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雪夫人絵図


■公開:1950年
■制作:滝村プロ、新東宝
■製作:滝村和男
■監督:溝口健二
■助監:
■原作:舟橋聖一
■脚色:依田義賢、舟橋和郎
■撮影:小原譲治
■音楽:早坂文雄
■美術:

■照明:

■録音:

■編集:
■主演:木暮実千代
■寸評:


木暮実千代という女優さんはジャンボなお色気で有名です。木暮実千代が身につけているとどんなに宝石でもゴージャスな着物でも「ハゲからもらったプレゼント」の香りが漂います。ようするに妖艶、爛れた大人の恋愛、そういうドロドロ感を体現できる最高の素材。そして、その極めつけが本作品だと言ってもいいんじゃないでしょうか?

いや、もう、安手のメロドラマかと思いきや、馬鹿馬鹿しくも絶倫なお嬢様がくりひろげるホラー映画と言っても可です。

元華族のお姫様、雪・木暮実千代は美人です。ものすごく色白だったのもあいまって地元では「雪夫人」と呼ばれています。そんな元領主様のお家に女中奉公することになった濱子・久我美子が本作品のもう一人の主役です。雪夫人は婿養子・柳永二郎をとりましたがコイツがまあ女癖が悪くて京都に愛人・浜田百合子を囲っています。ある日、雪夫人のお父さんが亡くなりますが、お父さんにも愛人2号、3号がいました。

雪夫人は、元書生で今では琴の先生になっている方哉・上原謙のことが好きです。上原謙も雪夫人が好きです。雪夫人は柳永二郎のことを憎んでいるはずなのですが・・・離婚はしません。ある晩、夫婦の寝室の覗いた頭の軽そうな書生・加藤春哉によると雪夫人は未だに柳永二郎と「離婚しちゃイヤ!」とか言いながらセックスしているそうです。

「だって柳永二郎とのセックスが大好きなんですもの!」って堂々と上原謙に告白する雪夫人、正直、あんた大丈夫?と言ってあげたくなります。

さて、お父さんの借金返済のためあらゆる財産を売り払いわずかに残った熱海のお屋敷で旅館を始めた雪夫人でしたが、柳永二郎は京都の愛人と、立岡・山村聡という男を連れて来ます。愛人は旅館の経営に興味津々、雪夫人にはやたらと挑戦的で下品な女です。

婆や・浦辺粂子は世間知らずな雪夫人のことが心配です。傍についている久我美子はもっとハラハラしどうしです。

しかし、雪夫人、上半身=理性は上原謙、下半身=肉欲は柳永二郎、はっきり言ってこの組み合わせは変態すぎです。せめて下半身=山村聡だったら許せます。別に許してもらわなくてもよいのですが、この設定だけでこの映画がドロドロな愛憎劇になることは明白です。

上原謙の説得もあって柳永二郎のことをキッパリと拒んだ雪夫人ですが、京都の愛人から、借金まみれを理由に旅館の経営権を要求され、山村聡と実はこの愛人がすでにデキていたという事実を聞かされボロボロの柳永二郎に迫られると、あっさりと身体を許してしまうのです。

雪夫人、イヤよイヤよも好きのうちどころの騒ぎじゃありません、オマエ馬鹿なんじゃね?つか、性欲ありすぎなんじゃね?と言ってあげたくなります。

ついに亭主の子供を妊娠してしまった雪夫人は、一晩かけて熱海の旅館から箱根の芦ノ湖にある山のホテル(上原謙が投宿しています)まで徒歩でたどりつき、ホテルのボーイ・田中春雄がちょっと目を離したスキに芦ノ湖へ身投げをしてしまうのでした。

「雪夫人のいくじなし!」と泣く久我美子。いや、君の気持ちはわかるけど、やっぱり自業自得というのが正解です。

木暮実千代が本作品で作った雪夫人のキャラクターは現代では失笑を買う場面も多いのですが、打算的な生き方のできない不幸な女性と言う点では同情しきりです。ま、あんだけ美人ならどうとでも生きられそうですが、それにしても、よく考えると「アンタがしっかりしてればこんなことにならなかったのよ!この、いくじなし!」と横っ面の二度や三度ははり倒してあげたくなるのは実は上原謙であったということです。

2011年01月02日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2011-01-02