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山の彼方に


■公開:1950年

■制作:東宝

■制作:

■監督:千葉泰樹

■原作:石坂洋次郎

■脚本:井出俊郎

■撮影:鈴木博

■音楽:

■美術:

■照明:

■録音:

■編集:

■主演:池部良

■寸評:

ネタバレあります。


戦争中、この田舎の学校では生徒が半強制的に予科練へ行かされたため、敗戦を経て、青春の貴重な時間を損したと、しかもそれは自分の意志ではなかったということで、今では上級生になっている生徒たちは、予科練に行かされる前に戦争が終わってしまった下級生に対してたびたび暴力を振るいます。

国策に沿って、生徒を送り出した後に、敗戦で価値観がひっくり返ったうしろめたさがあるせいか、教師達・千秋實(千秋実)、江見渉(江見俊太郎)、田中春男らは上級生達には何も言えません。寒鮒(エラが張っているから、らしい)とあだ名される教師の池部良もなんとなく無気力です。上級生の無理やりな言いがかり的な暴力を黙って見ていた所を、洋裁学校の先生・角梨枝子に目撃された池部良は、彼女から不甲斐ないと非難されてしまいました。

角梨枝子は頑固な靴職人・河村惣吉が所有している家を借りて、母親・瀧花久子、弟・井上大助と一緒に住んでいますが、近代的なファッションセンス、主にターバンとかパンツルックとか、旺盛な自立心の角梨枝子のことがいちいち気に入らない河村惣吉は「娘が結婚するので家族が増える」という大家さんの常套句を使って一家を追い出すつもりらしいのです。

池部良は下宿先のご夫婦・藤原釜足飯田蝶子から、彼を慕って毎日遊びに来る生徒たちへの茶菓子代がもったいないから、倹約するように勧められます。子供が大好きな池部良がその意見具申をスルーすると、せめて茶菓子のグレードを設定してみてはどうか?と飯田蝶子はリベラルな提案をしてくれますが、敗戦後間もなくで食糧事情も悪いので腹ペコ生徒には惜しみなくお菓子を出しちゃう池部良、そして文句ブーブー顔しつつもそれを運んでくれる飯田蝶子でありました。

角梨枝子の家に復員してきた若い将校・堀雄二が訪ねてきました。堀雄二によると未だに復員していない角梨枝子のお父さんが元気なこと、ついては鼻っ柱の強い角梨枝子と結婚してくれないか?と頼まれていることを報告に来たのでした。

悪い人じゃなさそうだけど、親の決めた相手と結婚するなんて、古い価値観よね、とやんわり拒否られた堀雄二。

洋裁学校の生徒たち・若山セツ子島崎雪子たちは先生を追い出さないように河村惣吉に団体交渉することにしました。泣き虫だけど優しい若山セツ子を堀雄二に紹介した井上大助でしたが、オクテの堀雄二に対して若山セツ子はかなり積極的、団体交渉の陣頭指揮を堀雄二に依頼したのでした。

上級生の暴力が日増しにエスカレートしてきて、説教(脅しに近い説諭)から繰り出される鉄拳制裁から、今では、因縁つけてカツアゲまでやらかす始末、これはもう立派な犯罪のレベルです。

上級生のリーダー・小高まさるの姉・相馬千恵子は、池部良のことが好きでしたが自分の職業が女給なのでイマイチ積極的になれません。それどころか、田中春男が角梨枝子に書いたラブレターが上級生の餌食となり、軟弱だと非難された田中春男を庇って池部良が書いたことになっていたので、すっかり失恋気分の相馬千恵子でありました。

若いプリプリの女子たちに団体交渉された河村惣吉は、彼女達から熱心に慕われる角梨枝子を見直し、女所帯は苦しいだろうと家賃半額で、賃貸契約の継続を約束してくれました。

ナイスだぜ!「三等重役」じゃなかった河村惣吉、昔の大人はこうでなくちゃ!自分の価値観をもち、イキイキとよい仕事をして、他人の意見に反省もできる、そしてすぐに行動に移せる、つくづくこういう大人になりたいものであります。

下級生たちは上級生の暴力に反抗することを決意します。体格差は大人と子供ですが、数では圧倒的に下級生のほうが多いのです。上級生達に集団で襲いかかる下級生軍団。タイマンなら勝負になりませんが、タイマンも相手が10人20人の単位では上級生のスタミナが切れてきます。下級生に勝機が見えた頃に、ゴロツキしている不登校な上級生・中山豊らが凶器(とはいえ棒きれですが)持参で助っ人にやって来ます。見かねた田中春男が下級生に助っ人します。

大乱闘は終わる気配がありません。仲裁する大人もいません。年長の下級生も参加してしまいますます規模が大きくなってきます。肉弾戦に疲れてきたらついに河原の投石合戦が始まり、このままでは確実に負傷者、重傷者、へたすれば死者まで出そうです。

いつまでウダウダ悩んでんだよ!良ちゃん!ポマードばっちりのヘアスタイルくちゃくちゃにして迷ってる場合じゃないだろ!行け!良ちゃん!

暴力に暴力で対抗していても問題は解決しないこと、それは戦争で骨身にしみたこと、良ちゃんは必死に説得しました。結果、上級生も下級生も反省し、総括し、お互いに「学校のお友達」であることを再認識して許しあったのでした。

良ちゃんったらまた「青い山脈」みたいに生徒の役なの?と思ったら「生徒にしちゃ老けてる」「生徒にしちゃマセてる」と角梨枝子に面と向かって嫌味を言われてしまったのでした。

「青い山脈」と同じような悩める青年の池部良ですが、乱闘を制止する熱血な台詞まで棒読みなのはそれはそれでステキだったので許します、ていうか良ちゃんだから婦女子は何をしても、何をされても許すのであります。

世界が「サザエさん」の世代なので、井上大助のこまっしゃくれ加減が完璧にカツオです。堀雄二が本当に垢抜けないので井上大助が若山セツ子との恋をサポートしてあげる、手旗信号もなかなかユニークでステキでした。

ところで河原の大乱闘ですが、下級生は本当に子役なので遠慮なしですけど、すでにイイトシこいてる上級生の俳優たちはさぞや大変だったことでしょうね。二人三人ぶら下がられて、投げ飛ばしつつも怪我させないように、でも早く動かないと迫力出ないし、ある意味、憎まれ役ではありましたが本当に気の毒な設定でもあり、別の気苦労も多くて最後は心から同情しちゃいました。

価値観のギャップを乗り越えるためには、互いに相手を認め合うこと、許しあうこと、許す勇気が重要なんだと、不変的な心理ですが、実行するのはなかなか難しいのですね、何時の時代でも。

2011年11月06日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-11-06