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自動車泥棒


■公開:1964年
■制作:東宝
■制作:森田信、馬場和夫
■監督:和田嘉訓
■助監督:
■原作:
■脚本:和田嘉訓
■撮影:福沢康道
■音楽:武満徹
■美術:北猛夫

■照明:平野清久

■録音:斎藤昭

■編集:池田美千子
■主演:安岡力也
■寸評:


安岡力也の「あしたのジョー」な映画。

太平洋戦争が終わって、進駐軍と日本人の女性の間に生まれた子供たちは、父親の帰国とともに孤児になってしまっていました。黒人の父親を持つ、酋長・安岡力也、ゼニガメ・上岡肇(ケン・サンダース)、それにアントニオ・フランツ・フリーデル(相場フランツ)たちはキリスト教系のホームに引き取られましたが、ここは彼らから見れば奴隷のように働かされてロクにゴハンももらえない刑務所のようなところです。

ちなみに園長先生・細川ちか子は鬼軍曹みたいで陰険そうです、もちろん、彼ら目線の話です。

少し大人の彼らを、慕っている小さい子供たち、ワラジ・田沢幸男、ゴロツキ・勝見守利たちはみんなで、施設を抜け出しては街に出て、外車の部品を少しずつ盗んでいます。彼らの夢は、ハンドメイドで車を作って海に行くこと、そこから日本を脱出することです。金持ちの高級外車からパーツを盗む理由はもうひとつあって「リペアに金がかかる」ことです。彼らにとって金持ちはほぼ全員敵です。

鬱屈していて、金も無い彼らの欲求不満の捌け口は、アフリカンなダンス(振り付け・近藤玲子)です。

「オマエの父ちゃんアメリカニグロ、そのまた父ちゃんアフリカニグロ」物凄い歌詞ですが施設の子供たちは地域の学校で、日本人の子供たちから差別とイジメに遭っています。日本人の大人のほうも、米軍基地問題の象徴として施設の子供たちを「黒んぼうは学校から締め出せ」とシュプレヒコールをあげています。

日本はおろかアメリカにも彼らの居場所はありません。そんなとき、同じ施設にいるハツコ・デビイ・シエス(真理アンヌ)が日本人の大学生・寺田農と仲良くなりますが彼は、ハツコの出自を知ると急に冷たくなったらしく、安岡力也はカンカンに怒って彼をタコ殴りにして施設へ監禁します。

ハツコは酋長と抱き合いながら、土管の中で将来の、本当にささやかな夢を一生懸命話します。しかし、そんな身の丈ほどの幸せも自分たちには得られないと、覚悟している年長の酋長は途中でツラくなってしまい、彼女を拒絶します。

このシーンが一番好きでした。真理アンヌの棒読みが聞いてるうちに、どんどん泣けてきます、酋長の気持ちがヒリヒリ伝わります。

アントニオは裕福そうな白人の夫妻・平野威馬雄に引き取られて幸せそうです。ゼニガメは犯罪に手を染めていることと、将来に絶望して施設を飛び出してしまいました。残ったのは子供たちと安岡力也と、監禁されているうちに彼らにシンパシーを抱き始めた大学生だけでした。

ついに完成した「自動車」で独立記念日の祝祭をぶっ壊した酋長。そこで、豚肉を先生たちに模して、教室に吊るして「リンチ」し、彼らは施設に別れを告げます。

安岡力也はワラジと大学生を連れて横須賀にたどり着きます。そこで米兵に化けて銀行を襲う計画です。酋長の肌の色が黒いから黒人米兵が犯人だと思うに違いない、という計画でしたが、彼を心配したワラジが車道に飛び出してしまい、自動車に轢かれそうになったのに気をとられたため、酋長は脱走兵と間違われてMPに追いかけられてしまいます。

どこにも居場所が無い疎外感に、大学生は共感したのでしょうか?完成した車とともに爆発、炎上した酋長(彼の大腿部が一瞬発見される)の死。彼は本当に死んだのでしょうか?何もかも夢だったような気がする大学生、ワラジは「酋長はアフリカへ行った」と言い張ります。

映画は夢と現実の世界へ。安岡力也は海を泳いでいます、その眼はアフリカの草原へ、白い帆を張ったヨットが走ります。これはきっと、ワラジの夢なのです。ひょっとしたら全部、夢だったんじゃないか?そんな映画でした。

人間の心の中にある差別のキモチ、臭いものにはフタ、忘れたい記憶を無理やり掘り返されたような、恥ずかしいところを覗かれているようなキモチになりました。

酋長もゼニガメもアントニオも、全編ほとんど上半身裸です。その、生々しい肉体のうねりはセクシーでもありますが、彼らの野生そのものです。この映画が、東映のああいう感じと違って、どこかクールで爽やかな印象なのは、ドラッグやセックスが出てこないからでしょう。

出自という自分たちの努力では如何ともしがたい状況を打破することが彼らの目的なので、たとえ犯罪行為であっても、そのヴァイタリティが見ているモノの心を揺さぶるのでありましょう。

ですが、映画としては散漫というかバラバラというか、粗雑な印象なのですが音楽・武満徹がバツグンに良いのです。どこか突き抜けているような、口下手な彼ら(台詞がヘタクソ、とかは言ってません、わざわざ断らなくてもいいですが)の心情を、代弁しているようです。

ゼニガメのお友達でボクサー・ジョー山中も登場します。晩飯抜かれた酋長と子供たちが、ラーメン屋のオヤジ・上田吉二郎を襲撃して、ずん胴ごとラーメンをかっぱらってみんなで食べてるシーン。安岡力也、上岡肇、フランツ・フリーデルが自然に「気のいいお兄ちゃん」なのが、なぜかホッとします。

2011年01月16日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-01-18