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薔薇の標的


■公開:1972年

■制作:東京映画、東宝

■制作:貝山知弘

■監督:西村潔

■原作:

■脚本:白坂依志夫、桂千穂

■撮影:源一民

■音楽:「四季」(ヴィヴァルディ)

■美術:村木忍

■照明:今泉千仭

■録音:神蔵昇

■編集:武田勲

■主演:トビー門口(筆者推奨)

■寸評:


日本国内で日常的に実銃をぶっ放せる人は限られています。およそ警察関係者か自衛隊の人です。そんな日本で「実銃をカッコよく撃ちまくって(モデルガンでも許容範囲)銭になる商売はこれだ!」と思ったのかどうか知りませんが、日本映画の銃器発砲シーンがトビー門口によって飛躍的な進歩=ガチっぽさの加速したのは紛れも無い事実です。

ここでは敬意を表して、トビー門口をトビー先生と呼ぶことにしました。劇中、片目コンタクト(当時のコンタクトレンズを長時間装着するのはツライはず)だったのでさらに大変だったろうという、ねぎらいも込めてみました。

元オリンピックの射撃選手で、企業へ就職した後に射撃部の練習中に同僚を死なせた男・加山雄三は、警察は事故死と断定しましたが、世間は彼に「人殺し」のレッテルを貼ります。しかたなく、渡米したのですが何もかも上手く行かず失意のうちに帰国。羽田空港でそんな、アメリカ帰りでナウな髪型とワイルドなモミアゲを蓄えた加山雄三を、怪しい小柄な男・岡田英次がじっと見詰めていました。傍らにはトビー先生がシッカリと寄り添って・・・

ああ、やっぱりここでも岡田英次はホモ(東映の映画みたいに?)なのか?違います、これは東宝(東京映画)ですから、インテリを眼の敵にするようなことはありません。岡田英次はクールな理想主義者でした。

彼はナチスドイツの再興を目指して、健全な青年を洗脳する団体の極東支部長なのでした。なんじゃそりゃ?とは思いますが、岡田英次の知的で根拠のなさそうな自信満々な態度を見ているとそんな気もしてきます。

彼の片腕である銃器の専門家・トビー先生は、かつては射撃の名手=殺し屋でしたが、事故で片目の視力を失ってしまい、遠くのものが良く見えなくなり、現役を引退して悶々としていたのでした。岡田英次は彼の後釜としてフーテン同然の加山雄三をスカウトします。とりあえず、食う寝るところに困らないし、銃は撃ち放題のようなので、加山雄三は山の中にある、怪しげな施設で毎日、銃の練習に励みます。

そのころ、カメラマン志望の女・チェン・チェンが、ニュースカメラマン・ロルフ・ジェサー(ジュッサー)と一緒に偶然その施設の前を通りかかってしまいます。ちょうど、脱走した青年が軍用犬(ジャーマンシェパード)と兵隊の格好をした青年たちに捕獲されて連れ戻されるところでした。施設を撮影したロルフ・ジェサーは香港で何者かに暗殺されます。

撃ったのは岡田英次とトビー先生の親身の指導により立派な暗殺マシンになった加山雄三でした。銃を構えるシーンの「らしさ」を含めて、加山雄三には素晴らしいトビー先生がつきっきりですから、ろくに口なんか効かなくても、どう考えても柄にあわない役どころでも、本作品を見ている観客が抱く加山雄三に対する違和感は、射撃シーンのマニアックさがすべてをチャラにしています。

チェン・チェンは恩人の死の真相を探ろうと単身で施設へ。当然ですがすでにトビー先生に面が割れているので、洗脳部隊(二瓶正也松田優作を含みます)に捕らえられて殺されそうになりますが、加山雄三はなんとなく彼女に引け目を感じているので助けに入ります。気に入らないトビー先生でしたが、上司の岡田英次が、許してしまったのでそれ以上、手が出せません。

加山雄三はチェン・チェンを彼のオンボロアパートに保護します。ようするに、この、謎の団体は男子校の寮みたいに集団生活がマストなのですが彼は特別扱いです。トビー先生が嫉妬するはずです。その夜、チェン・チェンと加山雄三は結ばれますが、このバックに流れるのが機関車の走行シーンです。

ピストン運動ってことですか?それとも、破滅に向って一直線に突っ走る働く機械を象徴でしょうか?相変わらず、西村潔のセックス場面はワケわかりませんが。

さて、岡田英次は施設の存在を表沙汰にしたくないのでロルフ・ジェサーが撮影したマイクロフィルムを持ってくるようにチェン・チェンに指示します。そうすれば加山雄三を解放してやろうというのです。ウソに決まってんだろうが!とは思いますがそれでは映画になりません。加山雄三はターゲットを指示されて、トビー先生の監視のもとでロックオン、男装していましたが、それは取引場所へ来たチェン・チェンでした。

あ!っと思ったときには加山雄三は引き金を引いてしまいました。「獲物を見たらそれが誰でも、撃っちゃう性質なんだよ、オマエは!」とあからさまにトビー先生に言われた加山雄三はブチ切れて、トビー先生を撲殺してしまいます。川に叩き込まれた瀕死のトビー先生に銃を乱射する加山雄三。

ここでもトビー先生のエフェクトがいいです。かねてより、撃たれた人間の身体から火薬の煙があがるのは不自然だと思っていたのですが、それは弾着の仕掛け上しようがないとして、水面ギリでトビー先生の身体から無慈悲に血飛沫が上がるところが渋いです。

こんだけ騒ぎを起こしてしまえば、日本警察や国際警察も黙っていません。組織お抱えの精神科の医師と家族をカモフラージュに使っていましたが、それも通用しないようです。岡田英次と兵隊たちは施設を逃げ出します。医師が岡田英次の裏切りを知って騒ぎますが、あっという間に殺され、ご丁寧にも岡田英次の外国者によって轢かれてしまいトドメをさされます。

いよいよ加山雄三と岡田英次の一騎打ちです。岡田英次の姿が見えません、小柄だから?違います、加山雄三の身体から血飛沫があがります。スローモーションです。

サム・ペキンパーの「ワイルド・バンチ」みたいですが、倒れた加山雄三のジーパンの裾からリード線が見えていますが、見ないようにしましょう。3発命中して虫の息の加山雄三。もう少しほっといてもどうせ死ぬのに、わざわざ姿を現わしてしまった岡田英次は瀕死の加山雄三に撃たれて死にます。

この映画のよかったところは、ガンエフェクトがかっこよかったこと。ものすごくダメなところは加山雄三に全然リアリティがなかったこと。岡田英次のほうは他の東宝ニューアクションに出た森雅之のごとく、プロっぽさといかがわしさ満載でよかったです。岡田英次のイイ声で銃の解説とかされると、それだけで艶かしい感じすらしました。

しかしなんといってもトビー先生です。ライフル片手撃ちとか、殺陣の逆手斬りみたいなハンドガンの取り扱いとか、加山雄三ですらカッコよく見えました、そこだけは。

あとは、チェン・チェンは美人でしたがフェロモン不足、惜しい人でした。あと、東映では変態外人で大事なところをぶち抜かれたりしているロルフ・ジェッサーが英語をペラペラ話すだけで(当たり前ですが)インテリに見えたのは自分でも驚きました。

2011年03月06日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-03-14