっていたのかも。

森雅之のお屋敷を買いに来るのが、これまた俗物丸出しの殿山泰司だったりします。殿山泰司と森雅之の対比が、時代のすう勢を最も体現していたような気がします。

2011年04月17日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-04-17