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母の曲(総集編)


■公開:1937年

■制作:東宝

■制作:萩原耐

■監督:山本薩夫

■原作:吉屋信子

■脚本:木村千依男、八住利雄

■撮影:友成達雄

■音楽:伊藤昇

■美術:中古智

■照明:

■録音:片岡造

■編集:

■主演:英百合子

■寸評:


母もの、それは一途で現代ではあまりにも自己犠牲が高すぎる無償の愛情を子に注ぐ母親の情愛をテーマにした映画のこと。一歩間違えると、お涙頂戴的あからさまなストーリーが鼻について寝ちゃいそうになる映画のこと。

新進気鋭の博士・岡譲二の妻・英百合子は労働者階級です。超美人の一人娘・原節子が通う女学校はセレブ御用達。その学校の母親の会に出席した英百合子はセレブな奥様達から蔑まれます。その理由は紅茶の飲み方が下品だったことと、好きな芸術作品が浪曲の「沓掛時次郎」だったから。

すいません、ここ、ほとんど漫画レベルでした。紅茶をスプーンですくって飲むか?聞こえよがしにあそこまでストレートな悪口言う人間っているのか?英百合子のロウワーぶりと、セレブ奥様達の高飛車ぶり、ここまで極端だったら正直、笑えます。

岡譲二もご学友の皆さんから「あんな奥さんじゃ君の値打ちが下がるよ」と、ミもフタも無い言われようです。ま、当時の倫理観と言うか、社会常識であれば、例えば戦後の農地解放で身分がごっちゃになったとか、そういう背景も見えてくるわけで、まだまだお家柄が幅を利かせていた時代のお話です。

しかし彼は真正面から反論しません。つまり彼も薄々、そうじゃないかと思ってた、同情から結婚したのはやはり失敗だったか?と思っているからなのです。英百合子にも落ち度が無いとは言えません。いいかげん、マナーとか勉強しなさいって感じです。彼女は真面目でしたが、かなり鈍い人だと言わざるを得ません。残念ですが。

唯一の救いは原節子です。彼女はダサいけど自分に愛情を注いでくれてるお母さんが大好きです。お嬢さん学校のお友達は原節子のことは評価していますが、お母さんは「如何なものか?」と思っています。英百合子も努力はしますが、横文字が徹底的に苦手だし、生け花も芸者置屋の床の間仕様にしかできないので、ステキな洋間にはアンマッチです。

突然、海外赴任が決まった岡譲二。原節子の教育を含めて英百合子を残していくのは不安でしたが、彼にとっては千載一遇のチャンス。三年間、夫の留守中に英百合子は上流階級のマナーを身につけようと必死に勉強しますが、成果は今ひとつ。夫の帰国の日、精一杯に結った丸髷を、娘の友達に目撃されて爆笑されてしまうのでした。

「お母さんがあんな髪型してたら勘当するわ!」なんというクソ生意気な小娘でしょう!冗談でも親に対して勘当するとは何事でしょうか!親の金で、食わせてもらって住まわせてもらっている家畜のくせに、親の身分=自分のランクと勘違いも甚だしいというモノです。オマエなんか、ついうっかり火遊びで東映のヤクザ映画(できれば「脱獄囚」シリーズ)に出てくるような輩に便所で輪姦(まわ)されてしまうがいいわ!ふんっ!

二度の海外赴任の間、相談相手として英百合子の昔のお友達・三島雅夫が訪ねてきます。彼の職業は競馬の予想屋。手鼻もかむし、身なりもぼろいです。しかし、彼は金持ちのはなもちならない態度を笑い飛ばし、英百合子の立場を理解してくれる唯一の人です。

しかしこれが元で彼女は「亭主の留守中、浮気三昧」「やはり身分の卑しい者同士、お似合いのカップル」とか噂されてしまいます。原節子は女学校でシカトされ、三島雅夫に心ならずも「出て行って!」と叫びます。

セレブなお友達と家族ぐるみで箱根に遊びに行った英百合子と原節子。超美貌のピアニスト・入江たか子は、岡譲二が若い頃に結婚を誓い合った仲らしい。周囲もその気になっていたのに、結局、別れてしまった二人は再会して、なんとなく恋は再燃、しかしお互いに慎み深い人なので、いきなり押し倒したりとかはありません。入江たか子は原節子のピアノの才能を褒め、原節子も彼女の大ファンになります。

あいかわらず原節子をお母さんとセットで仲間はずれにしようするセレブ女子たち。だが、しかし、金持ちのボンボンが原節子を見初めます。他の女子たちはブーブー文句を言いますが、相手が原節子では負け犬の遠吠えです。

岡譲二の友人である弁護士・丸山定夫は英百合子に離婚を勧めますが彼女はキッパリ断るのでした。

突然の英百合子の家出。彼女は娘の将来を慮って、母親の権利はキープただし養育は岡譲二と入江たか子に任せます。英百合子の女の意地であり、母親の愛情です。

入江たか子の指導で、ピアノ演奏家としてデビューした原節子は和服で盛装してラジオで思い出の曲を演奏します。英百合子はラジオ店の前でじっとその演奏に耳を傾けるのでした。

ついにボンボンと原節子が結婚する日。雨でびしょ濡れになりながら娘を見送る英百合子の姿を、遠くに岡譲二と入江たか子が見つめていました。

セレブなお屋敷や箱根のホテル、洋風と和風が微妙にミックスしたセットがステキです。その中に原節子が座っていると本当に等身大のドールハウスのようでした。

さすが総集編です、物語の進みが馬鹿っ早です。しかし、これくらいの「つまみ」具合が現代ではちょうどいいかもしれません。ところで三島雅夫と英百合子が語り合うシーンで手前の扇風機にキャメラが合わせてパンするので、酔いそうでした。

2011年03月19日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-03-19