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愛と死の谷間


■公開:1954年

■制作:日活

■制作:初田敬、星野和平

■監督:五所平之助

■原作:

■脚本:椎名麟三

■撮影:小原譲治

■音楽:芥川也寸志

■美術:松山崇

■照明:大西美津男

■録音:中村敏夫

■編集:

■主演:津島恵子

■寸評:


芥川比呂志(出演)、芥川也寸志(音楽)、兄弟共演。

川向こうに貧民街のある診療所、入院もできて地域の医療拠点です。

そこで働く美人女医・津島恵子。そのほかに医者・伊藤雄之助多々良純、無愛想な婦長・北林谷栄、医療事務・乙羽信子、女中・小田切みき、が働いています。理事長・宇野重吉は土地持ちの地方のブルジョワ・高杉早苗に結婚話をちらつかせて、彼女の資産を巻き上げてこの診療所を建設しました。

異論はあるかもしれませんがプレイボーイの宇野重吉は乙羽信子という愛人がいながら、津島恵子にも邪な心を起こしています。あんなキレイな女子達が、こんなブサイクな俗物に惹かれるなんて!世の中、まだまだ不思議なことがあるものですね。世の中の、金はあるけどココロが汚くて、ブサイクで、変態な男子のみなさん、希望を持ちましょう!

ある日、川べりに黒いハットの男・芥川比呂志が現れ、津島恵子を尾行します。男は近所のマネキン工場に勤めている女工・安西郷子とは顔見知りのようで、安西郷子のほうは男を慕っているようです。ある日、貧民街の少年・桜井将紀が診療所に駆け込んできます。病気になった母親の往診を頼みに来ました。貧民街の人たちは、いつもは北林谷栄に支払を先に要求されるので滅多に来ません。

津島恵子は医者の使命感で少年の母親を診察します。支払を待ってくれと言う母親の願いを聞き入れて診察料を取らずに帰ります。

貧乏人=善人とは限りません。概ね、がめつくて厚かましいのです。そうでなければ死んでしまいますので。翌日、貧民街からゾンビのように病人の集団が診療所に橋を渡ってやって来ます。少年がタダで治療してもらえると言いふらしたからです。津島恵子は他の医師からクレームをつけられますがなんとか診察を終えました。

次の日も彼らはやって来ます。理事長からやんわりと中止を命じられたこと、他にちゃんと金を払う患者がたくさんいるのですから、津島恵子は彼らの診察を断ります。そうなると貧乏人はアテが外れてガッカリどころは大ブーイングです。少年は彼らから「うそつき」呼ばわりされてメンツ丸つぶれです。期待が裏切られると人間は容赦しません。ましてやギリギリの生活をしている人たちですから、礼節も分別もあったもんじゃないのです。

クスリだって、診察だってタダなわけがありません。ちょっと考えればわかることですが、少年は津島恵子を逆恨みして、すっかり落ち込みます。グダグダになった少年は、貨物の車両で遊んでいてケガをしてしまいます。それを見ていた黒いハットの男、芥川比呂志は彼を抱えて診療所へ駆け込みます。

彼は、宇野重吉と津島恵子の仲を邪推した高杉早苗に雇われた探偵でした。津島恵子を病院から追い出すための証拠を掴むために彼女を尾行していたわけですが、津島恵子は公安にでも眼を付けられたのではないか?と内心ビクビクでした。しかし津島恵子が医師として立派な人物であることがわかっているため、芥川比呂志は自分の仕事がイヤになっていました。

ほとんどビョーキの高杉早苗、思えば気の毒な人ですが男を見る目が無さすぎです。今度は芥川比呂志が津島恵子と怪しいんじゃないか?とか思いこんでさらに彼を監視する探偵・中村是好を雇います。

芥川比呂志は身分を隠して津島恵子とデートします。あら、津島恵子ったら案外な酒豪ですこと!

安西郷子の兄・木村功は国鉄の職員でしたが戦傷でただいま失職中。ひたすらお国のために働いて蒸気機関車のようにこき使われたと、毎日、家族の負担になっている自分を嘆きます。そして、彼は津島恵子のところへ自殺用の毒薬をもらいに来ますが、当然、断られます。

宇野重吉と乙羽信子の関係を知った高杉早苗は発狂。津島恵子の正体を知られた芥川比呂志は陰ながら彼女を守ろうとして木村功の自殺現場に居合わせてしまいます。

新たな旅立ちを決意した津島恵子は、芥川比呂志とも別れて一人、去っていくのでありました。

巨大な引込み線の上を渡る鉄橋が、二人の心の距離を象徴しているようです。

津島恵子、高杉早苗、乙羽信子、安西郷子、北林谷栄、女優さんたちの赤裸々パワーが圧倒的で、男優の影がかなり薄いです。芥川比呂志が津島恵子とデート中にアル中のジジイ・左卜全にノックアウトされるところはかなり情け無いモノがありました。

戦争の傷跡や世相が生々しい映画、木村功の「俺はシュッシュポッポッさ」という言葉が耳に残ります。戦後の虚脱感に囚われたままの人、そこから立ち上がろうとする人、様々でありました。

2011年04月10日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-04-10