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果てしなき情熱


■公開:1949年

■制作:新東宝

■制作:井内久

■監督:市川崑

■原作:

■脚本:和田夏十

■撮影:小原譲治

■音楽:服部良一

■美術:小川一男

■照明:藤林甲

■録音:根岸寿夫

■編集:

■主演:堀雄二

■寸評:服部良一先生の楽曲がたくさん出てきますが、先生の自伝、ではないそうです。


やっかいな映画です。

何がやっかいかというと主演の作曲家を演じる堀雄二に、最後まで感情移入できないからです。

芸術家というのは独善的でわがままで・・・そういう部分がないとクリエーションは難しいのではないか?と、凡人は思うのですが、それが他人の人生をないがしろにしていいという免罪符にはならないと思うので、ここ観客に納得させるだけの説得力が主人公にあるか?出せるか?まことに、残念ながらそういう部分が欠片も無かったというのが、本作品の致命傷でありました。

本作品はまずクライマックスのシーンから始まりますので、導入部分のツカミはオッケーです。

冴えないオッサンが服毒自殺をするようです。そこへ駆けつけて身体を張って止める、幸薄そうな美人、はい、ここはいいんです。ここは、問題なのはこの後。

見た目も性格も意地悪そうな継母・清川虹子に育てられた娘・月丘千秋は、酔っ払ったイキオイで彼女に優しくしてくれた作曲家・堀雄二に恋をしてしまいます。堀雄二はいつも苦悩しています、とにかく、まともに作曲している場面が出てこないので、彼が本当に作曲家なのかどうか、時々、自信がなくなるほどです。キャバレーの看板歌手・笠置シズ子は彼の才能を買っており、ヒモ同然の彼の生活を支えてもいました。

堀雄二は自分のために作曲をしているので、それが商品化されて大ヒットしても全然嬉しくないのです。面倒くさいヤツなのです。たんまると作曲料をもらっても、経営不振で強制解雇になったコックさん・斎藤達雄に全額あげちゃったりします。彼は芸術家なのです、崇高な魂の持ち主なのです、商業主義は嫌いなのでしょう。

ああ、面倒くさい!

そういう男にすがってしまった月丘千秋のこれからが心配です。

堀雄二はアテのない汽車の旅をしていて、たどりついた避暑地で、子犬を池に叩き込んだ、いや、池にはまった子犬を心配してオロオロしている有閑マダム・折原啓子に出会い、一目ぼれしてしまいます。苦悩のどん底で出会った一筋の光にすがってしまったという点では、月丘千秋も堀雄二もある意味、同じです。

堀雄二と折原啓子の二度目の出会いは折原啓子が暴漢に襲われているところを助けて、ついうっかり相手を殺してしまったので、懲役を食らってしまったときでした。

出所した彼を待っていたのは当然ですが、折原啓子ではなく、月丘千秋でした。

毎日差し入れをしてくれて、借りっぱなしのアパートの家賃を肩代わりしてくれていたのは月丘千秋。彼女は、堀雄二のためにキャバレーの下働きとして毎日、ボロボロになって働きます。堀雄二と出会った頃、彼女はこの店のウエイトレス、同じ職場のボーイ・江見渉(江見俊太郎)に惚れられていました。江見渉は毎日、飲んだくれて悩んでいる堀雄二を神格化している月丘千秋が可哀想でたまりません。

清川虹子は月丘千秋の収入が激減したので文句を言いに来ます。仕送り金額が少ないからです。せっかく美人なんだから、ホステスとかしてもいいんじゃないか?くらいなことを言います。

堀雄二は月丘千秋に求婚。しかし、その理由は、駅のプラットフォームで三度目の出会いをした折原啓子が実は人妻だとわかったから、でした。つまり、ヤケクソです。ついでに作曲した「夜のプラットフォーム」は大ヒットですが、笠置シズ子が勝手にレコード会社へ持ち込んだと言って、堀雄二は激怒するのでした。

ああ、面倒くさい!

キャバレーの仲間たち、笠置シズ子、バンドマン・鮎川浩が月丘千秋の手料理と一緒に堀雄二を待っています。今日は、ささやかな結婚式の日です。しかし、堀雄二は帰ってきません、ていうか、堀雄二は折原啓子の家に不法侵入して、彼女が病死したことを知ってしまい、勝手に絶望していたのでした。おまけに、今度は、月丘千秋に対して一方的に婚約破棄宣言をします。

ああ、クソ面倒くさい!

月丘千秋が可哀想過ぎです。堀雄二→折原啓子、月丘千秋→堀雄二、W片思いの結末はどう考えても一生平行線。勝手に悩んでいる堀雄二の、そのほかの選択肢が江見渉という究極の選択状態になった彼女が、自殺未遂の挙句に、彼女のもとを去っていく堀雄二を「いつまでもお待ちします」という救いようのないものでした。

求道者に社会性はない、それでも純粋なら許される、ということが作者の意図だったかどうかは別ですけれど、堀雄二という選択肢はかえすがえすも納得いきません。あんなふやけた鯉のエサみたいな顔した堀雄二のルックスで説得されてはたまりません。当時の堀雄二のポジショニングがわからないので実は、何の問題もなかったのかもしれませんが。

笠置シズ子の「セコハン娘」、山口淑子の「蘇州夜曲」、淡谷のり子の「雨のブルース」すべて本人登場。

2011年04月17日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-04-17