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姿なき目撃者


■公開:1955年
■制作:東宝
■制作:田中友幸
■監督:日高繁明
■助監督:古沢憲吾
■原作:渡辺啓助
■脚本:日高繁明
■撮影:三浦光雄
■音楽:三木鶏郎
■美術:小川一男

■照明:石川緑郎

■録音:西川善男

■編集:
■主演:山内賢(久保賢)※事実上の主役ということで
■寸評:


宝塚の男役、最近のはともかく、引退して女優になると凛として気品があったと。その、男役のトップスタアが火花を散らすのでありますから、そらもう、周りの男ども、影が薄いのなんのって。特に彼、東宝のニューフェースの彼!あんたのせいで子供が死にかけたんだからね!

土建屋の社長夫人・久慈あさみは、キザでチビで女ったらしのダンス教師・徳大寺伸と自宅で堂々と浮気の日々。デカくて押しの強い旦那・進藤英太郎とは真逆のタイプにゾッコンの奥様でしたが、その間男はなぜか、その家の使用人・越路吹雪とワケありの様子。

はい、もうお分かりですね?徳大寺伸はコーちゃん(越路吹雪のヅカ時代のニックネーム)とも肉体関係あり、つまり久慈あさみと三角関係ということです。

で、このダンス教師ってのがフニャフニャで、オネエ言葉だったりするので、久慈あさみと越路吹雪ともあろう者が、なんであんな女の腐ったような男に惚れるんだ?と、賛同できない方も大勢おられましょうが、ま、そこはひとつ、ご寛恕願います。

さて、この奥様の邸宅のお隣にはカメラ大好き、お家の犬に子犬が生まれれば早速その愛らしい授乳風景を撮影しようと本格的な三脚までセットしちゃうカメラ大好き少年・久保賢(山内賢)が住んでいました。当時は、カメラなんて珍しい高級品ですから、ちょいと少年、自慢の一品。ある日、越路吹雪は少年に、邸宅の二階にある井戸水をためておくタンクに潜んで、浮気の現場を激写してくれるように頼み込むのでした。

カメラのレザーケースの報酬に負けた少年は、はっきり言って渋々その、大人の爛れた恋愛を撮影して、自宅で現像し、コーちゃんに渡しました。小学生でも、それがヤバイ仕事だとすぐに分かりましたから、コーちゃんに口止めされなくても少年、他言しませんでした。

コーちゃんは進藤英太郎にその、浮気の証拠を渡します。ドスケベな愛妻家?な顔からイキナリ、ギャングのような面相に変わるのが進藤英太郎らしさです。

イキナリ現場に踏み込まれそうになって焦った徳大寺伸は、少年が隠れた井戸水タンクに隠れます、ええ、チビっこいので楽勝に隠れますとも。ところが、あっという間にそれを見破った進藤英太郎は、タンクに水をガンガン貯めてしまいます。殺すつもりなどなかったのですが、コーちゃんが、タンクが満杯になるまでポンプのスイッチをONしてしまったので、徳大寺伸は溺死します。

二人は証拠隠滅のために、彼の遺体を近所の川に捨ててしまいます。

やれやれ、と思ったのもつかの間。久慈あさみはふとしたことから、越路吹雪と徳大寺伸の過去を知ります。コーちゃんの怒りの矛先がいずれ、自分たちにも及ぶと恐れた久慈あさみと進藤英太郎。旦那さまは、夜中、コーちゃんを会社に呼び出して始末してしまおうとするのですが・・・コーちゃんは命がけで、この、壮大な復讐作戦を成功させるのでありました。

事件の証拠を写真に撮影したと言うコーちゃんの言葉を信じた、進藤英太郎と久慈あさみ、少年のカメラに残る証拠隠滅のため、土建屋ならではの荒っぽい手下に命じて少年を誘拐しようとします。

事件を担当する刑事・小泉博だけでは手数が足りないので応援にきたのが、ニューフェース(?)の若手刑事・石原忠(佐原健二)でありました、が、しかし、こいつが、まあ、好青年っていうかボンクラというか、お人よしにもほどがあるってもんですが、職務怠慢により少年を、生命の危機に再三にわたり追い込みます。おまえなんか、オッカナイ捜査主任・志村喬のこっぴどく怒られて始末書を何枚も書かされてしまえ!

チンピラに追われて多摩川べりの風鈴屋に逃げ込んだ少年、そこにはボロボロの爺さん一人、少年必死に助命嘆願、爺さんの返答はあやふや、しかし!ここ一発で少年の逃走を援助したの爺さんが高堂国典だったことをここに記しておこう、別に他意はないけど、やるときゃやるぜ。ちなみに、男優陣が総じて影が薄い中で、最も活躍し、最も達者だったのは子役の久保賢だったことも書いておきます。特に、ニューフェースの彼!見習いなさい、なくらいで。

東映の悪役としてブイブイいわせていた本性をむき出しにした進藤英太郎は、少年を殺そうと拳銃まで持ち出します。おまえ、カタギじゃねえな!しかし、この、東宝には不在の粗暴な悪党の機先を制したのは少年の身を案じて警官隊の静止をふりきった少年の母親・村瀬幸子でありました。

すべて越路吹雪の計画通り、実にスキがなく、二重三重のリスクヘッジ、理知的でシャープな復讐鬼。対する久慈あさみも最後には改心して救われます。で、少年が結局、進藤英太郎にカメラを渡さなかった理由もシッカリしてます。彼の家は母子家庭なので、カメラはお父さんの形見なのでした。少年がカッコいいお兄さんである刑事の小泉博に懐いたのも当然なのでありました。ま、小泉博なら亭主でもお父さんでも断然ステキでありますが。

タイトルの所以は、事件発覚のキッカケが、少年が母親からもらったハンカチ(当時の発音だとハンケチ)をタンクに落としたことによります。

日高繁明は都会的なセンスのストーリーテラー、アクション、サスペンス、監督作品でも理詰めな作品でありながらケレン味もタップリ、東宝の監督さんのなかで、最も過小評価されている一人かも。

2011年01月30日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-01-30