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挽歌


■公開:1957年
■制作:歌舞伎座、松竹
■制作:加賀二郎
■監督:五所平之助
■原作:原田康子
■脚本:八住利雄、由起しげ子
■撮影:瀬川順一
■音楽:芥川也寸志
■美術:久保一雄

■照明:平田光治

■録音:岡崎三千雄

■編集:長田新
■主演:森雅之
■寸評:


メロドラマで2時間超え、これは眠たい映画になるかと思いきや、意外と萌え。

北海道の釧路、戦争で外地へ行った経験のある建築家の中年男・森雅之が連れていたテリア犬が、やせっぽちでコケティッシュな少女の手にかみつきます。少女は怜子・久我美子といい、幼い頃に母親に死なれた父子家庭に育ち、家には母の代からの婆や・浦辺粂子と弟がいます。

彼女はケガがもとで左腕が不自由になったことに、強いコンプレックスを感じています。

渋くてカッコいいオジサマである森雅之ですが、知的な風貌とは裏腹に、男性的なジープを颯爽と乗り回すので、久我美子のハートは勝手にゲットされてしまいました。

彼の妻・高峰三枝子は若い学生・渡辺文雄と不倫関係のようです。でも、高峰三枝子は困っている様子、厚かましくて図々しいのは渡辺文雄です。これが逆だったらビックリしますが(しませんか?)。二人が喫茶店で会っているのを目撃した久我美子は、森雅之を誘惑しますが、反対に、彼に強引に唇を奪われてイチコロになってしまいます。

小悪魔な久我美子、今度は高峰三枝子に接近して子供のように甘えてみせ、彼女のことを「ママン」と呼び、ついには二人の間にできた娘まで手の内に入れてしまうのでした。腹黒で気色の悪いアマだな、と思いつつ、久我美子の次なる行動にハラハラ、ドキドキです。

と、このように書いてみますと「ハーレクインロマンス」や、テレビの昼メロみたいですが、そんな感じです。

図体のデカイ、男やもめの怜子の父親・斎藤達雄は、娘の将来にばかり気をとられていて再婚する気などさらさらないのかと思いきや、高杉早苗という妖艶なマダムといい感じになっていました。余裕を見せる久我美子ですが、内心は母親をないがしろにされたようでクソ面白くなさそうです。早くに母親をなくした娘の多くがそうであるように、彼女は死んだ母親を心のどこかで神格化しています。

久我美子は地元の劇団で美術係のアルバイトをしています。同じ劇団の石濱朗は現在、浪人しながら芸代受験をめざしています。彼は久我美子のことが好きですが、、オクテなのと、彼女が奔放すぎて将来が不安なため思いを告げられずにいます。久我美子も実は感ずいていますが、左腕のコンプレックスに同情されているんじゃないかと思っています。

森雅之は他の映画と違って、うなだれてばかりではなく「妻と別れて君と結婚する!」とグイグイ久我美子に迫ってきます。彼女も想定外な展開に腰が引けています。実力のある大人が本気になったら、小娘の恋愛ごっこなんて木っ端微塵です。

高峰三枝子は、妻・母・女として完璧でした。久我美子は彼女に強い憧れも抱きましたが、その素的な奥さんの亭主が自分にベタぼれであることは、心の中にドス黒い感情を抱かせました。久我美子は森雅之との深い仲を証明するアンコールワットの写真集を高峰三枝子に叩きつけました。夫婦仲を修復して森雅之をあきらめさせたかったのか?それとも、W不倫を糾弾したかったのか、かなり邪悪で乱暴な手口でありました。

高峰三枝子はある朝、自殺してしまいました。世間知らずで不自由な左腕を過大評価して自己肥大をしていた久我美子、高峰三枝子の後釜を狙ってみようかと思いましたが、残された一人娘になんと説明すればよいのでしょう?何も知らない娘を、自分と同じ、母親を早くに亡くした娘にしてしまったのは、自分なのですから。

久我美子は森雅之の前から去ります。とは言え、死ぬ度胸もなければ、自立するわけでもなく、劇団の巡業にくっついて行くだけですが。まだまだ森雅之に未練があるのか?でも、大丈夫、彼女には石濱朗がついています。幸せの青い鳥は、あなたの身近にいるものです。

さすが女性の原作です、女のイヤーな部分を増幅させてこれでもかと見せつける底意地の悪さが、世の婦女子の心にある暗黒面を刺激します。

当時の婦女子の皆様は、久我美子の奔放さに批判的な目をむけつつ、ゴージャス三枝子が不幸になるのはちょっと楽しいかもしれないので、ハラハラ、ドキドキ、ドロドロしながら本作品を堪能したのでありましょう。

そしてなんといっても最大の見せ場は、小柄な久我美子をへし折りそうな、森雅之の「炎のキス」であります。カワイイ顔してヤルことはワイルド、まるでハリウッド映画のようでありました。

異常性愛とまではいかないですが(そりゃそうだ)ファザコン、マザコン、ロリコンの三大変態要素に、熟女フェチまで加わった恋愛自由形映画。

2011年02月27日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-02-28