鬼火 |
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■公開:1956年 ■制作:東宝 ■制作:佐藤一郎 ■監督:千葉泰樹 ■原作:吉屋信子 ■脚本:菊島隆三 ■撮影:山田一夫 ■音楽:伊福部昭 ■美術:中古智 ■照明:大沼正喜 ■録音:藤好昌生 ■編集:大井英史 ■主演:加東大介 ■寸評: ネタバレあります。 |
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なんという恐ろしい映画でしょうか。 冴えないガスの集金人・加東大介は夏の盛りの真昼間、アイスキャンデー売りのオジサン・佐田豊からアイス買ってぺろぺろかじりながら、ある家にやって来ました。 勝手口が開けっ放しで、台所にお財布も置きっぱなし、なんという無防備な家だろうかと加東大介があきれていると、つい財布をネコババしようかと思いましたがそんなつまらない事で職を棒に振っては元も子もありません。そこへその家の主婦・中北千枝子が帰ってきました、彼は無事に集金に成功し、押し売り・広瀬正一を追っ払ったお礼にとタバコをもらってチョット得した気分。 良い事をすると、良い事があるな、加東大介は社会福祉士の家へ向かいます。 そこの主人・中村伸郎は社会的地位がありながら女中・中田康子を真昼間から抱いていました。おまけに、偶然その現場を目撃した加東大介を、恥ずかしさもあいまって中村伸郎は面罵しました。心の中でコンチクショウと思った加東大介でしたが、集金もできずにほうほうの体で逃げ出しました。 しかし翌日、あやうく踏み倒されそうになったガス代も、その家の妻がいたので、亭主は狼狽、女中はもっと狼狽して、加東大介は浮気をバラすぞ!と暗に脅して無事に集金できました。 悪いことをすると、悪いことが起きるな、加東大介は思いました。 ガス代がたまりにたまっている家がありましたが、途中で出会った同僚の集金人・堺左千夫によると、この家の主人・宮口精二は長の患いで金がない、奥さん・津島恵子は看病で働きにも出れないから集金は無理だろうとのことでした。 しかし、そうもいきません。自分の持ち場になったからには未納のままでは困ります。加東大介が訪ねてみると長く人の出入りもないらしく、玄関先までの道は草ボウボウ、浴衣に細紐の津島恵子はみすぼらしい姿でしたがなかなかの美人でした。 宮口精二はカリエスで寝たきりなので薬を煎じるためにガスを止められると困るという津島恵子。加東大介はかねてより「ガス代のかわりに、女性の身体で支払ってもらった」という武勇伝を堺左千夫から聞いていましたから、俺もそういう美味しい目に遭いたいものだと思っていたので、加東大介は津島恵子に大人の取引を持ちかけました。 津島恵子はいやいやながらも承諾、加東大介の家を訪ねる約束をさせられました。女日照りで独身の加東大介は下宿のおばさん・清川玉枝に冷やかされつつ上寿司二人前をデリバリーしてもらい、野心満々で津島恵子を待っていました。 加東大介の妄想では、元水商売だった津島恵子がいい着物を着て現れ、実は自分に気があって、こんな美女にお酌してもらって幸せ一杯!だったのですが、現実はそうはいきません。夫の帯を借りて来た津島恵子はあいかわらずみすぼらしいままでした。しかし、貞淑な津島恵子は、加東大介が伝票をごまかしてくれることを確認すると、下宿を飛び出して帰ってしまいました。清川玉枝に上寿司をパクパク食われて、ふてくされる加東大介でありました。 翌日の昼、男のメンツを潰された加東大介が、プンプン怒りながら津島恵子の家を訪ねると、人の気配がしません。家の中は真っ暗で、ガスコンロの炎だけがまるで鬼火のようにチロチロと燃えています。 ガス代がもったないじゃないか!さらにプンプン怒った加東大介が家の中に上がりこんで見たものは、宮口精二の遺体でした。腰をぬかした加東大介が台所へ転がり落ちるように逃げると、そこでは津島恵子が首をくくって息絶えていました。 錯乱した加東大介は、集金伝票が散乱するのを気にとめる余裕もなく「堪忍してくれ!堪忍してくれ!」と叫びながら逃げ出しました。 加東大介が二度目に来たときは確かに昼間で明るかったのに、飛び出したときは真夜中。ひょっとしたら、あの夫婦は最初に加東大介がやって来たときからすでに、この世の人たちではなかったのかもしれません。 庶民的で下世話でコミカルな加東大介の陽気な芝居に完全に騙されてしまいました。油断してたらラストは「浅茅が宿」もビックリの怪奇映画なのでした。 (2011年10月30日 ) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2011-10-30