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三本指の男


■公開:1947年

■制作:東横映画、大映

■制作:牧野満男

■監督:松田定次

■原作:横溝正史

■脚本:比佐芳武

■撮影:石本秀雄

■音楽:大久保徳次郎、吉川太郎

■美術:岩野音吉

■照明:西川鶴三

■録音:加瀬久

■編集:

■主演:片岡千恵蔵

■寸評:


横溝正史の原作「本陣殺人事件」は無理心中でしたが、本作品には実行犯がいます。チャンバラ映画が作れなかった時代に、時代劇の監督が時代劇の主役を使って制作したミステリー映画です。

真犯人は誰なんでしょうか?どれなんでしょうか?どうやったんでしょうか?ドキドキしますね!ワクワクしますね!でも、そんなに期待しなくていいですよ、見どころは全然別のところにありましたから。

蒸気機関車はトンネルに入るとき窓をしめないと煙が車内に入るので大迷惑です。スーツ姿でメガネをかけている美女・原節子は、向いの席に座っている顔のでかいオッサン・片岡千恵蔵がなんとなく気になっていたのですが、トンネルにさしかかってあわてて窓を閉めようとしたとき、そのオッサンと手が触れてしまいました。

げっ!となる原節子、メガネをかけても何をしても美人なので困りますが、明らかにその顔は頭のカタイ学級委員のように引きつっています。ところがオッサン、じゃなかった片岡千恵蔵はすましています。同じ駅で降りて、同じバスに乗って、向った先も同じ田舎の旧家。「この人、ストーカー?」残念ながら違いました。そのオッサンはこの家の当主がアメリカにいたころのお友達で、名探偵の金田一耕助なのでした。

さて、なんで原節子がこの家に来たかというと理由は2つ。女学校時代の同級生・風見章子は小さい頃に両親が亡くなったので、この家の養女になっていました。義理のお父さん・三津田健とお母さん・松浦築枝はとても優しくて風見章子を大切に育てていました。その彼女の婚礼が明日行なわれるのです。

嫁ぎ先は村で最も格式の高い本陣の跡継ぎ息子・小堀明男。彼の母親で未亡人の杉村春子は三津田健の家が元は小作人で農地解放の成り上がり者だと思っているのでそんな家から嫁を迎えるのは、とても惨めな気持ちなのでイヤでした。唯一の救いは、小堀明男は進歩的な考え方の人なので別に気にしてないし、風見章子のことが好きでした。

原節子にはもう一つ気になることがありました。昔、風見章子に勝手に惚れていたらしい近所の学生が復員してきたのですが、顔が傷だらけでおまけに片手の指が3本になっていました。その、気の毒で不気味な姿もビックリでしたが、彼が風見章子が婚約したことを知っていたからです。なんか胸騒ぎがしたので原節子はそのことを風見章子に知らせに来たのでした。

本陣に二人の結婚を誹謗中傷する手紙が届きます。気にする杉村春子、気にしない小堀明男。しかし次の手紙はこともあろうに風見章子が「処女じゃない」という内容でした。これにはさすがの小堀明男もイラっとしますが信じません。ちょうどその頃、村に顔に大きな傷のある三本指の顔がデカイ男が現れます。風見章子の家の近所をうろついているのを原節子が目撃するのですが、片岡千恵蔵に「メガネの度が合わないんじゃね?」と馬鹿にされて、カチン!と来ます。

婚礼の夜、不気味な叫び声と琴の音が本陣のはなれから聞こえてきたので、駆けつけると小堀明男と風見章子は刺身包丁で刺されて死んでいました。凶器は庭の石灯籠の横に刺さっていて、殺害現場は完全に密室です。

さていよいよ警察・宮口精二も一目置く、名探偵の登場です。

金田一耕助は原節子を助手だと紹介します。原節子は「なんでこんなオッサンに助手呼ばわりされなきゃなんないのよ!」とは思いましたが、親友の敵討ちの気持ち半分、聡明で好奇心旺盛な性格が半分で、琴糸を使ったトリックの解明に協力します。

「・・・というのが犯人の考える筋書きだが、しかし!」と原作を否定する片岡千恵蔵。本陣の古い記録に記載されていたはずの、屋敷のカラクリを、インスピレーションで見破る原節子。お!やるじゃん!ただのメガネっ娘じゃなかったのね!さて、犯人は?杉村春子でしょうか?それとも三本指の顔のでかいオッサンでしょうか?いや、だってあれはバレバレの片岡千恵蔵、じゃ?真犯人は?

結論から申し上げますと「原作よりも殺人の動機が明快かつ下世話で、犯人はショボイけれどもわかりやすい人」でした。

原作によれば「花嫁が処女じゃないことに絶望した!」なので、気持ちはわかるが、やりすぎってもんだろう?と現代では思われますので、本作品のオチのほうが妥当な動機だと言えます。要するに、本作品の見どころは犯人探しでもなければ、グロテスクな仕掛けの実演でもなければ、ましてや金田一耕助のスマートな推理でもないのです。

原節子です。「原節子にメガネをかけさせること」これがこの映画のすべてです。

そのヘンテコメガネをかけさせられた原節子ですが、最後の最後にサービスカットがありました。原節子がメガネを外した理由は片岡千恵蔵に「メガネをとったほうが美人」だと言われたからです。御大のお願いですから、ゲストの原節子も素直にいつもの美人に戻ります。

列車の行きと帰りでガラリと変わる演出は、単純で馬鹿馬鹿しいのですが、いいんです、客は原節子を見に来ているのですから。推理映画としてはショッパイですが、客の見たいものをちゃんと見せてくれる映画なのでした。さすが、松田定次だったということにしておきましょう。

2011年03月06日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-03-19