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歌舞伎十八番「鳴神」美女と怪竜


■公開:1955年

■制作:近代映画協会、東映

■制作:糸屋寿雄、山田典吾、大森康正

■監督:吉村公三郎

■原作:

■脚本:新藤兼人

■撮影:宮島義勇

■音楽:伊福部昭

■美術:丸茂孝

■照明:和多田弘

■録音:東城絹児郎

■編集:

■主演:河原崎長十郎

■寸評:

ネタバレあります。


江戸時代、芝居小屋で歌舞伎「鳴神」が上演されています。場は、帝の御前で舞踏が披露されているところ。そこへ、花道から、日照りにあえぐ農民達が雨を降らせて欲しいと朝廷に懇願しに来ました。

ここから先は昔々のお話。

ながいこと雨が降らなかったので飢饉に見舞われた農民たちが大挙して御所へ押しかけてきました。ビックリする御所の人々、兵士たちが門を閉ざしてなんとかパニックは免れたようです。

それもこれも、三条天皇に世継ぎの男子が授かるように祈祷を依頼した鳴神上人・河原崎長十郎が、クソ寒い中で水ごりをしたおかげで、無事に男の子が産まれたのが事の発端です。関白基経・嵐芳三郎が成功報酬として約束した戒檀堂の建立が果たされなかったのにキレた鳴神上人が、雨を降らせてくれる全国の竜神を鳴神上人が腹いせに滝つぼへ封印してしまったので、雨が一滴も降らなくなったのです。

抗議に来た鳴神上人に、朝廷に仕えていたイケメンの文屋豊秀・東千代之介は「確かに発注しましたよ」と回答しましたが、そこへ現れたのは現在冷や飯食いの公家、早雲王子・河原崎国太郎。「上人の戒壇堂を建立したら、比叡山の僧侶が妬んでブチギレるから発注を止めた」と証言したため、鳴神上人は「そんならいいもんね、雨降らせないもんね!」と捨て台詞を残して去って行きました。

いや、これは困った、朝廷が約束を反故にしたのでこのまま猛暑と日照りが続くと困る。かと言って、比叡山の僧侶のボス・吉田義夫にこの一件が知れてしまった(チクったのは河原崎国太郎)ので、朝廷が鳴神上人をエコヒイキしないように大勢の僧兵を引き連れて御所へ押しかけた彼らの圧力も怖い。さらに、吉田義夫の顔はもっと怖い。

ていうか、比叡山の僧侶をけしかけて朝廷と関白を困らせようとしている早雲王子が実は一番の困ったヤツ。自分の出世が叶わなかったからって、男のジェラシーって始末に負えません。

場当たり的な関白の対応が裏目に出た結果、なんとか双方の顔も立てねばならず、それならば難解な古文書を読み解いて鳴神上人の怒りを納めようということになりました。

早雲王子は阿部清明・高松錦之助を呼び出しますが解明できません。そこで、新たに御所へ呼び出されたのは絶世の美女を評判で、しかも東千代之介と小野春風・片岡栄二郎の両方がラブラブなくものたえま姫・乙羽信子

知恵者として朝廷のブレーンを自認している阿部清明は「けっ!女なんかに読めるもんか!」と馬鹿にしますし、彼を推薦した早雲王子も「ふんっ!生意気な!性悪女めっ!」とハラスメントしますが、当のたえまの姫はヘラヘラしています。それもそのはず、彼女は知恵のある侍女・河原崎しづ江の入れ知恵があったのです。

乙羽信子は「上手く雨が降ったら東千代之介と結婚させてね!」と関白にオネダリ、で、関白はまたもや安請け合い。

内心ニッコリの東千代之介ですが、片岡栄二郎がガックリです。

古文書を預かった乙羽信子でしたが、鳴神上人のところへ行く途中でなんと、大事な書物を捨ててしまいます。

そうです!河原崎しづ江が授けた知恵というのは「お色気大作戦・チェリーボーイを陥落」でした。

幼い頃から修行にあけくれていた、だから男女の産み分けや竜神のコントロールができる能力者なのですが、鳴神上人は女生とセックスしたことがない、ていうか女っ気がその人生においてほとんど無いという情報を得ていた河原崎しづ江は、乙羽信子の美貌と侍女たちのセクシーダンスで必ずや鳴神上人が陥落できると言うのです。

きゃーきゃー!あんなゴツイ顔して童貞なんだって!イイトシこいてチェリーボーイだって!

鳴神上人が竜神を封じ込めている滝つぼの傍まで来た乙羽信子、そして肉体派の侍女・浦里はるみ、美人の侍女・日高澄子はまず手始めに上人の身の回りの世話をする坊主・殿山泰司市川祥之助をおびき出して、スケスケの衣装でセクシーダンスを踊り、酒を振舞って寝入らせました。

いよいよ鳴神上人と乙羽信子の対決です。女子のおみ足なんて不浄な物に心を奪われるものか!と抵抗する鳴神上人ですが、着物の裾をまくってチラ見せする乙羽信子の足に下半身を直撃されてしまいます。身の上話をしているうちに気分が悪くなったからと身体をさすって欲しいという乙羽信子のミエミエのお誘いにも応じてしまう鳴神上人。

色香に迷った鳴神上人は、それでもなかなか陥落しませんでしたが、乙羽信子が滝つぼに身を投じようとするのを止めたついでにオッパイにタッチしてしまい、ついに昇天、失神してしまいました。

そのスキに、竜神を封じた注連縄がはってある木にスルスルと登った乙羽信子(本人がささっとやります)は口にくわえた小太刀で注連縄をバッサリ切断、ついに封じ込められていた竜神たちが天に上り雨が降るのでした。

恋に迷うと神通力が低下するのは、西の魔女も東の鳴神上人も同じことのようです。それが証拠に、乙羽信子にドキドキするたびに竜神が水面に浮かんできて逃げようとするのですから。

そして場面は再び舞台へ。

あんな女の色気に迷うなんてこっぱずかしいったらありゃしない!ヤケになった鳴神上人が超人的なパワーで岩石を千切っては投げ、千切っては投げ(一部が客席に落下)して大暴れした後、もっと修行しないとダメだわ!ということで人里離れた山奥へ逃げていってしまいましたとさ。

歌舞伎の芝居場面はあくまでも様式の通り、SFな部分は現代語も織り交ぜてわかりやすく、お色気と大真面目なゆえに笑える河原崎長十郎の芝居がとにかく楽しい作品でした。

なんだか途中で乙羽信子がヒドイ人に見えてきます。そういえば最初のほうで河原崎国太郎が「女なんて性悪なんだから!」と言い放つのも楽しいクスグリです、だって国太郎は女形ですから。そういえば、凛々しい男役の国太郎が見れるんですね、本作品は。

しかし、鳴神上人、かわいそう。ていうか、ヤルべきことを、ヤルべき年齢までに、ヤッておかないと大人になってヒドイ目に遭うぞという教訓なのかも、麻疹とかおたふく風邪とか初体験は。

ちなみに竜神は出てきますがハリボテ感満載です。ここが、舞台と映画をツギハギにしている本作品では、それなりに納得して面白く観られるというのも上手い仕掛けでした。

2011年11月06日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-11-06