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美徳のよろめき


■公開:1957年

■制作:日活

■制作:大塚和

■監督:中平康

■原作:三島由紀夫

■脚本:新藤兼人

■撮影:岩佐一泉

■音楽:黛敏郎

■美術:松山崇

■照明:藤林甲

■録音:神谷正和

■編集:辻井正則

■主演:月丘夢路

■寸評:


よろめきドラマというジャンルがかつて、この日本国にはありました。要するにですね、昼メロってヤツですよ。

セレブのお嬢様・月丘夢路は超美人です。親御さん・千田是也にちやほやされて育ったわりには高飛車でなく、さりとておしとやかでもなく、非行に走ることもなく、今ではサラリーマン・三國連太郎と結婚して子ども・青砥方比呂もいます。

月丘夢路には結婚前から恋人・葉山良二がいて、つまり元彼です。元彼は月丘夢路のことが忘れられないのですが、再び付き合い始めても強引に身体を奪うとかそういうのはなくて、いつも悶々としています。三國連太郎が暴力的に怖いのではないか?とも思われますが、所詮コイツは避暑地でテニス、当時は木ラケ、とかしちゃうボンボンなのでじれったいったらありゃあしません。

正しいよろめきドラマとは、毎回毎回、お嬢様の貞操のピーンチ!とか激しいものではありません。

お嬢様には同じセレブでありながらヴァンプなお友達・宮城千賀子がいます。彼女はパリっとして颯爽としていてまるで宝塚の男役のようです。実際そうですが。宮城千賀子は月丘夢路と違って数々のメンズと浮名を流すプレイガールですが、正直、男の趣味が余りいいとは言えません。現在、プロレスラー・安部徹とラフアフェアの最中です。

どこで何を間違えれば宮城千賀子と安部徹が恋人になれるのでしょうか?どんな事情があるのかわかりませんが、彼女にしてみれば道端に落ちていた珍獣を拾って育てた、くらいのキモチだったと思われ早くも別れたがっているわけですが、安部徹はそうは思っていません。「コイツ、実は俺にマジ惚れしていやがる・・・」と身の程知らずに思い込んでいるわけですから、素直に別れるはずがありません。

浮気の相手はよく吟味しないと。大切なことは、キレイに別れられる相手かどうかということです。自分が捨てても相手はすぐにお代わりを見つけられるようなレベルに限定しておかないと。自分を安売りしてはなりません。

葉山良二と月丘夢路はあいかわらず悶々としています。セックスとかそういう濃厚な部分はすべてイイ声のナレーター・高橋昌也によれば、彼女のイメージの中だけで進行しているのです。キレイな顔して頭ん中そっちばっかなお嬢様、きゃあっ!

さて、宮城千賀子ですがやはり別れ話のもつれから安部徹にボコボコにされて瀕死の重傷。優しいジェントルマンなご主人・信欣三は奥さんのゴシップが原因で会社を退職する羽目に陥ります。

こんなエピソードも月丘夢路にはドキドキするゲームに見えたのかもしれません。葉山良二と一緒に入ったクラブで、三國連太郎と鉢合わせしてしまった時も、焦る葉山良二を尻目に二人がおっぱじめないか?と少女漫画に出てくるような星キラキラの瞳でワクワクしながら見守ったりするのです。しかし、三國連太郎は全然、妻を疑ってもない、鈍感なタイプだったので事なきを得ます。

そろそろ潮時、月丘夢路は葉山良二とクリーンに別れます。辛く、苦しい胸のうちを、つらつらと手紙に書き記した彼女でしたが、アッサリとその手紙を破り捨てます。

で?結局、お嬢様は何なのよ?この映画が一番イラつくのは、お嬢様が常に「自分が一番」なパターンだからです。すべて他人に責任転嫁、同性から最も反感を買うタイプです。

よろめきドラマとは?女子に都合のよい男子が出てきて、女子のほうは男子の心を弄び、そのケツを拭くにも自分が犠牲にならない範囲できれいに別れましょうとかいう偽善的な理由で終了する。きっと女の広辞苑を紐解けばそのように記載されているに違いありません。

いつもの三國連太郎を知っている観客なら、確実に葉山良二の命は無いのではないか?と予想しますが、そこが一番拍子抜けでした。勝手に拍子が抜けた観客としては葉山良二よりもはるかに重大な不完全燃焼状態で映画館を後にするのです。

こういうドラマを楽しむためには、ヒロインに対して憧れとか、羨望とかを抱かないと難しいですね。ついうっかり「馬っ鹿じゃないの?」と少しでも理性が働いたら観客の負けです。そんなところで勝負してどうすんだ?

2011年03月19日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-03-19