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愛情の決算


■公開:1956年
■制作:東宝
■制作:藤本真澄、宇佐美仁
■監督:佐分利信
■助監督:
■原作:今日出海
■脚本:井手俊郎
■撮影:山田一夫
■音楽:団伊玖磨
■美術:北猛夫

■照明:石井長四郎

■録音:宮崎正信

■編集:
■主演:佐分利信
■寸評:


困った映画であります。面白いのか、面白くないのか、オチが何なのか、さっぱりわからないからであります。

戦後10年、冴えない親父・佐分利信は、会社で歳若い上司・土屋嘉男にこき使われている毎日ですが、本日は息子・渋沢準の誕生日だったので二人で銀座のレストランで食事をしていると、外出中の妻・原節子の姿を見かけました。

その夜、原節子は夫に別れ話を持ち出すのでありました。

話はここから、ぐぐっと過去へ。

戦争中、フィリピンで終戦を迎えた佐分利信には部下がいました。元警官・田中春男をはじめ、器用で如才ない小林桂樹、学生・三船敏郎(え?ええっ?)、現地人の畑から食糧をかっぱらってくる役の堺左千夫、それに千葉一郎、画家・内田良平は病気ですがろくに手当てが受けられずに死んでしまいました。

戦後、内田良平の一周忌、彼の妻・原節子には小さな子供がいました。小林桂樹と三船敏郎の発案により、戦後は無事に就職したらしい佐分利信と、原節子は再婚することにしました。息子は最初はなかなかお父さんとは呼べない、お母さんベッタリの子供でしたが、佐分利信は、部下を死なせた責任感もあって特に何も言いませんでした。

ようするに、佐分利信が何を考えているのかよく分からないタイプであり、見た目の通りに頑固であり、戦後は就職難の時代になんとか下世話な出版社に就職したものの、たまたま足を怪我したのを理由にあっさり解雇され、長く療養生活をしなければならず、おまけに、厚かましくて、暑苦しくて、見苦しいデブの千葉一郎が、故郷で食い詰めて佐分利の家に妻子を連れて転がり込んできてしまったのを断れなかったのがすべての原因です。

三船敏郎はどうやらイイトコ子だったのでお父さんのツテなど使って、原節子に就職先の斡旋をしてくれます。同時に、闇屋で財を成した小林桂樹は愛人・藤間紫に料理屋を出させています。彼の紹介で、佐分利信も再就職ができました。

やれやれ一安心と思いきや。学生にしてはいやに老けてますが、労務者のような分厚い胸板(いや、本当にかなりすごい)でカッコいい三船敏郎は、実は原節子のことが前から好きでした。原節子も三船のことを弟のように思っていたのですが、大手新聞社に就職してますますエリートになって自信もついてきた三船敏郎が、かなり好きになってしまうのでした。

終戦時点では、ほとんどすべての、落ちぶれてしまった日本の男子ですが、復興に際しては凸凹がはっきりしてくるわけで、商魂たくましく自由経済の波に上手く乗っかれた小林桂樹、スタートラインが違う三船敏郎、田舎者のヴァイタリティ丸出しの千葉一郎、戦中も戦後も盗みを働いて警察に捕まってしまった堺左千夫、不器用だけど堅実タイプの田中春男、みなそれぞれ戦後を生きている中で、佐分利信だけは床の間に鉄兜飾って戦時中の青春にすがって、しかも妻の収入をアテにする惨めな生活。

原節子が三船敏郎のもとへ走るのをうっかりみてしまった息子は、誰に頼ればいいのか本能的に分かっているのでイキナリ、佐分利信のことを「お父さん!」と呼んで懐くのでした。

妻に対抗して、佐分利信も会社の事務員の子に、オシリタッチしたりなんかして、それなりに回春を試みますがすでに爺さん、その娘の寿退社を苦々しく見送るしかないのでした。

冒頭、銀座で原節子と一緒にいたのは三船でした。原節子は息子を連れて家を出ようとしますが、彼はすでに母親が自分の物ではないことを知り、佐分利信のもとへ残るのでした。夜の電車で、昔のご近所さん・賀原夏子が冴えない亭主と一緒にいるところを見た原節子、さて、彼女は次の駅で電車を降りるのでしょうか?それとも、このまま三船のところへ走るのでしょうか?

映画はあまり判然としないところで終わりますが、やっぱ戻ったんだろうなあと思われます。

戦争中は男の子みたいな孤児だった八千草薫が、ロリコンの小林桂樹の手によって美しく成長した後、三船敏郎に淡い恋心を抱くのですがこっちが成就してるか、しそうであれば判断しやすいのですが、三船が佐分利信に離婚を迫りに行くくらい原節子にゾッコンなので、ああややこしい。

ことほどさように、女性から見ても映画のオチ、つまり原節子の心情は難解です。安手のメロドラマのようでもあり、母と女との間で揺れ動く立場の難しさ、結局、どっちにも幸せというのは無いように思えるので、ここはひとつ原点に立ち返りましょう。原節子は「芸術家の亡夫・内田良平のことを尊敬していた」という視点で読み解くと、溺愛する息子の将来を考えて佐分利信のもとへ戻った、というのが映画としては妥当かと。

ただこの判断基準では、原節子にとっては内田良平と三船敏郎と、最終的にどっちに軍配があがったか?が、はっきりしないので悩ましいわけです。どっちにせよ佐分利信という選択はゼッタイにありえないので、彼としては事態は何も好転しないオチであったと言うことは衆目の一致するところと思われます。

さて、中丸忠雄の仕出しウォッチングですが、そんなこと誰も気にしてませんか?気にしましょう!

登場シーンは大きく4つ。佐分利信の現勤務先で電話かけてる人、佐分利信と息子が入ったレストランの客(横向きのみ)、三船敏郎と原節子がデートしてるとき後方で靴磨きの客(後姿のみ)、寿退社の同僚を見送る人(中島春雄先輩も一緒)、以上。

2011年01月23日

【追記】

※本文中敬称略


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file updated : 2011-01-23