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グラマ島の誘惑


■公開:1959年
■制作:東京映画、東宝
■制作:滝村和応
■監督:川島雄三
■助監督:
■原作:飯沢匡
■脚本:川島雄三
■撮影:岡崎宏三
■音楽:黛敏郎
■美術:小島甚司

■照明:今泉千仭

■録音:酒井栄三

■編集:
■主演:森繁久彌
■寸評:


貴族と芸術家と慰安婦の「十五少年漂流記」。

太平洋戦争もかなり終わりの頃、日本軍が敗走を続ける南方戦線のお話。宮家の兄弟、兄・森繁久彌は海軍、弟・フランキー堺は陸軍、それぞれの将校さんです。お付の武官・桂小金治はバリバリの軍人さん。一行は外地からの帰国途中に船が撃沈されてしまい、運良く傍を通りかかった民間の船に乗せてもらい今では無人島になっているグラマ島にたどり着きます。

一緒に島に上陸したのは同じく外地で稼いでいた慰安婦たち・浪花千栄子轟夕起子桜京美左京路子春川ますみ(本作品がデビュー作)、宮城まり子八千草薫、それに報道班の淡路恵子岸田今日子、つまり女子だらけの漂流生活です。この島は戦略上「無価値」なので敵機も無視、友軍なんてとっくに撤収済、しかも島民は戦火を逃れてほぼ全員避難済。ただひとり、野生的な原住民(っつうか当時の表現だと土人)・三橋達也だけが残っていました。

彼らを運んできた船は彼らを残して島を去ってしまいますが、敵機に発見されて轟沈。宮様と慰安婦たちは帰国する手段を失います。

非常事態においても皇族は労働力としては役立たず、武官の叱咤激励で働かされた女たちの努力でなんとか日々生きていけるだけの食料は確保していました。かつて島で飼育されていた豚の生き残りが彼らの貴重なたんぱく源でしたが、計画性もない宮様はトンカツなんかバカスカ食べます。宮様なので当時の平民である慰安婦には「天子様」ですが、あまりの差別待遇に彼女達の不満はピークに達します。

インテリの岸田今日子と淡路恵子は墜落したB29から物資をかっぱらって優雅な生活をしています。「宮様なんかにくれてやる必要なし、働かざるもの食うべからず」二人は民主主義推奨派です。慰安婦たちから追放された宮様兄弟と武官は機体の残骸から拳銃を発見して、武力で慰安婦たちを制圧しようとします。

限定された「島」を舞台にしたコメディですので、なんであんな厳しい自然環境なのに女優さんたちはメイクしたまんまなのか?といった現実的な疑問は無視しましょう。それよりも女優さんたちの奮闘ぶりというか無茶やらせすぎなところが見物です。なにせ物資がありませんので春川ますみと左京路子は徐々に露出が多くなってきて期待通りのセクシーです。新東宝の「女奴隷船」みたいですが、実は本作品のほうが公開は先です。何か影響があったかもしれません。

あらかじめ予想していたとおり、八千草薫だけは終始、もんぺ姿で露出ナシでした。

さて、この映画は男優さんたちにこれといって見せ場がありません。ま、強いてあげるなら、原住民に扮した三橋達也のパンツ一丁(というか腰ミノもあったりします)にドーランで真っ黒に塗ったくった姿でしょう。東宝移籍間もないころです。ダンディ台無しです。

島にやがて民主主義が発達して合議制により様々な問題が解決されるようになります。宮様は「形式上」奉られるようになる、日本の戦後民主主義をパロった感じです。ところがみんなで協力してやっと作ったカヌーには、森繁久彌と宮城まり子だけが乗船し島を脱出してしまいます。

終戦後、上陸したアメリカ軍の将校・ハロルド・コンウェイと日系人の通訳・加藤武により、一同は無事に内地へと帰国を果たすのでした。フランキー堺は皇籍を剥奪されたので勲章目当てだった浪花千栄子はガックリです。

皇族兄の森繁久彌は一人で帰国し、妻・久慈あさみと結婚、トルコ風呂が入った風俗ビルを経営していましたが、実質上の経営者は妻のほうであり、商才のかけらもない森繁久彌と、同じくインチキな出版業に手を出して巨額赤字を出していたフランキー堺は、ビルを追い出されてしまいます。

浪花千栄子は売春が禁止されてしまったのでしかたなくかつての仲間とカフェーを経営、いまだに売春を生業としていた轟夕起子はまだ返還前の沖縄で商売しようとしますが、元売春婦は入国禁止だったので逮捕されてしまうのでした。

こすっからいヤツ、スマートなヤツが成功する戦後の日本。グラマ島での生活は不自由だったけど宮様も売春婦も芸術家も自由で平等でした。ジャーナリストだった岸田今日子は島での生活を「グラマ島の誘惑」という本にして出版、ベストセラーになります。

グラマ島に残った三橋達也と八千草薫。実は三橋達也は脱走兵だったので軍法会議を恐れて島に残ったのでした。その二人がいるはずの島で水爆実験が行なわれるらしいのです。ナイショで住んでる二人が犠牲になるかもしれません。ゴジラだって甦る危険きわまりない水爆実験です。フランキー堺と元慰安婦たちは、水爆実験反対運動を起こすことにしましたが・・・

水爆実験→ビキニ環礁→グラマ島、か。そうそう、八千草薫が「この島の裏手にはサンゴ礁がある」って言ってたしね。彼女達が島から見たキノコ雲は最初の水爆実験だったっつうことだね。本作品は第五福竜丸事件の数年後の制作。

森繁久彌のおさわりが何気にエッチでもはや職人芸の域。ちなみに宮城まり子はカヌーで脱出した後、一人で海に入っていって帰ってこなかったことになっているが、ギャレット・ハーディンの「救命ボートの倫理」を思い出してゾッとしました。ま、そこまでは考えすぎかとも思うが、宮城まり子が沖縄出身であり精神薄弱という設定、それを見捨てたのが宮様、おっとこれ以上はヤバイ妄想かな。

2011年01月10日

【追記】

※本文中敬称略


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file updated : 2011-01-10